童話
王の怒りは屍百万、以って天下に血河を成す
士の怒りは屍二つ、以って天下は喪に服す
アッカーマン国に伝わる童唄
アッカーマン国の童謡
女は北の男に恋をした
不運を持っていた男
女は七人の子を産んだ
不運を巡って争った
一人が死ぬまで終わらない
女は南の男に恋をした
幸運を持っていた男
女は七人の子を産んだ
幸運を巡って争った
一人になるまで終わらない
クローメ西部に伝わるおとぎ話
南の男が道を歩いていたら金貨拾った、ラッキー。次の日、道を歩いていたら裸の女が落ちてた、刺した、ラッキー。
北の男が道を歩いていたら金貨落とした、畜生。次の日、道を歩いていたら裸の女が落ちてた、刺そうとしたら、木の棒で叩かれて財布を盗まれた、糞ったれ。
教訓:道を歩く時は金を落さない様に気を付け、ズボンを脱ぐ時は木の棒に注意しながら脱ぐように。
どちらの話も、南部は幸運な話、北部は教訓の話、が多い事を示唆しているけれど、見事にお国柄が出ている。アッカーマンは皮肉で逆説的、クローメは野卑で飾り気が無い。またはアッカーマンの子供の歌の多くが風刺である事を考えると、王位継承戦争の事と王が死んだ時の追い腹の事を言っているのかも知れない。
南北対比は例えば洞窟将棋の地方ルールや特殊駒の扱いにも言える。南部では一発逆転や開幕リードやら、あるいは開始早々に一手も動かせず怪物に食われる事が多く、北部ではお互いに平坦な状態から地道に積み上げ組み上げしていき、終盤わずかなミスで崩れて負ける様な展開に成り易い。
こういう些細な事も軍略を練る上で頭の片隅に入れて置くがよい。
「アッカーマン国は良くも悪くも柔弱だ」
「柔弱に良い点がありますか」
「雪が降っても柳の枝は折れない」
「アッカーマン国は比較的暖かいので雪はめったに降りませんよ」
「ものの例えだ」
「例えの選択を誤りましたね」
少年はロバの揚げ足を取った。ロバは涼しい顔で言った。
「昔、屁こきのジュードが言っていた。『幾ら屁をこいても糞には成らない』と。話術、弁論術でいくら私をやり込めても、実世界に何の影響も与えないのは、魔術を語る弁士らの口説が尻の穴の風魔法に過ぎないのと同様だ」
自分が喋る時は偉そうに話す癖にやられたらこれだ、と少年は思った。