9・素、ですよ
引っ張られるようにしてエレナとともに応接室まで向かうと、フェルトはそこのソファーで眠りこけていた。
「フェルト、様……起きて、下さい」
時折エレナに睨まれながら従来の口調に戻す。何年も使ってきてるからか、やはり自分で違和感を感じない。
「メル……、うん?もっ、かい、喋って」
「え?はい、なんでしょう?」
「…なんで口調戻ってるの」
すっと目を細め何を考えているのか分からない目で睨まれる。
せめて何かいってほしい。
「えっ、と、それは……」
エレナに頼まれたから、じゃあダメかな。ダメだろう。
ちらりとエレナを見ると、あとは私が、とばかりに張り切って説明しようとしている。
「それは、敬語こそがこの子のだからよ」
いえまぁ、確かに5歳で屋敷におり、使い慣れてるのは敬語ですが……意識したら砕けた口調も使えないことはないのですけどね。
「………………そ、っか、じゃあさ、名前は呼び捨てで敬語にしてよ」
「あっはは、落ち込んでるわねー!」
エレナは隠す素振りもなくこれをネタにすると脅している。相変わらず黒い…!
あと、妙に気落ちしているみたいだけど、どうしてだろう?
あとは…あれ、何か忘れてるような……、あ!
今の、素だって言っちゃダメだった!貴方とは距離を置きたいみたいなことを適当に言って好感度下げなきゃだった!
なんて失態だ。次こそは気をつけよう。
ん?でも落ち込んでるみたいだからもしかして成功したのか?
とりあえず、1人反省会は後でにしよう。
「ところで、フェルトは荷解き終わるの早かったですね」
「いや、終わってなくて。やり始めたんだけど、飽きたから。メル、頼んでいい?」
「頼むって……、自分のものは自分で管理しなさいよ、メルはもう使用人じゃなくて、」
「あー、分かった分かった」
「いいですよ、もともとそうなるだろうと思ってたので、大丈夫です」
フェルトの怠惰は慣れてるのだ。手伝うために早めに自分のを終わらせたのもあるので、むしろ仕事が出来て嬉しい。
フェルトの怠惰に呆れているエレナとは一旦分かれ、手続きを済ませてからフェルトの部屋についていった。