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8、ロバとジョン

「師とあるなら王に成る。友とあるなら公に成る。臣とあるなら覇者に成り、奴隷と共にあるなら落ちぶれる。あんたは賢い人と交流するのを避け、苦言を呈する者を疎んじて遠ざけ、自分を賞賛する奴隷ばかり集めて、それで名を上げ、尊敬されたいと言う。悪い事は言わないから、誰か他の人と代わったほうがいい。どれだけ奴隷を囲っても笑い者になるだけだ」


蛮乞王は怒ってロバを処刑しようとしたが、取り成す者があって、国外退去させた。




臣には奴隷が三人あります。私の欠点をあげつらう者、良いとも悪いとも言わぬ者、こちらの長所を賞賛する者。来月の河神への生贄には三人の内の誰を捧げるべきでしょうか。罵倒者は神の不興を買ってしまいますし、阿諛追従者が欠けると私は暗い気持ちになります。それで私は無難な者を人柱にしようと思っていました。ところで王の側には、王を賞賛する者と、良いとも悪いとも言わぬ者の二者が控えておられ、短所を指摘する者が今まさに殺されようとしております。この様子をもし神が御覧になられたら、質の悪い生贄を捧げるのかと勘繰られてしまいましょう。これでは領内が乱れるやも知れません。どうか王に置かれましては賢明な御判断をなされますよう臣は願います。


ロバは虎口を脱して大いに感謝した。後日、件の臣が王から無実の罪で処刑されると聞いたロバは、臣の家を訪ねて言った。


逃げようにも、警備は厳重でまず上手く行かぬであろう。これから王へ最後の目通りをして家宝の書物を献上して言いなさい。私の死後この書物に書かれてある叡知の指輪の隠し場所へ行って指輪を王家に納めて頂きたい、と。駄目押しに、いいですか必ず宝の地図は私が死んだ後で見て下さい、と言いたまえ。ロバは一冊の書物を置いて立ち去った。次の日、臣はロバの言う通りにした。帰り道にロバがいて、首尾を尋ねたので、言われた通り書物を献上したと臣は告げた。臣が退出してすぐに王は書物を読もうとしたが、ページが張り付いて上手くいかなかった。指を舐め湿らせて開こうと幾度か試していたが、やがて王は死んだ。ロバは書物を糊付けして毒を塗っていた事を明かし、臣に出奔を促した。臣は知らずにとはいえ、王を毒殺した事で自責していたが、気を取り直してロバと共に旅立った。




少年がロバへ問う。

「女はなぜ金銀宝石を好むのでしょう」

「金銀宝石は、知恵ある男の所有する物。それを身に付けることで、自分にも知恵が身に付くと思っているから」

「それは言い過ぎでは」

「昔、二人の青年が、美しい友情が旅をしていた。女だけが住むと云う村に迷い込む、すぐに捕縛され族長の元へ突き出された。族長が青年の一人にこう尋ねた、旅の者よ、我が国を見てどう思うか。青年答えていわく、町並みは美しく民は皆その顔に知恵と気概が備わり、臣には勇気と賢さが溢れ、長におかれましては、その美貌もさる事ながら、聡明、高徳、清廉、勇猛、賢明、博愛、高潔、博識。今までに色々な国を見て来ましたが、長のように素晴らしい王の居る国はありませんでした。族長は大層喜び水と食糧を下賜して、もう一人の青年にも同じく尋ねた。青年は答えて曰く、粗末な小屋、阿呆ヅラの民衆、知恵の回らぬ家臣、知恵遅れの長、言われた洒落を本当と勘違いできるのも知恵の足らぬ証左、おだてられて喜ぶのは人の質、質を抑えるのは人の知恵、女の頭脳に知恵の働かないのは雨降り川流れ大海を成すの道理と同じ、美貌を褒めそやされて浮かれるのは角を誉められて得意に成る鹿と同じ、知恵の有る者は互いの足元をのみ俎上に乗せる、今あなたの足、粗末な小屋に住む民衆の生活へ私が言及した時に顔色は曇りました、これは角にばかり心が囚われて一向に足を省みない事の顕れです。一族の長の宝物とは金銀宝石なのでしょうか、その美貌でしょうか、否、娘の健やかを望まずに己の美貌ばかり思う父がありますか、妹の饅頭よりも己の宝石を購う兄がありますか、引いては民の暮らしよりも己の自尊感情を重しと見做す長が一体どこの国にありましょうか、いるならそれは己の分際も知らぬ女の長に違いありますまい。二人の青年は水と食糧とわずかの金貨銀貨をも取り上げられて、荒野に放り出された」

「つまり」

「猿に良識を求める者が居るなら、その者自身が猿なのだろう。女に知恵を望むなら、そいつが知恵遅れだ。嘘よりも真実の値段が高い市場には必ず公正な男の目が在る、女と猿の市場では虚飾が高値で売り買いされる。女を誉めるなら美貌と共に知性を誉めよ」

ロバは屁をひった。ジョンは顔をしかめた。




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