反攻
哀王の使者がクローメ国の顔危王へ言った。我が国にはワギナスの邪宗に誑かされる民衆が多く、哀王は大変嘆いております。クローメ国に置かれましても、聞けば太陽王の時代から、かの国の邪説が度々民衆を惑わしていたそうではありませんか。何卒ワギナスとの国交を断ち、我がアッカーマン国と和を結び、共に邪宗毒説と闘って頂けますよう願い奉ります。付きましては、酪陰の地を割譲する用意が御座いまして、と。酪陰は先代の仮杭王が幾度も伺った地であり、三国の要衝だった。顔危王は表面では渋りながらも即日調印して、ワギナスへ国交断絶の使者を遣った。アッカーマン国はワギナスへ同盟の使者を遣い、酪陰の地をワギナスの援軍と共に顔危王の攻勢から守り抜いた。以来、王の端正な容貌は醜く歪んでしまった。
「アッカーマンの使者よ、そのほうの口は形勢の良い時には悪し様に我が国を罵り、形勢不利と見るや和を乞う。そんな一貫性の無い口上を果たして信じる者があろうか、神は許されようか?」
「神は初め、氷と炎から成る魔人・ブリザレイムを造り給うた。熱い粥を食べると半身の氷が溶け、冬は寒さで半身の炎が弱まった為に、やがて魔人は死んでしまった。神は次に人を造られた。人は熱い粥を吹いて冷まし、寒い冬には吹いて手の指を暖めたので、生き延びた。このように人の口は、その時々に合わせて使えるように神は造られました。若きクローメ王は野心家だと聞きます。先王の暖めた外交関係を一朝反故にしないとも限りません。であるならば、クローメの出方を窺う意味でもアッカーマンとの和を温めておく事は決して教皇様の損には成りません。そうしておいてクローメから友好の使者が参れば、その時は致し方ありません、我が国とは手を切れば良いのです」
クローメ国のクード・クローリン将軍は酪陰を攻めたが、八ヶ月経っても落とせなかった。放浪の賢者は将軍に、監査官へ金銀宝物を与えて慰労するよう進言した。賢者の身なりが貧相だったので、将軍は言を退けた。顔危王は監査官の報告を聞いて、将軍へ死を与えた。
村の祭りに酒が振舞われ、余興で絵を一番に書き上げた者が酒を飲める事に決まりました。みな一斉に「孔雀」の絵を描き始め、ある男が一番に書き上げます。彼の絵には絢爛豪華な羽根模様の孔雀が描かれておりましたが、肝心の二本脚を描いていませんでした。周囲の者は口々にそんな孔雀は居ないと囃し立て、二番目に描かれた羽根の精彩に劣るも脚を備えた孔雀を描いた者が酒を飲むことに成ります。
次は「蛇」の絵で、またある男が一番に書き終えます。絵には質朴な蛇が描かれていましたが、余計な八本の脚が描かれており、皆口々にそんな蛇は居ないと囃すと男は、居ない筈ないじゃないか、証拠に見てみろ、脚がこんなに生えている。頭に血の昇った男はそう叫ぶと、酒樽へ飛び込んで糞尿を撒き散らし、とうとう酒を駄目にしてしまいました。
災喜王の時代にユート・イチジョウなる臣が、功無く死を賜りました。一方で、ブーンブーン・ユーテロ大公は、ジョンザ・コンカー将軍の巨大な功績(38戦37勝1引分け、11万生き埋め)に充分報いる事ができなかったので殺されました。
王は一体、クローリン将軍が酪陰を攻め落とした場合どのような褒賞でその戦功を労うおつもりか。憚りながら先王様でさえ抜けなかった城砦に王は一体、幾らの値を付けるおつもりか。クローリン将軍は既に位臣人を極めており、この上に武功を積み上げるのはコンカー将軍の如く、蛇に脚を書き足すのと同様、二心の有る何よりの証拠です。足の無い孔雀を処刑した御先祖の災喜王様に習う事があっても、負け犬ユーテロの愚に習ってはなりません。どうか王には酒を駄目にされる前に先手を打たれますよう臣は謹んで申し上げます。




