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序章 少年騎士、あるいは魔法使い?

執務室がにわかに騒ぐ。そこにいるのは十人にも満たない者たちだった。



「………陛下、今なんとおっしゃいました」



三十代過ぎのベテランたちばかりの中でいちばんに口を開いたのはまだ年若い少年だった。王家直属の近衛騎士団の制服に身を包む様は年不相応に隙がない。



そんや少年は、いましがた自分に向かい言われた言葉に信じられない気持ちで聞き返す。



対して、陛下と呼ばれた妙齢の女はおだやかな面持ちを崩さず、ゆったりと、しかし威厳に満ちた口調で繰り返す。


「『永久機関』……いやエリクシアを復活させる。その魔法士として、貴殿を指名する。そういったのよ」



「陛下っ、 それは、」


ようやく硬直から解けた一人の男が女に詰め寄る。少年と似た制服の男は一瞬、ちらりと視線を向けられるが、臆することもなく言葉を続ける。


「何故、何故百年もの間空席だった『永久機関(エリクシア)』を今さら…」


「ちょうど百年たったこの年だ。歴史の節目として再興させても構わんはずよ」


「……それならば何故よりにもよって、ノエラ・ジル=ヴァストリハを。彼はまだ16の子供でございます」


「………………はっ、下世話なことを言うなぁ。近衛騎士團団長よ」


「────っ!」


つまらない、とでも言うような冷めきった表情を向けられ、男は礼儀も忘れ、憎々しげに眉を寄せる。しかし何も言い返さない。否、言い返せないのだ。



この場の誰もが皆知っている。この女は以前までの男尊女卑の世界を打ち破った強かさを持つ。そうなめてかかっていい相手ではない。



誰も容易に口を開けなくなった場はしんと静まりかえる。張りつめた緊張感だけが執務室を支配していた。




「皇后陛下」




そこに声が響く。落ち着いたその声色は女の真正面に立つ少年だった。


「おれからもお聞きします。なぜ、おれを指名するのですか?」



表情を変えず、じっと視線を固定している。女を見つめる瞳は発光しているかのような美しい碧。

意思の強さがうかがえるその瞳を向けられ、女は目を細めた。その気丈さが気に入った、とでも言うかのように、満ちた笑顔。


「ヴァストリハ卿よ。貴殿は近衛騎士育成寮を第8位と非常に優秀な成績で出ている。また、近衛騎士となってからもよく働き私に貢献してくれている。私としては、貴殿は百年沈黙し続けてきた『永久機関(エリクシア)』を任せるに値する、信頼の置ける人間なのだよ」


「…………………」


「それに、これはある王宮魔導師に聞いたのだがな」


「…何でしょうか」


「卿は国内でも上位を争える魔法の才の持ち主だと。ならば剣を振るう騎士より魔方陣まを扱う魔法士のほうが、貴殿には適任だろうよ」


にやりと笑われた。一瞬、まさか面白がってこんなことを言い出したのかと少年は考えてしまうが、すぐにそれをやめる。



一国の主が面白いからという理由で部下たちを振り回すのは、それはただの傍若無人というものだ。たいして忠誠心のない自分でもそれに限ってはないと断言できる。



いくらほど経ったか、再び静寂が落ちる。皆、少年に注目していた。



やがて少年は膝まずき、了承の言葉をつむぐ。儀礼的ではあるが、どこかふてぶてしく。



「────分かりました。その命、慎んでお受けいたします」



背後で上司が動揺したのが気配で分かったが、気には留めない。今この瞬間から彼との上下関係は切れた。自分は『永久機関』の方紋士となった以上、彼との地位は同等のものとなる。それが自分のつく位置だ。



女はおだやかに微笑んだのも束の間、「ああ」と思い出したように口を開く。


「ヴァストリハ卿よ、実はもう一つ言うことがある。まあ貴殿がこの『誘い』を受けなければ、口にすることもなかったことだが」


「何でしょうか」


女の含んだ物言いにわずかに雲行きが怪しい、と感じてしまう。しかめ面になりそうなのを抑えながら聞く。


女が事務机の引き出しから出した一枚の紙が少年に差し出された。


「『永久機関(エリクシア)』の魔法士に一人、推薦したい者がある。本人の了承さえとれれば『彼女』が貴殿の部下となる。───まあ、さしずめ相棒、というところだな」



その書類に記されていたことに、少年は今度こそ動揺が隠せなかった。








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