50・エッグベネディクトです
朝5時にいつも通り目を覚まして、温室に行く準備をする。食材と、そのまま学校に行くために鞄と、それくらいかな。
エレナに、先に行きますと置き手紙を置いておいて、部屋を出た。
温室に行くまでには誰にも会わず、しんと静まった中で私の足音だけがコツンと鳴る。
温室の前まで来ると、中の灯りがもう付いているのが分かった。イービン先生、昨日より朝早いみたいだ。
「おはようございます」
挨拶をしながら扉を開けると、タンブラーを持ったイービン先生をベンチで見つけた。
「おはようございます。朝食を作ってくれると言うから、楽しみで早起きしました」
ふふ、と悪戯な笑みを浮かべて、そんな嬉しいことを言う。まるで攻略完了した攻略対象が言いそうな、甘い台詞。いや、イービン先生は攻略対象なんかじゃないし、単に善意で言ってくれてるだけなんだろうけど。
「ありがとうございます。じゃあ、キッチン使わせて頂きますね」
エッグベネディクトとサラダとフルーツヨーグルトを作る。前世でもたまに作っていたメニューだ。エッグベネディクトはちょっと面倒臭いから、朝時間がある時だけだけど。そういえば、あの人もエッグベネディクト好きだったな。
作っている間、背中にイービン先生の視線を感じて、緊張して手元が狂いそうになる。
「せ、先生」
「うん?どうした?あ、ごめんね、手伝った方がよかった?」
「いえ、あの、そんなに見られてるとやりずらいです…」
「あぁ、ごめんね」
ごめんね、と謝りはしても、視線を外す気はないらしい。穏やかな見た目でありながら人をからかうのは好きらしい。
ふぅ、と一息諦めのように吐いて料理に戻った。
「はい、お待たせしました」
「ありがとう、美味しそうだね。食べてもいいかい?」
「はい、どうぞ」
上品な所作で食べ始める先生をじっと見つめる。これで不味かったらどうしよう、いつも作ってる味だから大丈夫、だとは思うんだけど。
「どう、でしょうか…?」
「とても美味しいですよ、ありがとうございます」
「よかったです」
ひとまず安心して、私も食べ始めた。
どうやら美味しいと言ったその言葉は嘘ではなかったらしく、イービン先生は早くに完食してしまった。
そのせいで私が食べ終わるのを待ってもらうことになったのだけど。
「……あの」
「ん?どうしました?」
「……そんなに見られてると食べづらいです」
そう、石にされてしまうんじゃないかと思うくらい、逸らすことなくずっと見られてるのだ。
仕事をするなり、花を愛でるなり、することなど他にいくらでもあるはずなのに、イービン先生は何もすることなくただただ私が食べている姿を眺めている。
そんなに見られていると何か顔に付いてるのかとか作法が良くないのかとか色々気にしてしまって、その度に先生に聞くのだけど、「そうじゃないですよ」と言われてしまって、じゃあ何なのかと色々考えを巡らせてるうちに緊張してしまって味が分からなくなってしまった。
耐えきれなくなって今に至るのだけど。
「そうですか?すみません、あまりにも可愛いものですから」
「かわ……っ!?せ、先生、生徒をからかうのはやめてください」
「本気なんですけどねぇ…」
先生が何か呟いた気がしたが、顔が熱くて聞き返す余裕もなかった。
―――結局作法を忘れて残りを口に詰め込んで、無理やり朝食の時間を終わらせたのだった。
久しぶりの更新です…。




