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閑話・フェルト視点後編



「……っあ、」

目を開けたら知らない天井と薬品の匂い。……保健室、だろうか。


「気がついた?」


ハリがある、しかしそれでいて落ち着いた声色に横を見ると白衣を着た少年がいた。


「キミ、怠惰の子でしょ?上からお達しが来たうちの一人にいたんだよね」


「あの…えっと」


まだぼんやりとした思考の中で、白衣を着ているのだから保健室なのだろうと思った。


何から聞けばいいのか分からずもごもごとしていると、その様子を察した少年は順に説明してくれた。


「ボクはレイヤード・ミーザ。君の特性魔法である空間魔法担当の教師だ。これからよろしく。で、ここはボクに与えられた研究室。ここまでで何か質問ある?」


研究室だったのか。道理で薬品の匂いがして、この人が白衣を着てるわけだ。……ん?でも魔法研究に、薬品?薬品を使う魔法もあるのだろうか。


その違和感をすぐにかき消してしまうほどの他の違和感がこの部屋にはあった。

「フェルト・ミニッツです。これからよろしくお願いします。あの……失礼ですが、俺と同年代に見受けられるのですが、先生は、その、飛び級された方とかですか?」


そう、この先生、どう見ても俺と同年代もしくは年下にしか見えないのだ。


声も声変わりしかけのような、高めの声だし、身長もメルより少し高いくらいだ。


ただ、違った場合とても失礼だけど。


「ふふっ、勇気あるね、キミ!そうだよ、ボクは14歳、ここに通う生徒より年下だ。まぁ普通はありえないんだけど…、色々と魔法研究院の方にツテがあってね。なんやかんやでここに勤めてるんだ。あ、あとヤード先生、でいいよ、もうすぐでミーザはこの学園で2人になるから」


ツテがある、と言ってはいるけど、ツテだけではとても出来ることではない。おそらく相当な魔力量と技術を持っている人なのだろう。


あと最後のセリフちょっとよくわからないです。ヤード先生結婚でもするの?

たしかにこの国だと15歳から成人扱いだから結婚できる。ただ 貴族は魔力持ちであることが通常なので、普通学園卒業後に結婚する。それまでは婚約扱いだ。あ、でもヤード先生はそういうのは関係ないのか。

あ、いや、妹とか弟が来る可能性もあるからそうと決まったわけじゃ………、目が本気だ。たぶんこれ婚約者を逃がすまいと狙ってる目だ。


婚約者………、俺のメルは、今どうしてるだろう。何を考えてるのだろう。いきなり態度が変わって冷たくなって、俺をどうしたいのだろう。メルが何を考えてるか、わからない。


鉛を呑むような感覚に顔を顰めていると、その思考を読んだかのようにヤード先生は俺に誘いかけた。


「今、キミはキミのお姫様、メル・シーグルトのことを考えてるんでしょ?お姫様が何を考えてるか知りたくない?ボクなら適性が出ていないキミにも心魔法の実践を教えてあげるよ。使える様になるかはキミ次第だけどね。ボクも適性外だったけど自力で心魔法の教師免許をとった。だから普通の教師より、適性外のキミに教えるにはぴったりだと思うよ?どうする?」


饒舌に語りかけてくるが、あまりにも話が良すぎる。


信じきるにはまだ情報が足りない。もちろん、喉から手が出るほどのものだが、リスクがそれより大きいなら手を引く方が賢明だ。


「………それで、条件は?」


「条件?いやぁ、キミが受けてくれるだけでいいんだよ。適性外魔法の研究データにもなるし、キミもキミのお姫様は学園に目をつけられてる所謂問題児だから、そんな彼らを気にかけてるというのは学園側からいい評価が得られる。何よりこれらのことからボクの愛しいマイに褒められる!」


問題児?起きがけのときも言われてた「怠惰の子」として俺が問題児扱いされてるのは、まだわかる。親がそういう話を通してる可能性はあるし。でもメルはなぜ?彼女は真面目で素行不良な面などない。強いて言うなら従者から貴族、それも公爵家へといきなり身分が変わったことだろうか。まぁ、それはあとでゆっくり聞こう。

それよりこの明らかに最後の理由が十割本音のこの人をどうにかしよう。


「あ、分かりましたただマイさん大好きなだけということがよくわかりまし」「お前がマイと口にすることは許していない」


恍惚とした表情を浮かべているヤード先生にそう言いかけると、言葉が止む前に首元にナイフを突き付けられた。


さきほどとは打って変わって鋭利な声と怒気と嫉妬と殺意を孕んだ視線を刺され、俺は、口角を緩ませた。この人は敵ではない。メルを狙う人間ではない。事実はそれだけで充分だ。




「すみません、ヤード先生の女神を汚すつもりはないです。……さきほどのお話、受けさせてください」


図るような目で俺を数秒見つめたあと、ゆっくりとナイフを下ろした。


そしてへらへらとした掴みどころのない雰囲気を纏い直した彼は愉快そうに声を上げた。




「そういうと思ったよ。あらためてよろしく、フェルトくん」





お久しぶりです、お待たせしました!

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