来し方、行く末
少年は掟によって集落を追い出され旅に出る。父の知り合いの賢者に引き取られた。賢者の連れたロバは言う。
「お前は変わった顔のロバだな」
「いや、僕はエルフと人間の合いの子だよ」
「それなら俺はエルフと馬の合いの子か?」
賢者は言う。
「センセイ、子供相手に大人げ無いですよ」
賢者はいななき、そっぽを向いた。
「先生はどうして色んな国の言葉を解するのですか」
少年はロバへ問うた。
「昔、国境の十字路で草を食べているとき、蓬髪の賢者に出会った。三日三晩の、情熱の、賢者との対話、ある種の対話を通じて、世の理を知る。同時に以前の自分が、何も知らぬ頓馬なロバだった事も理解した。言葉を話せるのは、そのついでに過ぎない」
ロバは空を見て言った。
「私の事は、先生ではなく、パパと呼びなさい」
「嫌です」
少年は言って、距離をとった。
賢者は昔、王だった。隣国の王に会う為に出かけた。途中、贈り物を忘れているのに気付いて城へ戻ると、妻と奴隷が交合していたので二人の首を刎ねた。賢者は隣国の王城に到着したけれど、王は留守だった。その留守中に王の妻が百人の奴隷と交わっているのを見掛けて、自分の不幸はまだマシだったと思った。賢者は落胆して旅へ出た。野宿していると魔物が来たので、急ぎ木に登って息を潜めた。魔物は背負った箱から女を取り出してその膝枕で眠りについた。女は木を見上げて言う、降りて来てしろ、左もなくば魔物を起こしてお前を殺させる、と。賢者は女の満足するまで従った。済むと女は今までに、こうして三百四十五人と浮気したと自慢した。賢者は自分の城へ戻って、国中の処女を連れて来るよう下達した。毎晩一人の処女を抱き、夜が明けると首を刎ねた。ある夜、一人の乙女が物語を話し始めた。奇妙な風味ではあったけれど、荒唐無稽であまりにくだらない上に、勿体振って続きはまた明日の晩と言うので、朝が来る前に首は落ちた。国中から若い娘が居なくなった。賢者は家臣に国を譲って旅に出た。その旅の途中でロバと出会ったと伝わる。
ある官吏の愚痴が残っている。災喜王の子息に我儘を言われてむかつく、子息は自分の事を王だと勘違いしている、あの分だと先は長くない。
子息は同盟の人質の為、ユーテロへ送られた、同盟から半年も経たぬ内に災喜王がユーテロを攻めたので、子息は首を刎ねられた。
不平不満、愚痴もまた時として歴史を写す鏡と成る。