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51・向日葵です

イービン先生が、片付けは私がやりますと申し出てくれたので、それに甘えて任せることにした。


ベンチに座って、昨日の授業の復習でもするかと思い立ち、ノートを鞄から取り出して、ふと目の前の円状に括られた花壇に目をやる。


「向日葵……?」


季節外れの向日葵。今世で見かけるのは初めてかもしれない。ミニッツ家にはなかったからだ。ミニッツ家に多く植えられていたのはラベンダーだった。

前世の日本とこの世界の植生が同じとは限りないのだけど、ゲーム内で植生が違うなんて記述はなかったし、違うことの方がないだろう。前世、日本の感覚でいったら今の季節は春なのだからこの世界でも季節外れなはずだ。


「あぁ、その向日葵、気になりますか?」


「……はい。向日葵の季節って夏だったと思うのですが」


イービン先生は一瞬少しだけ目を見開いて、楽しそうに笑みを深めた。


「そうですね、向日葵の季節は夏です。ですが、この温室では光魔法を使って年中咲けるようにしているんですよ」


旬じゃない野菜を年中食べれるのと同じ要領ということか。

イービン先生が温室を自由に使えてるのも、光魔法の研究のためとかなのだろう。緑魔法の先生の方が使用理由がある気もするが……、他の庭園を使ってるのかもしれない。


「向日葵、好きなんですか?」


温室の中央、一番目に入るところに高々と咲き誇る向日葵。向日葵を好きな理由はどこにあるんだろう。先生が年中咲かせたいと思う理由は、何なのだろう。


「この温室を見て、決まりきった質問をするのですね。理由が聞きたいですか?」


質問の意図を見事に見透かされていて、恥ずかしさで頬を染める。


「……はい、年中咲かせていたいのって、よほど好きなのかと」


「そうですね……。年中咲かせていたい理由は、好きだからとは違います」


イービン先生は目を細めて私を見つめる。何かを見透かしそうな瞳で、はっきりと告げる。


「枯れる姿を見たくないからですよ」


まるで、向日葵ではない何かに向いた言葉のように、向日葵を見ることなく。まるで、私に向いているような。

呑まれてしまいそうなほどの雰囲気にひゅっと喉が鳴る。

何故か、どうしようもなくフェルトに会いたくなった。

真っ赤な夕焼けが脳を支配する。1日の終わりを示す色。


「えっと、大丈夫ですか?」


「え?」


ぱらぱらと雫が頬を伝っているのに気づいたのは、イービン先生に声をかけられてからだった。

イービン先生の白く長い指が私の目尻についた雫を掬う。


「私の返答に何か嫌なところがありましたか?」


「いえ、えっと、自分でも何故泣いてるのか……」


いきなり泣き出すやつなんて迷惑でしかない。

慌ててハンカチを取り出して涙を拭いていると、イービン先生に手首を掴まれて目元から引き剥がされる。


「目が傷ついてしまいますよ。きっと疲れてるのでしょう。少し、眠りますか?」


疲れてる。自分では分からないが、もしかしたら疲れてる顔してるのかもしれない。前世の記憶が戻ったりして、色々あったから疲労が溜まっていてもおかしくない、のかもしれない。でもここで寝るのは流石に迷惑だと思うから1回帰って寝ようかな。


そう考えて唇を開いたとき、ぐらりと身体が傾き、イービン先生に支えられる。


「やっぱり眠りましょう。何時に起こしますか?」


「7時、半、で………」


イービン先生は抱き抱えてベンチの方へ向かう。抗う余裕はもうない。


意識が朦朧としていく中で、またあの夕焼けが色を濃くしていく。


「もう、枯らさないように」


イービンの言葉を最後に、意識の糸は途切れた。



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