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ワギナス興隆3 ペプシカ・ビービー

ブギーには三人の王子が居た。馬鹿な王子と、普通の王子と、賢い王子だった。それぞれ順に、普通の王子、賢い王子、馬鹿な王子、と評判だった。

人並みの才能を持つ「賢い」王子の派閥では、王の子の内で能力ある、賢い者を次代の王として推戴するべきだと「子賢論」が唱えられた。彼が次男だった為である。

知性の劣った「普通の」王子の派閥では、王権へ人の才能ごときでは触れ得ない「天授論」、そして天の意は産まれる順に現れるという「子長論」を唱えた。彼は長男であった。

賢い「馬鹿な」王子の派閥は、生まれがどうであれ、才能と善なる心を持つ人物が継承してゆくべき「譲賢論」を主張した。彼は遊女の子で、人相は先王と似ていなかった。


国内は大いに乱れた。乱世は英雄を産む。元・金の卵の王国近衛兵団、副団長ティボン・ビービーと、ルシールの子、ペプシカ・ビービーこそ第四の英雄であり、神聖ワギナス教の根本思想を作った賢人だった。

彼は「王貧論」を唱えた。これは王に財産を集約する為に世は乱れ、反って財産の散逸を招いてしまう。ならば王こそが貧者と成り、財貨の収集、投与は機構が行えば良い、と云うものだった。

ペプシカは近衛兵系の人脈を駆使して勢力を拡大し、「普通の」王子と「賢い」王子の首を切り、「馬鹿な」王子を財務機構の初代長官へ据えて、自らは貧王となった。


経典では、ビービー王が最初に神の啓示を明確に受けた王であり、それ以前の英雄は啓示を不完全にしか受けていなかったので、統一までは出来たけれど、すぐに駄目に成ったのだと云う。


四年して、初代長官が引退したので、ビービーは、フレディ・ウェイに王位を禅譲し、財務機構の長官へ自ら就任した。王位経験者であり、かつ経済的にも成功したのは、後にも先にもビービーだけである。

それは第五の英雄フレディ・ウェイの為だった。先王の唱えた「王貧論」を自らが反故にする様な進退に反感を覚えたフレディ王は「王位経験者は、財務機構のみならず他の役職にさえ就く事を禁ずる」と法を立てた。また王位の禅譲を、王の一存に任せる危険性を察して、元老院による選出とした。この元老院は、後の枢機院である。


第六の英雄アルバート・サインは元老院の選出に依って王と成った。即位してすぐに、元老院の席数を増やした。恩着せがましい元老院貴族を抑える為だった。また「王貧論」や、それ以前から在る素朴な信仰(金の卵が王都へ持ち込み、離合集散の末に発展していた)を統合して、「ワギナス信仰」を整えた。


聖典では、フレディ王と闇の魔術師四天王との対決、アルバート王と火吹き竜の大軍勢の衝突、を数えて七つの内戦とするけれど、二人の王の治世は安定しており、実際の戦争は無かった。


また、アルバート王の整えたのは、価値判断や戒律と倫理、共通の信仰対象くらいであり、「神聖ワギナス教」に見る諸々の儀式、会館や小道具、書物やら手信号やら図像論などは「ワギナス信仰」には見られない代物だった。ワギナスは別に世界を創造なんてしていなかった。


それらは第七の、いわゆる「終にして永遠の」英雄ソーヤ・トーマの教え広めた文物である。



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