2・寝ぼけてるみたいです
部屋の中に勢いよく引き込まれ、一瞬呼吸を忘れる。相変わらず心臓に悪い。
「フェルト様、こういう心臓に悪いことはやめてくださいと何度も申しております。あとちゃんと起きてるなら起きてると返答をください」
引き込んだ主の顔を見つめ、諭すように言う。このセリフ言ったの何度目だろう。諦めない私も私なのかもしれない。
「え、そんな見つめられると照れる……」
あぁ、もう!今日も聞いてないなこの人!
と怒鳴れるわけがない。悲しいことに彼は私の雇い主だからだ。いや、正確にはこの人のお父様がそうなのだけど。勤め先はこの人なのだから、まぁあまり変わらないだろう。
彼はミニッツ公爵家嫡男フェルト・ミニッツ様。かなりの長身で、色白で質のいい肌に美しい金髪と透き通る藍色の瞳。造形のいい顔立ちかつスタイルもバランスのよくとれた身体。
さらにルックスだけでなく、勉学、運動、人脈、家柄、洗練された立ち振る舞いは他の者をことごとく凌駕する。
だがしかし、彼は多少、多少…ではないレベルで素の性格と生活態度に難ありだ。
ふ、と息を吐いて、本題に入る。
「朝食が出来ております。食堂へ行きましょう」
「やだだるい」
うん、ですよね言うと思った。
でも貴方のお父様に今日くらいは一緒に、と言われてるもんだから、私も引き下がるわけにはいかないのだ。
「明日からしばらくこの屋敷を離れるのですよ。せめて今日明日くらいは当主様や奥様と食事をとられてはいかがですか」
「うーん、まぁ、そうだねー………」
「サラッと私とともにベッドに向かおうとしないでください」
「眠いんだよね、まだ時間あるでしょ」
「ないですよなんの根拠を元にそんなこと仰るんですか」
お願いしますから、とほぼ力技で引きずり、寝ぼけ眼なままの主人を食堂へ送り届けるのだった。
………あ、そういえばまだこの人寝巻きだけど、気にしないことにしよう。