生徒会
昔、一つの王政大国があった。
高度な魔術によって栄えたその大国に、ある日双子の王子が生まれた。
国中が王子の誕生を祝福し、誰もが大国の更なる繁栄を期待した。
しかし、王が死に新たな王を双子のどちらから選ぶ段階になり、双子の間ですれ違いが起きた。
兄は魔術の才に長け、弟は人望に篤かった。
兄は巨大な国を守るには何よりも力が大切だと言った。
弟は巨大な国は人によって守られるべきだと言った。
どちらが正しく、善き王として相応しいか意見は王家とそこに仕える家臣達を見事なまでに二つに分断し、やがて戦争に発展した。
兄は魔術の才と魔力の強い者を集めて軍を作った。
弟は複数の人間が魔力を合わせて、悪魔や幻獣を召喚、使役する軍を作った。
その戦争はただ自分の考えの正しさ、自分こそがより善き王である証明のためだけに起きた戦争だった。
それゆえに両者は己の信念を譲らず、戦争は長引いた。
多くの血が流れた。
多くの命が奪われた。
戦争を止めるよう進言した者もいた。しかし、兄はもちろん、人望に篤い弟までも耳を貸さなくなってしまった。
誰もが祝福し、国の繁栄を期待した双子が国を衰退させ、希望も終わりも見えない戦争に明け暮れた。
そんなある日、戦争はたった一人の少年の登場によって、わずか1日で終結した。
その戦争から数百年の月日が流れた現在。大国は二つに分断されたまま、それぞれが一つの独立した国として成り立ち、条約の元に平和と繁栄を謳歌している。
「そして、ここオメガディア造形学園は知っての通り、戦争を終わらせた少年が設立した学園都市。造形使を目指す君達の学舎であり、卒業するまでの我が家です。
慣れないこともあるでしょう。辛いこともあるでしょう。わからないこともあるでしょう。ですが、先生方が、先輩方がきっと助けてくれます。だから、心配する必要はありません!」
オメガディア造形学園の制服を着た金髪の美少年が数百人の新入生と向き合って演説をしている。彼はこのオメガディア造形学園の生徒会長を務めるレイアス・ゴルド。造形学園で最も実力のある生徒で、その容姿と人望からほとんどの生徒から慕われている。
「最後に、僕達先輩一同は君達の入学を心から歓迎します。オメガディア造形学園入学おめでとうございます」
素晴らしい生徒会長挨拶に入学式会場には拍手の嵐が巻きおこった。
造形使。
それは形無き物に形を造り、使う者。
数百年前に戦争を終わらせた少年オメガディアが造り出した魔術でも召喚術でもない新しい術。
ゴーレムを形造る新しい魔法。
ここオメガディア造形学園都市は先の戦争で2つに分断された大国のちょうど境目に築かれた都市だ。少し変わった地形をしていて、荒野に数十平方kmに渡る台地の上に築かれている。この台地だが、大きすぎてその全体像は普段わからないが、上空から見ればその全体像がわかる。人が俯せに横たわる姿を思い浮かべてもらいたい。この台地はまさにそれを何百倍にも巨大化させた形をしている。
当然、そんな奇妙な形が自然に造り出せるはずがない。この台地こそかつて造形使オメガディアが戦争を終わらせるために造り出した一体の超巨大ゴーレム。既に活動は完全に停止して、学園都市の土台になっているのだ。
その胴体の中心に位置する一際大きな建物がオメガディア造形学園。学園と呼ぶにはあまりにもきらびやかで、どちらかと言えば、城のような造りをしている。その一部屋ごとに春に入学したばかりの新入生達が造形使になるための勉強をしている。
そう思うだけで、レイアスは新入生に負けないように頑張らないといけないと思いながら黒板の文字をノートに書き写した。
「まあ今さらだが、レイアス。ゴーレムの基礎を言ってみろ」
先生に指名されたレイアスは立ち上がった。
「ゴーレムを造形するには材料が必要になります。土や石などが扱いやすく調達しやすいでしょう。
次に材料を造形します。造形には材料同士を魔法で造り出した糸、あるいは骨格で繋ぎあわせます。
最後に、造形使の魔力を核にゴーレムと結合させます。この結合も魔法で造り出した糸などを用いますが、造形使本人の体力や魔力によってゴーレムの稼働に影響が出ます」
「その通り。君達もさっきから懐かしそうに外を見てますね」
教室の全員が窓の外に視線を向けた。外では運動着を着た新入生達がランニングをしている。一見無関係に思えるランニングだが、ゴーレムの造形及び稼働には魔力はもちろん、体力や身体能力が深く関わっている。どんなに魔力が強くてもゴーレムを動かすだけの体力が無くてはいけないのだ。そのため、新入生達は何より先に体力作りを優先させられる。この体力作りは魔力の向上にも繋がるため、新入生達には是非頑張ってほしい。
「この学園都市の土台になっているゴーレムを造形したオメガディア様ってどれだけの魔力と体力があったんだろうな」
クラスメートの一人が呟いた。
「一説には自分の魔力を使わない方法を用いたのではないかと考えられているそうだが、未だに謎のままだ。さあ、授業を再開させるぞ」
造形理論の授業が再開された。今、レイアスが学んでいるのは現在の造形術の可能性を知るための授業だ。
主にゴーレムは土や石など形がある物質を造形している。しかし、世界には形の無い物質も存在する。例えば水。あるいは火といったものだ。理論上は造形が可能らしいが、研究者の間でも成功例が無いという。
「君達の中から造形術を発展させる人がいることを願うよ」
先生がそう言い終えるとちょうど終業の鐘が鳴り響いた。先生は教材をまとめて教室を出ていき、生徒達も教科書をまとめて、寮に帰る準備を始めた。
「レイアス。この後、皆で町に行くんだけど、レイアスもどうだ?」
クラスメート数人がレイアスを取り囲み、期待に満ちた眼差しで見つめている。
「ああ、今日生徒会なんだ。その後だったらいいけど……ひょっとしたら遅くなるかも」
「そうか……生徒会長も大変だな」
「次の日曜日に穴埋めするよ」
レイアスは苦笑いしながら教室を後にした。
レイアスが生徒会室の扉を開けると、生徒会室には銀髪の美少女が脚を組み、窓辺で読書をしていた。制服のスカートの丈の長さは規定通りだが、光沢を帯びるほどの美脚を挑発的に見せつけている。
「関心しませんね。これ見よがしに脚を見せつけるなんて」
レイアスは少しトゲのある言い方をした。
「なら、見なければいいでしょう?生徒会長」
美少女は更に挑発的な口調で返した。彼女はオメガディア造形学園の副生徒会長クイン・ソー。植物系のゴーレムの造形を得意とし、学園次席の実力者だ。
ゴルド家とソー家は由緒ある造形術の家系で幼い頃から互いに競い会う仲だ。しかし、それゆえに二人は二人っきりの時はお互いに好戦的だった。二人のこうしたやり取りは今はまだ外部に漏れていないが、普段は仲の良いふりをしているせいで、二人は付き合っているのではないかという噂が出回っている。もちろん、事実無根なのだが。
一発触発とさえ言える現状は他の生徒会役員の登場で幕を下ろすことになる。
「先日の入学式はお疲れ様でした。皆さんのお陰で、滞りなく終了できました。
さて、本日の議題ですが、月末のデモンストレーションに何をするかということで話していましたが、何か考えて来ましたか?」
生徒会室の円卓には生徒会長のレイアスと副会長のクイン。他に書記と会計、運動部統括部長と文化部統括部長の六人が集まっている。
「昨年は吹奏楽部の演奏に合わせて、運動部員のゴーレムによる集団行動でしたね」
集団行動は多数の生徒が造形したゴーレムを寸分の狂いも無く動かす演目だった。これには数ヶ月前からの特訓とゴーレムの操作に長ける選抜された生徒が不可欠だった。
「さすがに今からでは間に合いませんね……」
「一昨年は演劇部によるゴーレムを用いた演劇でしたね」
「念のため演劇部にやらないかオファーはしてみたんですが、台本が間に合わないそうです。運動部のゴーレム組手なんてどうですか?迫力は十分ですよ」
「いや、今運動部の選抜選手は合宿中でいないし、月末には帰ってきているが、そこから組手は出来ないと思うぞ。残った部員じゃあ迫力に欠けるし……」
意見に行き詰まってしまった。
「組手で良ければ、私とレイアスの模擬戦なんてどう?」
口を開いたのはクイン。
まるで、その言葉を期待していたかのようにレイアス以外の四人は目を輝かせた。
「ええ!是非!!」
「私も副会長の意見に賛成です」
「学園トップクラスの模擬戦なんて滅多に見られるものじゃない。是非運動部からもお願いするよ!!」
「なんなら演劇部と吹奏楽部に頼んで、簡単な劇とBGMも入れますよ」
まるで、クインと他四人が予め結託していたかのように行き詰まった会議はレイアスの承諾のみになってしまった。おそらくクインはこれを口実にレイアスとの模擬戦の練習で放課後や休日を食い潰すつもりだろう。しかし、レイアスに拒否権は無い。
「わかりました。では、月末のデモンストレーションは僕とクインの模擬戦ということで決定します」
平常心を保ちつつ、決定を下すのが厳しい決定だった。
放課後と休日を食い潰されるというのも、クインがやけにレイアスに対して挑発的な態度を取るのも理由がある。実はレイアスとクインの間には圧倒的な差がある。今までに二人で模擬戦をしたのは一度や二度ではない。その全てにおいてクインは未だにレイアスに勝っていないのだ。運動部に紛れて体力作りや格闘技を学び、ゴーレムの操作に活かしているはずなのに、未だにレイアスに勝っていないのだ。
そのため、生徒会の会議が終わり、レイアスとクイン以外の四人が帰ると当然のように宣戦布告をするのだった。
「今度の模擬戦で貴方を地面に這いつくばらせてやるわ!!今度こそ!!」
その日はレイアスに練習を付き合わせること無く、生徒会室を後にした。