閑話・フェルト視点
自然と目が覚めて、気怠く上半身を起こす。
ベッドの頭上の棚にある置き時計を確認すると、夜の7時すぎを指していた。
いつもは夕食を6時半頃に食べているから、メルが来ていてもいい時間なのに音沙汰もない。
やっぱり体調悪いのかな。部屋に見舞いに行く許可が取れないわけでもないはずだし、行こうかな。
昨日、で合ってるのか分からないが、メルの作ったパスタ以来何も口にしていない。
それでも空腹なわけでもなく、何もする気が起きなくてベッドに再び倒れ込む。あぁ、でもメルの作ったものを食べたいなぁ。
1日の大半を寝て過ごしてたのだから眠いわけではないけど、なんとなく目を瞑る。
メルがここにいない。一緒に夕食を食べてない。
その事実から逃げたくて、また眠りにつこうとした時。
〈あー、テステス。聞こえてる?〉
脳内で鮮明にレイヤード先生の声が聞こえる。おそらく心魔法によるものだろう。
「聞こえてますよ」
おそらく声に出さなくても脳内で返事すれば届くのだろうが、途中で会話してる感覚がなくなりそうなので声に出しておく。それにしても、テステスってなんだろう。
〈キミさぁ、今日の授業来なかったよね。シーグルト君に避けられてるみたいだし、どうせ寝てたんだろうけどさぁ。そんなことしてたらあっという間に彼女とられちゃうよ?いいの?〉
「………どういうことですか」
避けられてる?取られる?メルが俺のことを、避けてる?いや、どこかで分かってはいたんだ。ただずっと目を背けていただけの事実。
でもその追及に返答する気はないので、気になることだけを聞く。
〈はぁ、キミも大概自分勝手だよねぇ、まぁいいけどさ。明日からの授業、ちゃんと来るって言うなら教えてあげるよ。ボクもやる気のない生徒に優しくする義務はないものでね〉
「行きます」
〈そういうところは素直だね。いいよ、教えてあげる〉
レイヤード先生の言うことはこうだった。
メルはクラスで2人の男子生徒と仲良くしていて、今日のお昼は一緒に食べていた。さらに、イービン先生の溜まり場である温室に行ったり、ターコイド先輩と話す姿があったりと、学園でも特に見目麗しい男性との交流が多いと噂されている。シーグルトが媚を売っている様子ではなく、純粋に勉強の話だったり生徒会の話だったりをしている様子だから他の女子生徒の反感を買ってこそいないが、話している相手がどう思っているかは分からないので警戒が必要、とのことだった。
メルはとても綺麗だから、男が寄り付く可能性があるのは分かってた。
あの柔らかい髪を他の誰かが触ることを考えただけで、怒りで我を忘れそうになる。
そういえば、しばらくメルに触れてない。メルは、今何してるんだろう。誰のことを考えてるんだろう。
〈あー、待って待って、自分の世界に入らないで。だから、ちゃんと彼女のことを離さない方がいいんじゃないのって話。それと明日の授業はちゃんと来なよー。それじゃ〉
怒涛の勢いで話して、返事を待つ前に通信を切ってしまった。
メルは、どうして俺を避けるんだろう。何かしてしまったなら、謝らないと。
明日の朝部屋に行って、それから授業以外の時間は片時も離れないようにしよう。
段々眠くなってきたし、明日の朝までは寝ておこう。
ガチャリ、と扉が開く音が意識の淵を撫ぜる。
昨日と同じように、エレナが夕食を持ってきたのだと思い、目を開けずにいると、気配が昨日とは違い、愛しいものであると気付き、慌てて飛び上がり声をかけ、ベッドから足を出す。
「メル、待って!ねぇ、メル!」
焦ったようにパタパタと出ていってしまい、伸ばした手が空を切る。
「メル、なんで……、なんで、逃げる、の」
もう音を立てない扉に頬を当てて、そのままずるずると座り込む。
靴箱の上に置かれたものが目に入り、重い体を起こして覗き込む。
「メルの、手紙?」
中身はとても淡白なものだった。でも俺が安心して食べれるように、という気遣いが見えて、もう一度メル、と呟く。
今日はオムライスらしい。また早く作れるもので、それは、どういう意味なんだろう。
明日朝絶対に迎えに行って、もう逃げられないようにしなきゃ。
オムライスをテーブルに運んで、そんな決意を心に留めた。
フェルトはいい子なんですよ(n回目)
あと、ヤード先生で、と言われてたやんって思った方もいらっしゃると思いますが、表記上ヤードやらレイヤードやらにすると混乱させてしまうかと思ったので、会話上ではヤードと呼ばせますが、地の文では正式名にしようかと思います。今後どっかで間違えてたら教えてください…。




