22・忘れてたみたいです
乙女ゲームというものは基本最低でも4人以上の攻略対象から選べるようになっている。PC対応のものだと一つのソフトにつき2人攻略可能でシリーズものにしているタイプもあったり、あるキャラは攻略可能になるまでに条件があったりと詳しいことを話すと複雑だが、ともかくその世界観での攻略対象は4人以上はいるということだ。
ということは、イフエン、この世界でも当然ながら攻略対象はアートとフェルトだけではない。
話を戻そう。隣に人が座っている。その人を私は知っている。見かけたことがある。ただしーーーーーゲームの中で。
目が覚めるような真紅の髪、仏頂面にも見える無表情、赤紫の瞳、リラックスしていても姿勢はよく、上に立つものの風格を兼ね備えたーーーーーーーイフエンメインヒーローかつ王立学園生徒会長、ガードン・ブラームス。私が、避けなければいけない人のうちの1人だ。
あぁぁぁぁぁ、なんで私今まで忘れたの!?温室でのアート出会いイベントと違ってこの新入生挨拶の時の舞台裏でのガードン出会いイベントは知ってたのに!馬鹿!私馬鹿すぎる!知ってたら適当に先生誤魔化して避けられたはずなのに…!だいたいオープニングは今日なんだから、ゲームについての記憶の整理は昨日にしておくべきだったはずで、あぁもう、そんなことよりイベント内容思い出さないと……。
えっと、確か椅子に座ったら隣に人がいたから挨拶をしようとして声をかけたら、ガードンが自分にすり寄ってくる女と勘違いして冷たい目を向ける、がヒロインは怖い人だなぁと思いながらとりあえず挨拶だけしてガードンから顔を逸らす。その様子が珍しくてガードンが目を丸くする……と、こんな内容だったかな。
だがしかし、生憎俺様気質で若干穿った目でみればナルシストじみたゲームのガードンは好きじゃなかったので一周しかしてない。それもフルコンプのためであってわりとぼーっとしながらやってた。そうもなるとスチルがあってあとでギャラリーだ見返せるイベントしか覚えていない。他のゲームもやってたし、思い入れのないキャラはどうしてもそんなものになってしまう。
………とか言い訳してる場合じゃないんですよね、そんな言い訳この世界ーー現実ーーーじゃ通用しないですよね、選択肢をただ選ぶよりその内容をすべて覚えている上で選択しながら話すって相当難易度高いですけどね…!やっぱり鬼畜仕様すぎる!
さてまぁ、ない記憶は探っても無駄なわけで、どうにかこのイベントは切り上げよう。たぶんこのイベントは挨拶しようと声をかけなければそもそも始まらないはずだ。
そんなことを崩されない貼り付けた微笑みの中で思っていると、唐突に声がかけられた。思わぬ…いや、思いたくない方向から。…………そう、右隣から。
さー、て、現実逃避って、今の状況じゃ悪足掻きすぎますよね?
これは昨日の分ですね、今日の分は今日の午前中あたりまでに出します