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32・食堂です

私の鞄もフェルトが持ってるし、今手を振り払ってもいいことはない。それに腕力の差で振り払おうとしても失敗して責めるような目を向けられるだろうし。


引っ張られるがまま進むが、足がつっかえることはない。フェルトが歩幅に気を遣ってくれているのだろう。思えば、使用人のときもフェルトの斜め後ろを自分の歩くスピードだったにも関わらず維持できていたのはフェルトの気遣いのお陰だったのだろう。…そんなの今更きづいても遅いのに。私はこれからこの優しい人を傷つけ、1人にするというのに。その優しさに、気遣いに、屈託無くありがとうと言える日が来ないかもしれないのに。


鬱々と思考が沈みそうになった時、フェルトの足が止まり、つられて私も止まる。


寮に着いたわけではないし、別の場所に来ている。


フェルトの顔を窺うと、ぎこちなくて、どこか怯えた様子で、それでも『いつも通り』に笑おうと口角を上げて、私に聞いた。


「食事、一緒に食べるって言ったでしょ?ちょうどお昼時だし、その、食堂で食べよう?」


フェルトはいつも通りの口調、よりもすこし弱々しく私の表情を窺いながら聞く。


ずっと使用人として自分に仕え、今は婚約者である人間にいきなり突き放すような発言をされたのだ。恋愛感情があろうとなかろうと戸惑い怯えるのは無理ない。それでも私との仲を断ち切らないよう、必死に『いつも通り』でいようとする彼は、見ていて痛々しくて、それでも強い。


そんな彼を見て揺らいでしまう私は、世界の運命を背負ってる自覚も足りなければ、計画に忠実で情に流されない理性を持ち合わせてるわけでもない。そのくせフェルトを守るために真っ向からシナリオに挑みハッピーエンドを勝ち取りに行く勇気もない。ただ犠牲を自分勝手に払いながら逃げるだけしかできない、卑怯で弱い人間。


前世の記憶が蘇ってから私どんどんいやなやつになってる気がする。…いや、もともとこういう人間だったのだ。


かといって今から性格を矯正して出来た人格のままシナリオに挑んでどこかでボロが出てうっかり世界破滅させてしまったらどうする。この世界はハードモードなくせしてゲームのようにやり直しは利かない。なら私らしくシナリオから逃げて、せめて世界は救えるように頑張ろう。そのあと犠牲に対しての贖罪をしよう。……できる限り犠牲を出したくないが。


いつか手放さなければならないこの人の隣を、平穏を、幸せを、今はまだ彼の滲み出る願いに甘えよう。今日の夜、記憶の整理と私がどう動くかは全て決める。だからそれまでは。



「……はい、食べましょうか」


彼の隣で、緩やかな今まで通りの日常を。







食堂はお昼時だから当然の如く人で賑わっている。だが席取りを先にしておかなければならないほどではなく、ちらほらと空席は見受けられる。無論、この食堂が学生の人数に対して比べると広いからだ。


席取りはあとですることにして先に2人で注文しにいく。メニュー表にはずらりと沢山の料理名が並んでいる。

各国、各地方の郷土料理、名産物、高級食材を使ったものから庶民向けと思われる安価で食べやすいもの、デザートや飲み物も種類が豊富だ。


あれ、これ学内の食堂だよね?メインターゲットは学生だよね?値段高すぎない?安価なものより高いものの方が圧倒的に多いんですが……ていうかお金持ってないんですが。あ、でもそういえばイービン先生が「学内で購入したものは後日領収書が親の元に行き親が払う」とか言ってたような……。えー、じゃあシーグルト家養女としてはどうするのが正解?高いのを食べて家に迷惑はかけたくない、があんまり安いものを食べると「シーグルト家令嬢がなぜ」と周りに変な噂をたてられるかもしれない。それは尚更駄目だ。


よし、フェルトが頼むものと同じものにしよう。高級食材を使わない私の手料理で喜んでくれてるし、もともとフェルトはあまり好んで高級食材を食べようとしないからものすごく高いものは頼まないだろう。そして外である食堂にいる今はある程度貴族として振る舞わなければならないため、安いものは遠慮する。となるとおそらく貴族としてちょうどいい値段のものを頼むはずだ。あともちろん好みにも左右されるが。



「かぼちゃプリン一つ」

「と日替わり定食Aセット二つ、お願いします」


ちょうどよくなかった!全然ちょうどよくなかった!!何、かぼちゃプリンって!美味しそうだけどそれは昼食じゃないです…!!


よかった、衝動で頼んだのが日替わり定食Aセットで。値段も比較的貴族が頼む値段としては安価なものの食材はいいのを使っているのが売りなので相殺される。なによりフェルトの嫌いな食べ物が入ってない。



「え、メル日替わり定食Aセット二つも食べるの?」

「違いますあなたの分です!」

「え?えー…そんなお腹すいてな、」

「じゃあかぼちゃプリンもなしです。どうしても食べれなかったら私が食べますから、ね?」

「………はーい」


なんとかちゃんとした昼食を食べてくれそうだ。……この人私がいなくなったら食生活大丈夫なんだろうか。今から心配だ。




料理は席に持って来てくれるらしい。注文時に渡されるカードを席に設置されたカードを差し込む場所に入れると、注文した人の位置情報がわかり、スムーズに運べる、という仕組みだそうだ。

この世界では魔法を用いてそのシステムがつくられているが、これは前世の科学でも作れたのではないだろうか。とっても便利な仕組みだからあればよかったのに。



たまたま目に付いた窓側の席にカードを設置したあと、フェルトはもう一度なにか気になるのがあったのか注文場所まで行ってしまったので、私は先に席に座って食堂内をぼんやりと見渡す。



しかしこの世界、ゲーム登場キャラに限らず美形が多くて嬉しい。ぼんやりしてるだけで目の保養……。



なんて、のんびりしていられたのもつかの間、あまり会いたくない人物と目が合ってしまった。



えっ、ちょ、なんでこっち向かって来るの!?

前回の更新からすごく間が空いてしまいました……。すみません、テスト終わるまでしばしお待ちくださいm(_ _)m



メルちゃんが卑屈に……、そんなつもりなかったんですが(言い訳)


これ書いてるときあと少しで書き終わるとこで端末バグって白紙になって泣きそうになりました。で書き直し(勉強しろ)

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