春秋戦国
「ペンクラ帝国はなぜ割れたのでしょうか」
「時のペンクラ皇帝、ピザッツ・ペンクラが、諸侯の一人、ローレンス・ユーテロ伯爵へ土地を寄越せと言った。要求を断ろうとしたが、参謀のミルフ・エルオーが進言して曰く、与えれば増長して同様に諸侯へ要求するでしょう、当然反発し憎む者が後を絶ちません、しかる後、諸侯と共に皇帝を討って貴方が王に成るのです。伯爵はその通りにして皇帝を討った」
「クローメ、アッカーマンも皇討軍の一員でしたね」
「さよう。初め皇帝は、要求を断ったコットン・クローメ侯爵領をユーテロ伯爵に攻めさせた。十日後、前線に合流した皇軍がクローメ城を攻め始めた時、城から打って出たクローメ軍と後方に回されていたユーテロ軍が皇軍本陣を挟撃し、四倍とも五倍とも言われる兵力差を引っくり返して、勝利した。逃げ散る皇軍へ、帝都までの道々に伏せた諸侯の軍が襲い掛かった。アッカーマンもこちらの敗残兵狩り部隊だった。皇帝や太子は討ち取られた」
「他の諸侯は」
「この百年ほどで三国に吸収合併されたので省略する」
「やはり、無茶な事を言うと囲んで殺されるんですねえ」
「頭の変な奴を生かして置いても、敵味方双方にとって損」
インカク帝国はペンクラ帝国の正統な後継国を自称していたが、国力は三流だった。時の皇帝は、リョーマ・キタカゼと云う若い商人の献策を採って、近衛兵団を「ダーク・ナイツ」、そして帝都を「ダーク・キングダム」と改称して、国力の増強を図ろうとした。ダーク・ナイトらは名称を恥じて次々に辞職し、ダーク・メイトら(帝都の住人ら)は皇帝の陰口を言い合った。ダーク・エンペラーの目論見では旧称に付きまとう負の印象を捨て去り、新名称の元で官民一致協力して国を盛り上げていくつもりだったのだが、結果はダーク・ボーイズへの負担だけが増えて、しばしば行政が滞った。
名を変えても体は変わらない。悪化する事もある。
槍術指南役と云う役職が昔アッカーマン国にも存在した。二代目までは戦場での活躍が記録に残っていたが、後の指南役は唄や舞踊を上手にこなす事で王の覚え目出度き者が多かった。
クローメ国も今は尚武の気風が旺盛であるけれど、国が大きく成り、安定し、豊かに成った頃、唄って踊れる武芸者の大きな顔をする時代が必ず来るだろう。
時間が経てば名と体は乖離する。
インカク帝国がクローメ国へ平和的に併合されると聞いて、酒場の男がこう言った。
「冗談じゃない。貴族様がたには殺し合ってもらわないと、平和の代償として税金を二重取りされちまう」
男の言った通り、旧インカク貴族への税金と、クローメ貴族への税金とが別々に徴収され始めたので、人々は逃げ出した。