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37・今は、です
食べ終わり、食堂をでるときに自然な動作で手を絡められる。逃がさないといわんばかりに強く掴まれて、振り払うことを諦めた。
寮までの帰り道、私たちは一言も話さず、沈黙が流れる。それは薄氷を踏むように危うげで、ぎこちないものだった。
ふと、沈黙が割れる。
「メル、メルは、俺の婚約者、だよ」
不格好に割れた沈黙の破片は修復できないまま。疑問形ではないのに、返事を強要されているようだ。
最適解なんてわからない。ゲームのシナリオから大きく外れているのだから、ゲームの中のヒロインを真似することもできない。
「そう、ですね。今は」
だからきっと私は間違う。彼を傷つける。いっそ彼が私のことを嫌いになれば、婚約破棄して、そしたら関わることもなくなって、ゲームのエンディングで考えればバッドエンドになり、シナリオも終わらせられる。なんて、そこまでわかってるのに、嫌われたくない、だなんて、馬鹿な感情だ。
フェルトは手を繋ぐ力を強める。爪が私の手の甲を掠め、ひっかき傷を作ったが、知らないふりをした。
「………………今は、なんかじゃない。ずっと、だ」
前だけを向いていた私は、隣のフェルトの表情も、呟いたことも、知らない。




