35・勝ち、です
隣でガードンが怪訝な顔をするが、構わず話を続ける。
「私は夏のほうが好きです。たしかに大変ですが、暑さゆえの活気があって」
表面的には季節の話をしているにすぎないから、いきなりなんの話だとは思われても、おかしいと断言されるほどのものではない。
これは一種の賭けだ。これでヴィクが手ごたえのある反応を見せてくれたら私の勝ち。さて、どうなる。
「…………俺は、どちらも好きだがどちらかといえば冬かな。冬のほうがいろいろと楽だし」
間違いない。私の勝ちだ。
笑みを深めて、キーとなったその紙を最後にヴィクに手渡すと、ヴィクも私以外に気づかれないように微かに口角を上げた。そして、ガードンに悟られないよう頭を垂れて顔を隠しささやく。
「今日の夕方五時、東庭園に来てくれ」
返事がわりに瞬きをわかるように一回だけしてから、腰を上げた。
「すまない。助かった。ありがとな」
ヴィクはガードンからも拾ったものを渡してもらい、今度は落とすことがないようにと抱えなおしてから、さっきとは違い怯えることなく人のよい笑みを浮かべ感謝を口にした。
ガードンはヴィクの親しみの籠った態度といい、さっきの私の質問といい、消化できない疑問が多いせいか目元が不機嫌になっていたが、フォローのしようがないので触れないでおく。
「いえ、たいしたことではございませんので。それでは、全部拾えたようですし、」
「ねぇメル、何してるの?」
私もそろそろ届くであろう料理を楽しもうかと、と続くはずだった言葉は戻ってきたフェルトにかき消された。
私の腕をきつく掴み、ガードンとヴィクを射殺さんばかりに睨む。フェルトがそんなに怒りを表す理由は私なのだろう。好かれているのは、ゲームで好感度によってキャラの態度が変化することを思い出せばわかる。ゲームと同じなら恋愛感情をもう持っている好感度なはずだ。私の立場とかを考えるとバグがある分変わってくるだろうし、なによりゲームそっくりでない以上核心を得た考えではないのだが。
そうやって、打算的でいようと頑張ってはみるけど、ゲームのシステムだからって考えて、それで頭をいっぱいにできないと、それくらい冷たくないと、世界だけを救うのはできないって、わかってるけど。
あぁ、だめだ。フェルトの怒りが私のためだと思うと、システムだろうとなんだろうと、嬉しいと思ってしまう。自分はフェルトに恋愛感情を持ってるわけではなくて、フェルトと同じだけのものとは限らない、なんていう中途半端と言われても仕方がないものだけど、今まで一緒に過ごして築いてきた信頼や絆が証明されたみたいで。やっぱりすごく嬉しい。
「フェルト、私は目の前で書類を落とされた方を助けただけです。そしたらたまたまその方のご友人がブラームス先輩だったんです。とくに何をしていたわけでもないですし、拾い終わったのでもうお別れするところだったんですよ」
こんな丁寧に、フェルトを傷つけずに弁解ができるのも今だけだ。ずるずるとやらずに後悔するより、今やれるだけフェルトにやさしくいよう。
「……そう。メル、食事届いたみたい。食べよう」
「それではお二方、ごきげんよう」
メルがそこまでいうなら、と小さく呟いて撤収したフェルトに続き、丁寧で他人行儀な礼をガードンとヴィクにしてからフェルトと席に座った。




