10・解いちゃダメなんです
フェルトの部屋は応接室から近い距離にあった。
フェルトの部屋は上流貴族のみが希望できる一人部屋で、二人部屋よりも広々としている。ちなみに、私もアレク様から一人部屋の話は持ち出されたのだが、手続きは済んだあとだったので今更変更するのは申しわけないし、広い部屋に一人でいるのは落ち着かないと断ったのだ。
さて、片付けの状況はというと。
「全く荷物開いてないじゃないですか…!」
「うん、そうだね」
いや、そうだね、じゃなくて!
分かってはいたけどさ!こういう人だよ知ってるよ!
はぁ、とため息と深呼吸をして、ぼうっとして私に寄り掛かってくるフェルトを押しのけ、片付けに取り掛かった。
まず荷物を開き、全て出して何があるかをもう1度確認し、足りないものはリストにまとめる。
そのあと衣服はクローゼットに、書類はジャンル別に本棚に、と片付けを黙々と進めていくが、その間ずっと数歩後ろをフェルトがついてくる。正直鬱陶しい。
「お暇でしたら私のことはお気にならさず、外で暇をつぶしてはいかがでしょう」
「……じゃあ、メルも一緒に」
「いや、それはちょっと。仕事したいので」
「……えー……」
そこからしばらくたっても外に出ないあたり、1人で行くのは寂しかったのだろう。
ひと段落ついて終わったあとに、学園内を探索することになった。
後ろからもたれかかられている状態で途中から片付けをしていたので、今もそのままの体勢になっている。
さすがにこれでは歩けないため、肩から腕を退かすと。
「なんでどかすの」
不機嫌そうに睨まれた。なぜだ。
「歩けなくなるので……」
「……なら、こうする」
不服そうな表情をしながら、私の右手を自分の指を絡めてきた。
感覚を確かめる様に手を動かすのがくすぐったい。
だんだんとフェルトの表情も緩んできたので、手を離すのはやめた。この人がいいならいいかな……あ、ダメだ。
私はあくまで好感度を上げてはいけない身、心は痛むが振り払わねば。
我に返り解こうと手を振るが、離れない。ぎちぎちと強く掴まれている。
一瞬にしてフェルトの緩んでた表情が歪む。
「なんで、今解こうとしたの」
「え、あ…っと、」
「なんで?これなら歩けなくないよね?…ねえ、なんでよ」
右手で私の右手を強く拘束し、左手で私の後頭部に手をおき引き寄せる。
好感度を下げるためです、なんて言えるわけがない。
ねぇ、と再度繰り返すフェルトの声は震え、表情は不機嫌そうでも瞳の奥は不安で染まっている。
目を合わせないように逸らして、思う。
さて、どうしたものかなぁ……。