20・へし折りたいです
どうしよう……どうしようどうしよう…!!
こんな展開聞いてない!だいたいアート・クルストとの出会いイベントはもっとずっと先でしかも王宮の中であって間違ってもここ、学園内ではない。ストーリー中2人が学園内にいることがまずない。
それもこれも私の存在がバグに近いから?もしかしてフェルトの好感度がもうハッピーエンド確定まで上がってるから前倒しでアートが出てきたとかないよね?だったらこれが出会いイベントになる可能性が高いから全力で好感度を下げにいかないと……。
とりあえず、仮にも一国の王子を前にしてぼうっとしているのはゲーム設定諸々以前にまずい。
当たり障りない挨拶だけして、さっさと逃げよう。
「挨拶が遅れ申し訳ございません。お初にお目にかかります、私はシーグルト公爵家令嬢、メル・シーグルトと申します」
殿下の御前で緊張しているというような強ばった表情を貼り付け、粛々と頭を垂れる。
よし、あとは殿下に一言いただいてから退散っと。
「うん、知ってるよ。僕はクルスト国第二王子アート・クルストだ。そんな堅苦しくしなくていい。僕のことはアートと呼んでくれ」
お…っと退散しにくいことをなんてたくさん言ってくれるのかなこの人!何個フラグへし折ればいいの!?
知ってるって何、社交界には一切出てないしアート殿下とは面識ないんですが…!
あ、あれだ、つい最近養子になったからそれで知ったのだろう。公爵家ともなれば王族の方に把握されていてもおかしくない。そういうことにしておこう。精神衛生上悪すぎる。
そんな荒れ狂った脳内をよそに表情は崩さず返事はちゃんとする。シーグルト公爵家の名に傷をつけるわけにはいかないしね。
「ご存知いただけて光栄でございます。では、アート様と呼ばせていただきます。…それでは、私そろそろ行かなくてはなりませんので、失礼致します。ごきげんよう」
ひとまずこれくらい壁を作って関わりたくないですオーラだしておけば大丈夫かな。折りたいフラグは一応全部折れたはずだし。うんたぶんだけど。
もう一度礼をしてからそさくさと温室を退出する。
「アート様、か……」
私が出ていった方をぼんやりと眺めて、アートは切なさを滲ませた笑みを浮かべた。
久々の投稿でございます。
25日からとか言ってた自分がいたような……。誤差のうちということで、はい。忘れて頂けるとありがたいです。
今日も読んで下さりありがとうございますm(_ _)m