38・ノートに纏めます
寮に着いたところでフェルトに部屋に誘われたが疲れてるからと断った。寮の室内でのイベントってあった気もするし、イベント回避に努めましたよええ。
渋るフェルトを宥め自分の部屋に戻り、エレナがいないことを確認する。エレナ、他に元々友達いそうだし、その子達とのんびりしてくるだろうから暫くは帰ってこないだろう。
約束の5時まではあと4時間。移動とかを考えると、あと3時間半ちょいってところだろう。
それまではこのゲームのことについて纏めておこうと思い、使えそうなノートを探した。
ノートも見つかり、次は隠し場所と解読されないようにする策を考える。
この国は話してる言語も日本語ではないし、書いている文字も日本語ではない。なら普通に日本語を使えばいいだろう。それなら転生者だけ読むことができ、その他の人は読めないから、誰が転生者で協力を仰げそうな人かわかるはずだ。
隠し場所は、それなら特に考えなくてもいいか。教科書などに紛れこませて置くぐらいで丁度いい。
机にノートを広げペンを用意し、椅子に座る。それにしても中世ヨーロッパをイメージしたかったならノートとかあっちゃだめではないだろうか。ノートありならシャーペンあっても良くない?せめて鉛筆。だめか…。ないもんはしょうがないか。
閑話休題。
「さて、とりあえず思い出せることは書こう」
この世界は乙女ゲーム『IF・one・end』、通称イフエンの世界。公爵令嬢として生まれ育ったメルシア・シーグルトが、王立学園に入学してから様々な見目麗しい男の子たちとヒロインとして恋愛するシュミレーションゲームだ。はいストップ。
「そもそも出自も名前も微妙にズレてるんだよね。ゲームの中のヒロインはメルシアだけど、私はメルで。メルシアにはこれといって出自に事情があったわけでもなく公爵令嬢として生まれてきてるけど、私は6歳より前の記憶がなく、ミニッツ家の使用人として入学直前まで育った。この差は何?」
そもそも私がヒロインではない、という可能性も考えられるが、それは限りなく低いだろう。
薄紫色の髪色も髪質も目の色も、顔の造形もすべて同じなのだ。
加えてシーグルト家に私とは別にメルシアが存在するわけでもない。よって、私はメルシアではないけど、立場上メルシアの近似値をとった存在ということだ。
ちなみにメルシアと私の性格は全く違う。メルシアは天真爛漫で表情も良く変わるおっとりしてるけど頑張り屋なお嬢様、といった性格だ。私は少なくともそれではないし、表情筋はかなり硬い。
過酷な試練は多いとはいえ美少女に転生させてもらったのに中身がこんなのでは申し訳ない。神様には怒ったらいいのかお礼を言ったらいいのか謝るべきなのかもはやわからない。
さて、なぜ差が生まれたのか。ゲーム設定がひとりでに変わることってあるのだろうか。もしそれがありなら予測しようがないのだが、仮にないとして考えよう。
あるのは私と同じ転生者が私に何か働きかけた結果なんやかんやでミニッツ家に飛ばされた可能性だ。だとすると転生者の可能性があるのはシーグルト家当主か奥様?現世で男性でも前世は女性、ってパターンもなくはないだろうから、性別は限定できないだろうなぁ。あとは、シーグルト家の使用人が転生者で当主にそれを言ったか。うーん、それはないような。主人に電波発言できる使用人って度胸ありすぎるわ。
暫く考えて答えが出なかったので、考えた内容をノートに書き留めて保留にしておく。
「で、次。攻略対象が誰かだね」
1人目。アート・クルスト。クルスト国第二王子で第1王位継承者。年齢は20歳で、ようは王立学園を卒業してから2年が立った学年だ。長く伸ばした銀髪に青紫色の瞳を持ち、1度も陽の光に当てたことがなさそうな透けるほどの白い肌、攻略対象キャラの中でも一番の高身長と細身の持ち主だ。柔らかい物腰で基本穏やかだが、それはヒロインに出会う前の話。ヒロインに会ってからヒロインまっしぐらになり、権力とか魔法とか陰謀とか、その他諸々のえげつない方法を尽くし自分とヒロインの仲を邪魔する者を消していく。場合によっては世界を滅ぼすことも厭わない。ちなみに適性魔法は全てだとか。乙女はチートが好きだとでも思ってるのか制作側は。いや好きだけど。
この世界のアートもまだただ優しいだけの人みたいだ。今朝会ったからこれからどうなるかわからないけど!
あとは前に思い出したことを纏めておく。あ、他のキャラを纏める時にエンディングがなんだったか書いとこう。
2人目。ガードン・ブラームス。2年生。体躯のいい体つきで燃えるような真紅の短髪と赤紫の瞳を持つ。成績優秀で毎回の試験で主席をとり、その上生徒会長をしている。運動もかなり得意らしい、典型的な'学園の憧れの王子様'といったキャラだ。性格に少し俺様なところがあるが基本は紳士だし俺様キャラが苦手でも大抵の人はプレイ中に慣れるレベルだ。本物の王子より王子らしいとか、本来メインヒーローの筈で性格もメインヒーローらしいのに影が薄いとか、ファンに散々哀れみやら慰めやらを呟かれた、アートに実質のメインヒーローを取られた一応メインヒーロー扱いだったはずのガードンだ。
現実でもおそらくゲームのままのキャラだろう。初イベントの様子としてはそんな印象だった。ただ、初っ端から妙に好感度高いなとは感じたけど……きっと気のせいだろう。
アートは本来あくまで隠しキャラな筈だったんだけど、全く隠れてないし隠しキャラだからといって公式は攻略法言わなかったけどそんなトンデモ攻略ルールなら言って欲しかったとファンは発売当初暫く荒れていた。
ガードンの時のアートルートは、バッドエンドではアートがガードンをヒロインの目の前でゆっくり残虐になぶり殺すやつだったはず。……絶対嫌だ…!
ガードンのノーマルエンドは恋愛には発展せず友情のまんまでしたってやつ。これは平和だね!たしかノーマルはこのゲームではみんなこのパターンじゃなかったかな?
バッドエンドは、ガードンの家が没落してガードンは行方不明になり暫くしてガードンが死んだことを伝えられる、っていう……。このルートなんで作ったんだろう。
気を取り直して3人目。フェルト・ミニッツ。1年生でヒロインとは別のクラス。金髪サラサラヘアーに藍色の瞳、細身だけど筋肉はあり身長もアートの次に高い、見た目は正統派王子様キャラだ。ただ、ゲームでも現実でも性格はそうもいかない。ゲームでは好感度低い最初の方は無表情で毒舌ばかり吐き、授業中や休み時間はほぼ寝ているからイベントもやたら寝起きの時が多い。そのシチュエーション普通何回もやる?そろそろ飽きる、ってころに好感度が上がってきてフェルトが起きてる時間も増えるんだけど。どうやら「君がいるなら起きてた方が楽しい」だそう。プレイ中、ダメ男を矯正してる気分になった。
で、現実のフェルトはこんな冷たくない。が、ゲームの時より怠惰さは増している気がする。ゲームでは一応日常生活でやらなきゃいけないことは自分でやっていたけど、現実では必要以上に私に任せてくる。毎朝私が起こし、食事を用意し、昼寝から起こし、うたた寝から起こし、あれ、起こしてばっかりじゃない?ともかく、私といる時は寝ないけど私が離れた隙にすぐ寝るから私がどこかから戻ってくる度起こすことになるのだ。
あと、従者やってたからか好感度は高い気がする。このまま行くとフェルトハッピーエンド確定、アートに突入してしまうから、どうにか防ぐ為に他のキャラの好感度を上げ、フェルトの好感度をそれによって下げ、フェルトルートには入りつつフェルトのバッドエンドを目指す。フェルトルートでは途中で家同士の政略により婚約するが、バッドエンドだとその婚約を破棄する。というかむしろそれだけのエンドだ。ノーマルだと破棄はしないが恋愛結婚ではない、所謂友情エンド。国を支えるために頑張りましょうと言い合う健全だが乙女ゲーム的に物足りないエンドだ。
別に目指すのはノーマルでもいいんだけど、これから好感度を下げる為にフェルトを避けるわけで、その後気まずくなりそうだから、いっそ破棄したいところだ。シーグルト家には迷惑かけてしまうけど……、そこはあとで考えよう。
4人目、ダイル・リングルズ。1年生でヒロインと同じクラス。目が覚める様な真っ青な髪で長い前髪を耳にかけている。瞳は元日本人には馴染みやすい黒目。
ゲームでは爽やかな幼馴染みで公式も彼を清涼剤だと言っていた。が、現実では酷く無愛想で女嫌い、しかも私の出自が違うせいで幼馴染みではない。今日の後半ちょっと、ほんのちょっとだけ好感度が上がったような気がしなくもなくもないが……、彼の好感度は期待出来ない。
ちなみにダイルのバッドは事故で私が死ぬ。ノーマルは他のと同じく友情エンド。……ねぇ、バッド無駄に過激なんですが。死ぬ気で回避したい。死なないために。
ここまで纏めて、時計を見ると丁度いい時間になっていた。
エレナはまだ帰ってきていないみたいで、私の筆音が止まると静寂が広がる。
そろそろ出ようと、情報を纏めたゲームノートとペンを持って寮を出た。
ほぼただの説明回。しかも説明回はまだこの後もあるっていう…。




