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27.激昂、激昂、激昂

「強制捜査だ! どけッ!」

「壁に手と頭をつけろ!」

「抵抗するなっ、この屑どもが!」


 融合騎の演説会襲撃から数宴間(数時間)後。

 警備部機動課機動隊を初めとする国家警察の精鋭たちが、全国に存在する国民防衛戦線の事務所や私有地へと一斉に踏み入った。


「抵抗すれば撃つ、脅しじゃないぞ!」


 短連発銃で武装した機動隊員たちが、何の躊躇もなく扉を蹴破り、その場に居合わせた国民防衛戦線の構成員たちを拘束していく。さらに機動隊員に護衛された情報課員たちが、片っ端から書類を回収し、施錠されていた部屋を見て回り、そして隠し部屋がないか調査する。


「融合騎を隠し持っていた連中だッ、何があるか分からんぞ!」


 一部の事務所には、白い防護服を纏った捜査員たちが押し入った。これは生物・化学兵器を隠匿している可能性が考えられたためである。


「あった!」

「これは明らかに単発式の小銃を違法改造し、連発射撃を可能にした自動小銃で間違いありません」

「銃刀法違反だ、逮捕しろ逮捕!」


 国家警察の強制捜査は、苛烈を極めた。国民防衛戦線の構成員を射殺こそしなかったが、少しでも抵抗するそぶりを見せた者は、公務執行妨害で容赦なく逮捕してしまう。

 彼らはみな激怒していたのだ。

 融合騎を隠し持ち、卑劣にも破壊活動テロに奔った彼らに。

 国家警察の警備体制を蹂躙し、市民を殺戮し、国家警察警備部に泥を塗った彼らに。

 そして100名を超える警備課員、治安維持課員、機動隊員を殉職せしめた彼らに。


 強制捜査に駆り出された第2機動隊の隊長に至っては、「国民防衛戦線をこの地上から根絶してやる」と広言してはばからなかった。


 融合騎の襲撃が市井に与えた衝撃は、絶大であった。

 正体不明の軍用騎が市民・警官合わせて200名以上を殺害――市民たちはまずヴィルヴァニア帝国軍による凶行を疑い、「新王国の防空を司る新王国軍航空総隊は何をやっていたのか」と激怒した。

 だがしかし、すぐに「融合騎4騎による破壊活動テロは、国民防衛戦線が企図したものである」と国家警察が発表すると同時に、市民たちは混乱した。


――ただの政治団体が、なぜ軍用騎を保有しているのか!?

――犯行は未然に防げなかったのか、国家警察庁情報課は何も掴んでいなかったのか!?

――国民防衛戦線はなぜ演説会を破壊活動テロの標的にしたのか!?


 そして誰もが融合騎の襲撃を退けるべく奮闘した少女のために、祈りを捧げた。


「負けるな撃墜王!」

「デモクラシア様、頑張れーッ!」

「てめえーッデモクラシア様の御身になにかあったら、この病院に火つけるからな!?」

「関係者以外の方は、敷地外に退去してください! 我々は全力を挙げ、ライオ氏および負傷された方々の治療にあたっています!」


 デモクラシアを初めとする負傷者たちが収容されたエイシーハ中央病院前には、黒山の人だかりが出来ており、誰もがデモクラシアの病室へ直接に応援の声を届けるべく、大声を張り上げていた。

 それを病院関係者とエイシーハ国家警察署の治安維持課員たちが、敷地内に侵入しないように抑えている。彼ら不特定多数の病院への侵入を許せば、国民防衛戦線やその他害意ある者が病院内に紛れ込む可能性があるからだ。

 やむなく敷地外で、彼らは声援を送り続ける。


「撃墜王ッ! 撃墜王!」


 市井でのデモクラシアに対する新たな渾名は、“撃墜王”であった。

 もちろん軍用騎2騎を単独で仕留めたことが由来である。

 そしていまやデモクラシアは、エイシーハ市民、エンドラクト新王国全国民からの尊敬を勝ち得ていた。会場に最後まで残って昏倒するまで戦った少女に、誰もが賞賛の声を惜しまなかった。

 デモクラシアは当選するであろう。


――死ぬことさえなければ。




「だから言ったんだ! なぜ躊躇する必要があった!?」


 今回の大失態により何人の首が飛ぶか。

 再編の予感に戦々恐々とする国家警察庁、その一室――情報課員たちが詰める会議室に怒声が響いた。


「俺たち情報課はクソだ!

 盗聴! 拷問! 殺害!

 最高法さえ無視した汚れ仕事さえやるくそったれだ!

 そのくそったれが国から給料を頂いている理由が、てめえらに分かるか!?」


 無精ひげを生やした粗野な男――クロウス情報課長補佐が怒鳴り散らす。

 情報課員は勿論、近い内に辞令が下るであろう情報課長も答えは分かっている。


(時には非合法捜査を行ってでも、食い止めなければならない陰謀があるからだ)


 だがしかし情報課は、国民防衛戦線の手に融合騎が渡っていることを知っていながら、結社の自由を謳う最高法や彼らの庇護者たる保守系議員に遠慮し、何ら手を打たなかった。

 その代償は国家警察の精鋭たちと、なんら罪もない市民たちの生命。

 取り返しのつかない大失態に、情報課員たちは半ば思考停止し、沈黙してしまう。


「……課長、課長補佐」


 が、中でも古参の平課員は、冷静に言葉を紡いだ。


「阻止出来なかったことは悔恨の極みですが、我々は仕事を続けなければなりません。

 早急に国民防衛戦線がどこから融合騎を調達したかを、徹底的に調査すべきです。彼らが破壊活動テロに用いた融合騎は旧式で、大戦中は両陣営により広汎に用いられた型式。特定は難しいかもしれませんが」


 戦中、そして停戦合意・期限付平和条約締結後の混乱の中で、各国軍の装備が相当量流出していることは疑いようのない事実である。

 表向き秩序が保たれているエンドラクト新王国内であっても、裏社会ではコミテエルス製の質の悪い小火器や、ヴィルヴァニア帝国製の装備品が流通していることが確認されている。

 そういった軍用品の流入源を断たなければ、今後も同様の事件が起こることだろう。早急に捜査と対策を行う必要があった。


(そしておそらくその捜査の指揮を執るのは、私ではなくなるだろうな)


 情報課長はすでに異動か、辞職を覚悟していた。

 そして情報課も、国家警察全体も再編が行われるであろうことは間違いなかった。

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