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書類記入…気持ち悪くなってきました

 正直私が見張りの役目を果たせていたかはちょっと怪しい。

だってパダムさんの耳や尻尾が寝ている間にひくひく動くし。

起きている時の姿からは想像できないぶなーぅっていう猫みたいな声が出るんだもん。

最初は周囲を恐々見てた私も、いつのまにかパダムさんの寝相観察に熱中してしまった。


 そんな事をしていたら、月は大分傾いていた。

時間オーバーしてしまったのは怒られるかも知れない、そう思うとなかなか体はパダムさんを起こそうと出来なかったけれど。

勇気を出してパダムさんに声を掛けた。

それは蚊の泣くような声だったけど、パダムさんは耳がいいのかそれだけで起きてくれた。


「パダムさん、そろそろ……」

「ん、ああ。俺の番だな。朝まで安心して眠っていろ」

「ふぁい、それじゃあ、お願いします……」


 パダムさんの起き抜けなのにしっかりした声に安心して私は腰につけていたウェストバッグを枕に。

マントをシーツにしてあっという間に眠りに就いてしまった。

あんなに歩いたの、久しぶり……。




 肩を揺さぶられて起きた時は朝もやの晴れた、すがすがしい朝日の時間帯だった。

遠くに街を囲む石壁が見える。


「おはようございます……ふぁっ」

「まだ眠そうな顔をしてるな。水が出せるなら顔を洗うと良い」

「はいぃ」


 私は言われるままに焚き火スペースから少し離れたところで。

祈念法で出した水球の中に顔を入れてさっさと顔を洗う。

前髪とかがちょっとぬれちゃうけど、この際しかたないよね。


 荷物のところに戻って昨日使ったタオルを……あ、そんなの使わなくても祈念法で水気を消しちゃえばいいんだ。

というわけで、マントの敷いてあるところに戻ったら早速パダムさんに朝ごはんの催促をされました。

彼の部族では男も女も一日の労働のために朝からガッツリ食べるらしく、軽い朝食は老人用なんだとか。


 そんなわけで私は今回マルムークという四足の獣の腿肉を出す事になりました。

私は、そんなに食べられないからと、パダムさんにお年寄りが食べる軽食の名前を教えてもらってそれを出しました。


 パナティという、お粥みたいな食べ物で、緑色の豆っぽいものが薄茶色のご飯の中に、色んな色の野菜と一緒に入ってるの。

食べてみたら少し酸味と甘みが効いてて、よく噛むとかすかに塩気を感じるという感じ。

野菜ぞうすいみたいなものかなーと思いながら食べました。


「キリコ、お前はまだ育つんだから肉を食べ方がいいぞ、肉を」


 なんてパダムさんには言われたけど、ちょっとぽっちゃり気味なのは解ってるの。

心機一転のついでにダイエットしてみせますっ。




 それからは、私達二人が揃ってその場を離れると自然に火が消えたのを確認してから。

また休憩を挟みながら歩きました。

私の今はいている革靴は神様お手製の革靴なので靴擦れの心配はないんですが、弱すぎる足裏に豆ができるのは防げないようで。

ついつい変な歩き方になっちゃってるのを見たパダムさんに見抜かれました。


「キリコ。お前ちょっと足を見せてみろ」

「え、え?だ、だめですよ。ズボンなんだから足を見せるなんて」

「そうじゃない。足の裏だ。豆になってるだろう」

「えと、わかりません」


 私が煮え切らない態度でいるとパダムさんはいきなり私を捕まえて、童話の人攫いみたいに私を担ぎ上げました。


「わわ!なにするんですかパダムさん!」

「豆が潰れると辛いぞ。特に今は薬草もないしな。お前にはお前のできることがある。大人しく担がれておけ」

「……はい」


 はぁ、なさけないわが足裏。

昨日歩いた時間だって一、二時間だと思うのに。

もう豆ができちゃうなんて。

まさかあんまり弱すぎて鍛えられずに小康状態なんてことないですよね?


 そんなバカな事を考えていたら、ふと気づいてしまった。

パダムさん、結構速く歩いてるのに私がぜんぜん揺れを感じない。

これってどういう事?と思って聞いてみると簡潔な答えが返ってきた。


「アジャムの闘士は森で体の姿勢を保つ必要がある。平地で無駄に体を揺さぶる者などいない。そんな奴は未熟者だけだ」


 なんとも心強いお言葉に、思わずパダムさんってどのくらい強いの?っていまさら聞くことにする。


「あの、パダムさん」

「なんだ?」

「パダムさんはどれくらい強いんですか?」

「む。そうだな。キリコに解りやすくいうとだな……」


 パダムさんのいう事にはダガダガという大きな身体の野獣がいるらしい。

そのダガダガは、パダムさんの三倍の高さを持つ獣で、尻尾から頭まで家三軒分はあるという凄いのだって。

パダムさんは、一対一でそのダガダガを一方的にやっつけちゃうらしい。

なんでも部族の中の古参の勇者を加えた闘技の祭りでも敵無しで、最終的にお前はずっとチャンピオンだから参加しちゃダメといわれたとか。


 うう、そんな凄い人が召喚に応じてくれるなんて、私どうしたらいいんだろう。

いや、いやいや、ここは冷静になろう。

パダムさんは食べるのが大好きだ。

昨日のルーダーとかダ・イルグを食べていた時の顔は子供みたいだった。

私が色んな美味しい料理を出せるようになればそれだけでパダムさんに報いることになるはず!


 固い決意を固めた私は街に行ったらどうするかを考えていた。

まず、屋台を始める。

ご飯をパッと作り立ての最上の状態で出せる私にはお似合いの仕事だ。

材料の仕入れもいらないし、必要なのは屋台を用意して許可を貰うためお金だけ。

その為の初期資金は、神様から少し多めに貰ってる。


 なんの憂いもなし!と言いたいところなんだけど、私はてきめんに公式な書類へ記入をしたりするというような。

大事な場面に弱いのだ。

できるならパダムさんに手続きは全部パダムさんにやってもらいたい。

……でもパダムさんの性格だと自分の始めようとしていることから逃げるな!って言いそう。


 そんな風に考えて少し震えていた私の動きを感じたのか、パダムさんは足を止めた。


「どうしたキリコ。具合でも悪いのか?」

「う、ううん。ただ、先のことがちょっと心配なだけ……」

「……そうか、気をしっかりもて。俺もできることならお前を手助けするし、きっとお前を手助けしてくれる人間もいる。だから竦むな、共に行こう」

「あ、ありがとう、ございます」


 パダムさんに背負われた私の頭が撫でられて、少し落ち着く。

僅かなゆれもなんだか心地いい。

そして私はパダムさんの少し固い、つんつんする毛並みを感じながらいつのまにか眠り込んでいた。



「おいキリコ。着いたぞ」

「ふあっ」

「街だ。エルモットというらしいぞ」

「え、えと」


 私はいつの間にかパダムさんに横抱きにされていて、周囲を見てみると皮鎧を着込んだ槍を持った男の人二人。

それからとんとんと机の上の羊皮紙の上を指先で叩いているひげのおじさん。


「君、そのパダムという従者の主だろ。しっかりしなさい。街に入るには名前の記帳と人足税100セムに、使役税60セムを払った後、この地方の手配書との照らし合わせが必要だ」


 私は強い口調のおじさんに若干気押されつつ、パダムさんに対して口を開く。

ちょっと口調がぎこちなくなってしまったけど、堪忍してほしい。


「パダムさんおろしゅ……降ろして」


 がちがちに緊張した怪しい動きでおじさんが席に着いた机の前に行った。

そしてら控えの人達の槍の穂先がこっちを向いた。

泣きたいよ……。


「顔色が悪いが……なにか後ろ暗い事でも?」

「いえ、その、私、ひ、人と話すっていうかー……こういう手続き、苦手で。えっとですね、名前を書き損じないかとか、そういう事ばっかり考えちゃうんです!だから後ろ暗い事とかはぜんぜんなくて……」


 必死にまくし立ててちょっと息が苦しくなってきたところで、おじさんが飽きれた顔で私に言った。


「解った。解ったから早く自分の名前と従者の名前を記帳しなさい。今は君達だけだがいつまでもそうとは限らないからな」

「は、はいぃぃ……!」


 促されるままに震える手で羽ペンを握る。

うう、羽ペンなんか握った事ないから巧く書けるかわかんない。

っていうか名前の記入欄ちっさい!私本当にこれ書けるの!?


「インクが乾く。書きなさい」


 少しいらだった様子のおじさんの声に押されて、震える手で記帳した文字はなんとか読める程度のガクガクの文字になってしまった。


「……キルコとアダムか?」

「ちち、違います!キリコとパダムで……!」

「はぁ。君のような旅人は初めてだよ。次、入街税」

「は、はいー……」


 一番の難所は何とか越せた。

お金を渡すくらいなら普通にできる。


 なので滞りなく160セムを渡すと、パダムさんと分けられて個室に通された。

そこで少し優しそうなお兄さんにパラパラと人相書きらしい紙と見比べられて、私は無事に街に入る事になった。

お兄さんいわく、人相書きの手配なんてほとんど男だから君みたいな女の子は心配いらないよ、という事だった。

でも、世界に似た顔は3人いるっていうし、結構緊張した。


 それで、少し待つとパダムさんもすぐに私の後に続いて出てきた。

彼はからからと笑って三角の耳を引っ張り上げながら言った。


「俺みたいなご面相の奴はこの土地にはいないんだってよ。被り物かと危うく皮を剥がれる所だった」

「そ、そんな怖い冗談やめてください」

「わはは!怖いなら俺の口の中に隠れるか?」

「入りません!もう、心配させないでください」

「ん……そうか、キリコはまじめだな。すまん」


 私がいじけてパダムさんのお腹の毛を引っ張ると、彼はぽんと私の頭の上に手をのせて慰めてくれた。

と、そんな感慨に浸っているところではなかった!すでに日は高いお昼になる前にまずこの街の役所に行って、飲食業の認可がどうなってるか確認しないといけない。


「あの、すいませんパダムさん」

「なんだキリコ。俺の力の使いどころか」

「ある意味そうです。私をおんぶして、走ってください」


 一瞬微妙そうな顔をしたものの、パダムさんは任せろと言って私を背負ってくれた。

2mの高さに自分の上背分を足した視界はちょっとひょわっとなる高さで、見晴らしも良かった。


「すいません。そこの赤い頭巾を被ったロングスカートのお姉さん」


 私に声を掛けられてそのお姉さんは明らかにビクリとする。

それはそうかも、だって2mくらいある筋骨隆々のふんどし獣人に跨る女の子に声を掛けられたら誰だって驚く。


「申し訳ありませんけど、街役場ってどこでしょうか」

「え。ええと、それはこの大通りをまっすぐ行って中心に噴水のある庭がある建物がそうだけど……」

「ありがとうございます。パダムさん、走ってください。お役所仕事は今を逃すとお昼過ぎまでなにもさせてくれなくなりますよ!」

「わ、解った。なんだかやけに力が入ってるなキリコ……」

「お役所って時間掛かりそうだから、か、覚悟は決めてるんだから。勇気があるうちに用を済ませたいの。急いで」

「ふぅ。じゃあそのやる気に免じてアジャムの全速、見せてやるとするか」


 全速?と思った時には人通りの多い道の風景が一気に横に流れ始めていた。

パダムさん、はやす……ぎぃぃぃぃ……ひぃぃぃ!ジェットコースターみたいな風が、風がぁ!

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