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飾邪

ジョンが言う。

「レイ・チョウラクジと云う若者は、有名人の降霊ができるそうです」

「ふうん、それでそいつが「レイ・チョウラクジ」の霊を降ろしていない時は何て名前なんだ」

言ってロバはあくびした。


幽名人を使うのは謀略の初歩




神の声が轟いた。最も多い望みを一つ叶える。人皆世界の平和を望んだ。皆の願いは分かった。これより人類の粛清を始める。地上の生き物は人類の死滅を望んでいた。


この話は頭の下手な人が作った物だろう。樹の声を聞ける者ならば、奴らの望みを知っているだろうし、虫の声を聞ける者ならば、奴らの願いを知っている。

年老いた樹は、足元の若木が不当に地の養分を掠め取る事にいつも立腹している。若木は頭上の老木が不当に日の光を独占している事をいつも恨んでいる。昔、帝国が逃亡者を追って森を焼き払った。森の声を聞く者は、森を焼かれた悲しみではなく、若木たちの喜びの歌を聴いたと云う。

虫は競争に絶えず晒され、兜虫は兜虫を蹴落とし、鍬型は兜を引き摺り下ろし、かなぶんはその隙に樹液を盗み取る。かなぶんを鍬型が討伐し鍬型を兜が振り落とす。虫にとっては蜜の奪い合いこそ平和であり、争いの無い世界とは即ち絶滅した「オワリノセカイ」だ。


森と鯨団(神聖ワギナス教系の宗教結社)の狂信者にはとても言えない話




猟師が樹の上で獲物が来るのを待っていた。ミミズが土から這い出した。カエルはミミズを食べてしまった。そのカエルが今度は、蛇に跳び掛かられて呑まれてしまう。猟師が興味深く見ていると、雉が蛇を咥えて高く飛び上がり、蛇を落として、また咥えて飛ぶと、地面に落とした。とうとう蛇が死んだので、雉は美味そうに蛇を食べ始めた。ぼうっと見ていた猟師は我にかえって、雉を射るために弓を構えた。しかし、狙いは付けたがどうにも手が動かない。そうする内に、蛇を食べ終えた雉は飛び去ってしまう。今日は仕事にならんと思って樹から下りた時、猟師命を拾うたな、と言われたので急いで山を後にした。


雉も撃たずば撃たれまい




ジョンのお使いで少年が言付けに行く事になった。好奇心と不安に鼻の穴を大きくして少年が出立しようとすると、ロバが少年を呼び止めた。

「何でしょうか」

「王都に行って帰る三日の間に、柱の無い家に宿泊しちゃいけない」

この人は一体何を言っているんだ、そんなもの在る訳ないだろう、と言いそうになったけども、長話になるので我慢した。

「はい、承知しました。行ってきます」

「あー待て待て、大事な事を言い忘れていた。もしも旅の途中で優しい女に出会ったなら屁をこきなさい」

「はい?」

「屁をこいても優しい様なら、もう一度こきなさい。それで怒るなら謝罪すれば良い。二度屁を聞いても優しい場合は逃げなさい」

「はぁ、分かりました。では」

「あー待ちなさい。大事な事を言ってない」

長くなって来て、折角の冒険心が退潮し始める。くだらない事ばかり言って人の旅に水を差しやがってと思う。

「鼠の長生きしたものは、化けて人を食い殺すように成るから気を付けなさい」

「はい、では」


少年が歩いていると、空が曇ってすぐに雨が降りだした。急いで雨宿りできる場所を探すと、丁度、洞窟の口が見つかった。しばらく雨の降る様を見ていたが、一向に止まなかった。今日は少し早いけどここで寝て明日朝早くに出発しようか、と考えた時にロバの小言を思い出した。柱の無い家とは、この洞窟も見方によれば柱の無い家と言える。ロバの予想に嵌って、遠くでニヤニヤ笑われているように感じて、ムカついたので洞窟を出た。途端に洞窟の天井が崩れ、今居た場所を埋めてしまった。


また少年が歩いていると、日が暮れた。荒野に一軒の家があったので、馬小屋の隅にでも泊めてくれないか尋ねると、その家のおばお姉さん(竹簡に塗り潰した跡ありオバサンを言い直したものと思われる)はそう言わず離れを使えと親切にしてくれた。ロバが親切な女性に注意せよと言ったのを思い出して、試しに一つぷぅとこいてみた。お姉さんはピクリとも変わらぬ笑顔で少年を家に招き入れた。キノコ入りの獣臭い雑炊を勧められたので、屁をこいて、こきがてら旅の途中で夕食を摂ったから腹に入りませんと辞退した。この時も顔をしかめたりせずに優しい笑顔のままだった。離れに案内され、布団を与えられ、これはいよいよ親切の度が過ぎる、どうしたものか思案する。布団の中に枕を詰めて人の形を造り、自分は押入れに隠れて様子を窺った。夜中、どんと音がした。見ると布団に槍が突き立っていた。オジサンは槍をしごいて布団をはぐると舌打ちし、すぐにお姉さんと共に家を飛び出して少年の行方を追った。少年は押入れから出ると、二人の出て行った反対の方向へ逃げ出した。


お使いを済ませて帰り道、日暮れて、少年は古いお堂に泊まることにした。夜中、ごりごり、と屋根を這う音で目が覚めた。もしやロバの言った鼠の化けたのが出たか。鼠ならきっと猫を怖がるだろうと考えて、少年は長いまつ毛を震わせながら、一生懸命に「にゃお、にゃお」と猫の鳴き真似をした。肩をいからせ躯を大きくする。首に薄い汗が浮く。装束の裾を握り締め、鳴いた。足を踏ん張って「にゃお、にゃお」と鳴いた。すると屋根をだっだと踏んで化け物は逃げて行った。


少年は旅の話を終えて、ロバに感謝を伝えた。ロバは答えて言う。

「賢者と親は無駄な話をしない、馬鹿と他人はいつでも無駄な話で足を引っ張るものだ。茄子の花が咲けば必ず実を結ぶように、賢者の言葉は必ず実を結ぶ」




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