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短編集

春の訪れは、公園で

作者: 結城 千砂

なんで、こんな所に彼がいるの⁉


私は、今、彼に合わせる顔がないのにーー。


**


「お母さん。こんな感じ?」

私がお母さんに聞きながら、操作する。

「そうそう。もう少し左に寄って、ゆっくり下がって」


「こう?」

アドバイスをもらいながら、やっているが、なかなか難しくて、うまくできない。


「うん。いい感じ」

お母さんは、褒めてくれたが……これだけでも結構労力を使う。


私は、松下紗夜。

一昨日、高校卒業したばかりの18歳。


今、私が何をやっているかと言うと……車をバックで駐車する練習している所。

何回か操作を繰り返して、何とか駐車できた。

サイドブレーキとギアをPにしてと。


「終わった〜」


私は、高校を卒業した次の日からお母さんに、運転の練習に付き合ってもらいながら、今日も練習中。

車の運転は、やっぱり難しく、まだ慣れない。


免許は、自由登校の時に取れたからいいんだけれど……来月から就職先に車で行かなければならないから、今のうちに練習しておけって、お父さんに言われてしまった。


「疲れた……」

私は、思わず愚痴を零してしまう。

お母さんは、そんな私の顔を苦笑しつつ、見ていた。


「しょうがないな〜休憩する?」

「うん。お願い」

私は、頭を下げて頼み込んだ。


「じゃあ、まだあんまり咲いてないけど、お花見して行く?」

「そうしよ〜」

お母さんの提案に、私は頷いてみせた。


私が、練習に使っていた場所は、家から車で30分ほどの梅の花が、有名な公園の駐車場。

ここの駐車場は、広くて、まだ花見の時期には早いので、車はあまり止まっていない。


まだ、ほとんど花は蕾で、咲いているのは少ないけど、ちょっとだけ咲いているのもあるし、綺麗だと思う。

私が、運転席から出てお母さんも助席から出ようとした時、お母さんの携帯が鳴った。


「誰なの?」

「職場の人。何かあったのかも……先に行っててくれる? 紗夜」

「わかった。後で電話してね。お母さん」


私は、お母さんに鍵を渡して後、公園に入って行った。


さすがに、若い人はあんまりいないなぁ……

そんなことをふと考えつつ、公園の中を歩いていた。


通りすぎるのは、お年寄りや小さい子を連れた親子連れが多かった。

「ここって、散歩コースだったなぁ……」

ふと、考えながら歩いていたので、人にぶつかりそうになってしまった。


「ごめんなさい」

「こちらこそ、すみません」

その人に謝って、私は前に歩き出す。


私は、こういう場所が好きだ。

花を見たり、のんびりできていいから。


花は小さくて、かわいいから見てて和む。

私は少しの間、梅の蕾や花を眺めていた。


後ろから、笑い声が聞こえた。

「ハハッ。君はいつもそうだね」


この声はーーー彼の声じゃないか?


「紗夜ちゃん」


後ろを振り返ると、彼ーーー佐藤慎司くんがいた。

「えっ? 慎司……くん?」


なんで、こんな場所に彼がいるの⁉

驚いて、私は声が出せそうになかった。手を口で覆った。


今の私は、彼に合わせる顔がないのにーー。


だって……高校の卒業式の日。

私は、あの日……彼に告白して、返事も聞かずに逃げてしまった。


**


今日勇気を出さなくちゃ! 想いだけでも伝えるの……。


もう明日から彼に、会えなくなるのだから……。

慎司くんに告白しようと決意していたんだ。

実行したのは、卒業式後ーークラスのみんなと集合写真を撮った時。


私は、彼が友達と話している所に、勇気を出して声を掛けてみた。


「慎司くん。ちょっといい?」

「紗夜ちゃん? わかった」

彼は、私に気がつくと、すぐに私の所に来てくれた。

私は、慎司くんを連れて、校舎裏に向かった。


ここは、学校での告白の定番スポットだ。


校舎裏の奥の方で私が足をとめた。


「紗夜ちゃん? どうしたの? こんな所に来て……」

「あのね、慎司くん」


彼の目を見るのは、恥ずかしかったけど、真っ直ぐ彼の瞳を見る。

私は、両手をギュッと握って、彼に気持ちを伝えた。


「今まで、ずっと……あなたの事が好きです」

「……⁉」

彼は、呆然としていて黙ったままだった。


やっぱり……駄目か……。


涙が出そうになったので、慌てて拭い去る。


「……ごめんね。へんな事言って。でも、伝えたかったの」

「俺は……」

慎司くんは、言いかけたのだけど……私は、言うのを遮る。


「大学でも頑張ってね。応援してる。……じゃあね」


私は涙を堪えきれなくなり、彼に背を向けて逃げ出した。

彼1人を置き去りにしたままーーー。


**


「おーい?」

慎司くんは、私の顔の前で手を大きく振る。


「ご、ごめん。2日ぶり……だね。慎司くん」


彼の顔はやっぱり見れない……。

俯いたまま、彼と話した。


「今日は、どうしたの? 散歩?」

「違うよ。車の練習中なんだ……。慎司くんは?」

私は、彼がここに来ていることを、彼に尋ねてみた。


「俺は、よくここに来るんだよ。

家がこの近所なんだ」

「そうなの? 私、知らなかった」

じゃあ、さっきは、偶然ここに来たわけじゃなかったんだ……。



「ねぇ、紗夜ちゃん。あの時の返事なんだけど……」

慎司くんは、あの日のことを口にした。

「言わないで‼ 」

私は、思わず叫んでしまった。

忘れて欲しかったから。


「大きな声を、出してごめんなさい。でも、最後に気持ちを伝えたかっただけだから……もう、いいの。忘れて?」


私の思いを伝えた。けど、慎司くんは、黙ったまま、何も言わなかった。

「……」

「迷惑かけてごめんね。会えて良かったよ。……またね」


このままいても私は、泣いてしまう気がした。だからこそ、この場所から、彼から離れたかった。




「紗夜‼ 」


でも……慎司くんは私を呼び止める。

「待って! 俺の気持ちも聞かないで行くのかよ!」


ここで、彼の返事を聞いたら……私は、完璧に泣いてしまう。

「えっ?」

「俺は、まだ君に返事してないじゃないか」

「……もういいの」


私は、彼から視線を逸らし、顔を見られないように俯いた。


「俺は、良くない!」

彼が、私を強く抱き締めた。


突然のことで、驚いて固まってしまう。


「慎司くん ⁉」

私は、慌てていたんだ。

「……あぁ、もう! 言い逃げされて悔しくて仕方ないよ」

怒ってしまったのかと思った。


「ごめん」

「それが好きな子だったら、特に!」

慎司くんの顔は、だんだん紅くなっていく。


「へ?」

私は、呆然としてしまう。

今、彼はなんと言った?


私は、顔を紅く染める。


「顔上げてよ」

私は、恥ずかしくて、視線を合わせることができない。


「俺は、君が好きなんだよ」

「……うん」

私は、小さく返事を返す。


「なのに、君はあの日告白だけしていなくなった」

一筋の涙が瞳からこぼれ落ち、そのまま、涙を止められなくなってしまった。


「俺が告白されて嬉しかったか、その後、君に何も言えないでいたのに悲しくなったか?」

彼の肩は、小刻みに震えていた。


彼も不安だったのか……。


「電話もアドレスも知らないのに、君に連絡できないのに」

「ごめん」

さっきから、ずっと謝りっぱなしだ。

「謝らないで」

困ったように笑う。


「俺と付き……」

彼が、言いかけた時ーーケータイの着メロ鳴った。


鳴ったのは、紗夜のケータイだった。

涙は、電話が鳴った時、びっくりして止まった。


「ごめんなさい」

私は、一旦、彼から離れてケータイを取り出す。


慎司くんに謝った後、ケータイの画面を見ると、電話の相手はお母さんからだった。


「もしもし。お母さん?

うん。うん。もうすぐ行くから。

うん。わかった……じゃあね」


「お母さん?」

「うん」

こくりと、小さく頷いて見せた。


慎司くんは、私に目線を送ると、真面目な顔つきで言った。


「付き合ってくれる?」

私は、また涙が出そうになったが、拭い去った。

「うん。私で良かったら」


今度は紗夜から、抱きつくのだ。

「嬉しいよ」

「私も」

2人で目線を合わし、キスをする。




抱き合ってから、少したった頃ーー散歩のコースの真ん中だったのを思い出した。


私は、彼の服を引っ張った。

「慎司くん」


「ん?」

彼は、私の顔を覗き込んだ。


「ここ、公園だからね? 」

私は、必死で彼に訴えるが、私に視線を送り、優しく微笑む。

「気にしないよ。やっと、君と付き合えるんだから」

こう言われてしまうと、私は、何も言えなくなる。


「そろそろ車に戻らなくちゃ」

「そっか……」

慎司くんは、ちょっと、落ち込んでいる。

「なんか、かわいい」

私は、クスッと笑ってしまった。



「はい。これ」

彼は、私の手に何かを渡した。


何だろう?

渡されたのは、小さく折り畳んであった紙だった。

そこには、彼のアドレスが書いてあった。


「メールするから」

「うん。私も」


アドレスを交換して、出来た。

振られると思っていた返事も、違う意味で、驚かされた。

もう慎司くんに、会いたくなってる。


車の停めた場所に行く。

お母さんは、車の中で待っていた。

「お母さん。お待たせ」

「遅かったわね。どうしたの? 顔がにやけてるけど」


「えっ?」

私は、両手で頬に抑えた。


「良いことあったのね」

お母さんは、面白そうに笑っている。

「えっ? う、うん」

私は、曖昧に返事をする。


「でも、これから運転するんだから気をつけてよ。話は、家で聞くからね?」

お母さんは、苦笑いをしつつ、注意をする。


「はーい」

いつもよりも、声のトーンが高くなった。


お母さんには、報告していいかな? 慎司くんにもメールしたい。



これから、彼と過ごす時間が増えるといいな〜。




車の運転を、一人で出来る様になりたいな〜(ーー;)

3/5 告白シーンを追加しました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 爽やかでとても良かったです。 なんつーの。「君に届け」みたいなカンジの爽やかさ。 男女の機微を書くのがとても上手いですね。
2013/04/13 00:19 退会済み
管理
[良い点] ほのぼのとしてかわいらしいお話でした(^-^) [気になる点] ほのぼのの割に告って両想い♡ になってからの展開が早すぎる、かな~と(^^;) あくまで主観ですが(笑) [一言] 告白シー…
[良い点] 純愛ですね。うああ、眩しいですねぇ。二人の純粋さが枯れ切った心に染み渡りました。 [一言] 一点だけ気になる誤字(?)を発見したので、念のため報告しておきますね。  「俺は、まだ君に返事…
2013/03/04 18:44 退会済み
管理
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