夢の中の少女
僕は大学1年生。
まだ入学したてで、毎日忙しい日々を送っている。
世間体から見れば僕は生活が充実しているいわゆるリア充かと思われるかもしれないが、そんなことは全くない。
見た目がそれほどカッコよくないせいか、はたまた人と話すのが苦手なせいか、女子とはほとんど関わりを持っておらず、男子と過ごしてばっかりの生活を過ごしているのである。
僕としては、今の生き方でもいいと思っている反面、少し女子とも関わりをもっていたい!と思う。
そう思うのには理由があって、『恋愛は人の考え方を変える』という文面をとある本屋で立ち読みしていた時に見つけたからなのだ。
僕は今のこの性格が大嫌いで、女子との関わり合いを通じて自分の考え方を見つめ直すことが出来るというのは、今の自分にとっては、願ってもないことなのである。
とはいえ、実際に女子と話すとなると、何を話したらいいか分からない。今日も、
「今日は暑いねー」
「そうだね、というかここ最近ずっとだね」
「こう暑いと何もする気起きなくなるよね」
「そうそう、もう少し涼しくなってくれるといいんだけどね」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
といった具合で話がはずまなかった。
はあ、どうやったら僕は話すのが上手くなるのだろうと自嘲気味になり、へこんで家に帰ってくる。最近はずっとこんな毎日が続いている気がする。
上手くいかない毎日。そんな日々を変えてくれる転機がいつか来るのだろうか。それとも、この調子で1年を過ごさなきゃならないのか。未来のことは誰にも分からない。つまり、考えても仕方のないことなのだ。
「はぁ・・・、寝よ」
僕は考えることをやめ、布団に入り、静かに目を閉じた。
目を閉じてから数分ボーっとしていると、僕は体ごとどこかへ持って行かれるような感覚に陥った。まるで、別世界へいざなわれたような、そんな感覚。そして、次に目を開けた時には、見たこともないような世界が広がっていた。
空は青い、そこは普段と変わらない。だがそこには一面のお花畑が広がっていて、一人、少女がたたずんでいた。その子は麦わら帽子をかぶり長い黒髪をなびかせ、白いワンピースを着たまるでお人形のような少女だった。
僕にはこれは夢だ、とすぐに分かった。この世界には自分とこの少女以外、人がいなさそうだったからだ。
そうだ、夢ならいくら話しかけて失敗しても大丈夫だ、と誰かが直感的に僕にそう告げる。その言葉につられて僕は思い切って少女に話しかけに行こうと決心する。
歩き出す。足元は一面花だらけでとても綺麗だなと思いながら歩みを進めた。そして少女の前で足を止めた。近くで見るとその後ろ姿は一層かわいらしいものだった。
僕は意を決して話しかけようとする。何事も最初が肝心だ。出だしをくじいたら、あまりいい方向に進まないというのは今までの経験上よくわかっている。
そうあれこれ考えているうちに少女の方がこちらに振り返ってきた。その顔は良く整っていて、目は真ん丸としており、とても可愛らしい顔立ちだった。
そうして観察しているうちに、こっちの出鼻をくじくように、少女の方が口を開く。
「何だよ」
「・・・え?」
僕はその見た目とは裏腹の言動に思わずキョトンとしてしまった。その可愛らしい少女から発せられた言葉は男らしい、荒い口調だった。その女の子は続けた。
「何か用?」
僕は女の子と話す練習がしたいとはとても言えないので、どう答えていいか分からず、でもすぐ答えなくては変に思われてしまうと思い、答えた。
「あ・・・、今日は良い天気だなって」
やってしまった。いつもと同じミスをしてしまった。これだとまたいつものような続かない会話が成立してしまう。ああ、何でいつもこうなんだろう。夢の中でさえちゃんとした会話ができない自分が情けない。この女の子ともちゃんとした会話ができないまま終わってしまう、そう思っていると、少女は突然ニヤリと笑い、
「お前、コミュ障だろ」
「え?」
僕は意表を突かれてしまい、またまたキョトンとしてしまう。少女は続ける。
「そんな顔をするってことは図星だな。今の一言で大体分かる。最初に天気の話を振るやつは大体コミュ障だからな。だが、話題を振っても話は続かないだろう。だったらなぜ私に話しかけた?何かわけがあるんだろ?」
少女の発言は的を射ており、僕は何の反論も出来なくなってしまった。僕はもうどうなってもいいやと思い、本当のことを細部まで話した。自分が女の子と話すのが苦手なこと、そのために話しかけたことまで。真剣な表情で聴いていた女の子はケラケラと笑い出した。
「そういう訳だったか。いいよ、私が相手してやるからいくらでも話して慣れろ。」
その女の子は言葉づかいとは裏腹に優しい子だった。僕はその言葉を聞いてなんだか心の中のわだかまりが取れたような気がして、とても嬉しい気持ちになり、色々なことを話し始めた。大学生活のこと。女の子に話しかけた時の失敗談。自分が心の中で思っていること。
ああ、どうしてだろう、普段女の子に向かってあまり話せないはずなのに、この子に対しては次から次へと話があふれてくる。その女の子は僕の話を快く聞いてくれた。時に笑い、時に同調してくれ、その女の子から喜怒哀楽が見てとれた。こんなにも自分の話を楽しそうに聞いてくれる人は今までにいなかったかもしれない。
僕は話すのってこんなに楽しいことなんだ、この子にだったら何でも気軽に話せるかもしれない、そう思った。しかし、話しているうちにハッと気づいた。そう、これは夢なのだ。現実では上手くはいかないかもしれない。そう思って落胆すると、女の子はこれに気づいて、
「どうした?」
「いや、これって夢なんだなあ、って」
「確かにそうだな。これは、夢だ。だけど、夢だからこそできることもある。こうやって話を聞いてやることもそうかもしれない。後はお前がそれを現実世界でどう生かすか、それはお前次第だ。」
少女は続けた。
「もうすぐ朝が来る。どうだ?今日のでだいぶ慣れたか?」
「はい、慣れた気がします。でも現実ではそう上手くいくかどうか・・・」
と自信なさそうに答える僕。
「そうかそうか。あとは自信を持ってやれ。そうすればきっと上手くいく。自信をもつこと。それが大事だ。また辛くなったらいつでも遊びに来い。私はいつでもここで話を聞いてやる。」
少女はケラケラと笑った。そしてその姿が段々と薄くなっていく。僕はそれに気づいて、
「待って!」
と叫んだがその姿はなくなってしまった。
一人立ち尽くす。ぼうっとしていると目の前に光が差し込んできた。
まぶしくなって目を開けるとそこは僕の部屋のベッドの上だった。僕は起きたという事実を把握したのち、すくっとベッドからその身を起こした。僕は、少し寂しさを覚えたが同時に少し自信が持てた気がした。
「また、あの子に会えるかな・・・」
「夢の中でまたあの子に会いたいな・・・」
「さて、今日も頑張るぞ!」
そう思い僕は部屋を飛び出した。
処女作になります。
何しろ右も左も分からないまま作ったので、良かったら感想やアドバイスなど頂けるとありがたいです。
よろしくお願いします!