神様なんて冗談だろ?(短編)
若干、血の表現がありますがR15というほどのものではないです。
それでも血表現が苦手であればどうぞ避けてください。
紙で手を切った程度の血表現です。
読んだ後での苦情は受付を拒否させていただきたく思います。
神様なんて冗談だろ?(短編)
その大地は不毛の地であり
草木一本生えるはずのない大地であった
幾度も人はその大地を蘇らせようと
あらゆる手を尽くしたが
誰一人としてその地に命を芽吹かせることはできず
世界の三分の一を閉めるその大地は
次第に人々から忌み嫌われ
いつからか 死の荒野と呼ばれるようになった
だが、その荒野が一晩にして
緑あふれる大地へと変わった
枯れていた川は穏やかな美しくも澄んだ川となり
岩と砂地であった大地は
緑に覆われ 若々しい草木が生えそろい
可愛らしくも瑞々しい花々が咲き誇る
鮮やかな鳥が空を飛び交い
様々な動物が森のなかを行き交う
たった一晩で変わり果てたその荒野を
人々は息をするのも忘れるほど
驚き見つめていた
死の荒野 不毛の大地
誰がそうだったとわかるのだろうか?
命の光が溢れんばかりの森が
そうだったなどと
そうして一人の地位ある者が従者を伴い
その森の中へとわけはいっていった
心洗われるような美しい森に
地位ある者も従者たちも自然表情が
穏やかになり足取りは軽やかになった
そうして幾日か進んだ場所で
一人の神に出会った
黒い髪に黒い瞳
この世界では忌むべき色とされている
その色をまとった神は静かに微笑み
佇んでいた
それはあたかも彼らを待っていたかのように
神は静かに話し出した
この森は自らが作り出したもので
壊れゆくこの世界を治しに来たのだと
神の言葉の通り
この世界では作物が育ちにくくなり
川は枯れ始め
大地は乾き 人々が飢え始めていたのだ
地位ある者は神に言った
ならばこの世界を治すためにきたのであれば
あなた様は我々の神とおなりください
静かに微笑み神はうなづいた
その日から黒はもっとも尊い色となった
神は森から様々な場所を巡った
巡った地では枯れ始めていた森が息を吹き返し
枯れていた川は溢れんばかりの水をたたえた
そうして世界のすべてを回った神は
最初の地へと戻っていった
神と地位ある者はいつしか愛し合い
そうして生まれた子供と地位あるものと神は
その地に國を作った
國は争い無く 平和に
穏やかな國として 様々な人々が移り住み
そうして世界で一番大きな國となった
それが我が國 マホロバ の建國の歴史である
「・・・なに?これ」
建國史と表記されている一冊の本の
冒頭だけを読んで一言
目の前に座っている青年はにこりと微笑む
「はい、我が國 マホロバの建國史です
作者は私です いま國で一番売れている本なのですよ」
「いやいや、これ 脚色だらけだよね
嘘ばっかりだよね!!?
そもそも神って誰!?
私神じゃないし しかも巡ったんじゃなくて
逃げまくったが故の副産物だよね?!」
「はい、そうですが でも、そのままの話しを
本にしたとしてもおもしろくないですし
ありがたみもないでしょう?
ミノリ様は実際 不毛の大地を蘇らせましたし
この大地すべてを救った方なのですから
神としても間違いないと思いますし
それに すでに500年以上前の出来事です
誰が真実を知っているというのですか?」
「うぐっ、そ、そりゃぁ確かに
当時 あの森に入った奴らは皆 寿命で死んだけれど
祖父母から孫へ話しているだろう?
お前にだってせがまれて何度も話だろうが」
「そうですね あの頃は私も純粋な子供でしたから
ミノリ様のお話はとてもおもしろくて大好きでした
けれど、大人になってしまいましたからね
さすがにあの話をそのまま建國史としては
國の品位が問われてしまいます
だからほんの少し表現を変えただけですよ」
にこにこ笑顔を崩さない青年に
ああ、そういえばこいつの曾祖父さんも
同じような性格と考えの奴だったわと
遠い目をしてしまう
「ということですので 口裏合わせよろしく
お願いいたしますね?」
「はいはい、わかりましたよ
まったく、いい性格に育ってくれちゃって
あの頃はかわいかったのになぁ・・・
あ、そういえば リリンカはどうなの?
だいぶおなかが大きくなったと聞いたけれど」
「はい、来月の華の月には生まれる予定です」
「アシュリ お前の子供だからね
アレをしようかと思っているんだけれど
何時頃これるかな?」
「よろしいのですか?
私の時は乗り気では無かったときいたのですが」
「いや、別にそういうわけじゃなかったんだよ
あのときはね もうね うん、まぁ聞いてくれるな
お前もお前の子供も
お前の父親も じいさんも私にとっては
かわいい子供も同じなんだから
せめてもの祝いとして受け取ってくれないかい?」
青年ことアシュリは
本当にうれしそうに微笑む
いつものような腹黒い笑顔ではなく 本当の笑顔
時たま見せるその笑顔にどうも弱いのは
どうしようもないのだろう
グリグリと頭をなでてやれば
25にもなるのにはにかんだように笑む
「あ・・・そういえば
やはり 直接リリンカと会うのはやめた方が
いいだろうか?
あの子は私のことを嫌っているだろう?
それに身重だ ここまでくるのもしんどいだろうし
だから寝ている時にでもすることにしようか
そうすれば私と直接顔を合わせなくてすむし
あの子もそのほうが気が楽だろう?
ああ、それかあの子は嫌がるかもしれないね
ううん、でもなぁ 力は多少なりとも
あったほうが王族としては民の上に立つものとして
便利だろうし・・・
アシュリ どうしようか?」
「・・・ミノリ様?
あの、なにを勘違いしているんですか?」
「ん?勘違い?」
「そうですよ 彼女があなたを嫌っているなんて
そんなことはこれっぽっちもないんですから
むしろ大喜びで身重なのにはしゃいでしまうと
思いますよ 間違いなく」
「え?それはないと思うのだけれど・・・
それに、ホーリにもあの時はその、なぁ・・・」
「ああ、私が生まれるときの母上の件ですね
そうなんですか だからあまり乗り気でなかったと
聞かされたんですねぇ
ならあの話は嘘だったって事ですね」
「あの話し?」
「こちらの事です
それよりも、リリンカは間違いなく喜びます
こちらにも間違いなく来ますので
明日 今日と同じ時刻に参りますので
待っていてくださいね?」
「ん、わかった
ただ、あまり無理はさせるんじゃないよ?」
はいって微笑んで
一緒に来ていた従者の執務のお時間ですよの
言葉に私の部屋を後にするアシュリに
手を振って 私は自分用に
特注で作ってくれたベッドに寝っころがる
ビーズクッションを巨大にした丸い形の
ベッドっていったら想像できるだろうか?
まぁ、想像してもらえたらありがたい
とりあえずそれに寝っころがって
くぁっとあくびをする
昼寝でもするかね
昼食後の休憩時間にアシュリは来ていて
仕事に戻ったので
さて、私はお昼寝でもさせてもらうことにしよう
うとうととする思考のなか
そういえばもうあれから500年以上も経つのかと
しみじみと思い出がよみがえってきた
500年以上前
正確な年数は忘れたけれど
当時、私は日本でどこにでもいる現代日本人として
生活をしていた
仕事帰りに駐車場へ向かっている最中に
あるはずのない穴に落ちて気づけば
緑あふれる森の中に座り込んでいた
最初は混乱したモノのどうしようもない
変わらない現状に さて、どうするかと
森の恵みで日々を過ごしていたときに
アシュリの曾祖父さんである アーシュラと出会った
いや、正確には
森の中で自給自足していたら
森を調査しにきた ツクヨミ國(マホロバの隣國で
当時の二大國家の一つ もう一つはトツクニ國)
の第五皇子のアーシュラは
同じく当時 不吉な色とされていた黒を持った私を
魔物だとなんだと決めつけて
森を追い出したんだけれどね
で、まぁ、どうしようもなかったわけで
追い出される際に助けてくれた
巨大なライオンがつれて行ってくれた
平野の中にあった小さな森で
2、3日過ごしたら 小さな森が巨大になって
さらに着いたときには枯れていた池が
水面の底まで見える透明な水がこんこんと
湧きだしていて さらに、花が咲き乱れて
果物はたっぷり成ったもんだからびっくり
したのを覚えているなぁ
で、ライオンだけでなく鷹とか
豹とかウサギとか蛇とかいろんな動物まで
集まってて最初は驚いてくーわーれーるーーーー!!
って思ったんだけれどね
いやぁ、友好的というか懐いてくれて
可愛いくてウハウハしちゃったよね
着替えがないなっていったら
鳥さんたちが服を持ってきてくれたり
おなかが空いたなっていったら
お猿さんとかが果物を持ってきてくれたり
優しい動物たちばかりで本当にうれしかったんだけど
また来たのね アーシュラが
これはやばいということで
今度は見つかる前に同じく巨大な虎が
一緒に逃げてくれたわけ
逃げる場所でバトンタッチ状態で
動物たちが助けてくれるからそのときの
私は信じれるのは動物たちで
正直人間不信に陥ってたのもある
行く先々で 森ができるは
枯れてた川や湖や池に再び水が戻るわ
そういう不思議現象が起こるのだけど
そのほぼ中心にいた私を見つけた人間が
髪と目の色を見たとたん魔物扱いするんだもんなぁ
なんで不思議現象が起こるんだろう?って
首を傾げつつも逃げてたら
ちょうど一年ぐらいだったらしいのだけど
元の森に戻って来ちゃったんだよね
戻った森はなぜか茨が森の入り口すべてを
覆っていて入れないじゃんよ!!って
頭を抱えて とりあえず入ろうとしたとたん
茨がさわろうとした私をよけて
道を造ってくれたんだよ
それはそれはびっくりしたね
戻った森では動物たちが待ちかまえてて
すべてが頭を下げてるし
さらに追いついたアーシュラたちが
私を神だと言い出すし 即否定したけれどね!!
で、なんやかんやとごたごたは
そりゃぁいっぱいあったけど
最初の森にアーシュラが建國したわけ
私は最初こそこの能力のために
危険だからと軟禁状態だったのだけど
言葉と態度を改めたアーシュラの
手伝いをしてあげたのね
どうやら異世界トリップ特典として
私には自然を操る力が備わったらしく
ついでに若返っててお肌ぴちぴちなうえに
歳をとらないは、怪我をしても毒を飲んでも
痛かったり苦しかったりするけれど治っちゃうから
なんつーか、人外の存在になっちゃったのよね
だからその力を使って
この國の自然を豊かにすることを願ったわけ
中心である今、居るこの場所に居るだけで
私の力は自然と作用されるから
願わなくてもここにいるだけでいいってわけ
ちなみにここは温室のような場所でもある
いつでも動物たちは自由に出入りできるから
あの時の子孫である動物たちもよく
会いに来てくれる だから
私の力で植物たちにお願いをして
彼らが好きな果物や木の実や葉っぱなんかを
いつでもプレゼントすることができる
もちろん植物たちには
大地と水と空気を潤すことによってお礼をしている
私の力は自然に作用する
正しくは荒廃した大地に栄養を
枯れた水を呼び戻し潤いを
汚れた空気を浄化して 心地の良い風を
雨が必要であれば雨を
日の光が必要であれば日の光を
自然を作り出しているそのものに作用するのだ
で、特典はそれだけじゃなかったんだよね
私の血も変化してたらしく
毒殺されかけアーシュラを助けたのが私の血だ
解毒の葉を使ってもだめだったのだけど
それを教えてくれたのはやはり動物たちで
蛇が私の指を噛んで(もちろん無毒の蛇ですよ~)
その血を薬の中にいれて
その薬を猿がアーシュラに飲ませたら
あら、不思議 死にかけていたアーシュラが
復活したのだよ 毒はすべて消えて
まぁ、療養は何日か必要だったけど助かったわけ
その後からアーシュラには私ほどの力ではないけれど
水を呼び込む力が備わったんだよね
どんだけ万能なの私の特典能力って呆れたけどね
助かったからよかったと思うよ
そしたらさ、アーシュラったら
本当の意味で私に懐いちゃって
年下ってのもあったから まぁ、ちょっと
いや、かなり生意気な弟って感じで
互いに本当の意味で仲良くなったのよ
それまでは態度を改めたっていっても
なんだかんだと私を利用してたからさ
まあ、なんつーかいままでの私に対しての態度を
ちゃんと口に出して言ったのね
そりゃぁ腹は立ったけど
育った環境も問題だったみたいで
それから アーシュラは私を一番に信頼してくれる
ようになったっぽい
本人がそういってたから そうなんだろうしね
建國して30年ぐらい経った頃かな?
アーシュラはレンナって美少女を奥さんにしたのね
可愛かったなぁ あ、私は嫌われてたっぽいんだよね
神だって言われても否定し続けたし(いまもだけど)
自分の旦那が他の女と仲がいいっていうのも
いやだっただろうしね
それでも色々あって
あの二人の子供が産まれたときは嬉しかったなぁ
レンナにも子供のためとアーシュラに
お願いされて血を与えたんだけど
二人とも私の血の影響か
この世界の人たちの平均寿命を
遙かに越えて長生きして寿命を迎えたんだよね
最後に幸せそうに微笑んで逝ったから
二人は幸福な人生を送れたんだと思っている
二人の息子と娘のアイシュとレーナをお願いします
そして未来の子供たちのそばにずっと居てあげて
くださいって死の間際に手を握られて
お願いされたからいまも私はこの國にいる
アイシュとレーナは二人の子供だというのもあるが
私の子供みたいなところもあるので
可愛いし 見捨てられないのもあるんだよね
なんたって血の影響少なからずでてるんだよね
アイシュは実りの力を レーナは水を呼び込む力を
持って生まれて来ちゃったんだもん
アイシュが二代目國王になって
レーナは國王補佐 二人で良い國に育て上げたんだよね
で、アイシュはミーツっていう奥さんと
レーナはクローっていう旦那さんと
二人は結婚して 子供を産んで
その子供たちの子孫が今のアシュリたちなんだよね
アイシュとレーナにもお願いされて
それからはずっと子供たちに血を与え続けてるんだよね
だからアシュリたちは私の子供も一緒
この國から離れるのは想像がつかなくなっちゃったよ
アイシュとレーナはもちろん健在で
二人ともいまは隠居して それぞれの
伴侶とゆったりと生活している たまに会うんだけど
目に見えて歳をとっちゃってるから
なんだか寂しく感じてしまう
私だけが何時までも時が止まってしまっているから
いつか終わりがくることを願ってしまうことがある
そんなことをぽつりと二人に言ったことがあって
怒られたんだよね
いつまでもこの國に居て自分たちの子供を
見守ってくれって そうしたらいつか
生まれ変わってまた会えるんだからって
だからいまはまだ、この長い寿命を終わらせるのは
早いのかなって考え直している最中なんだよね
おっと、回想が長くなったな
お昼寝お昼寝 寝てても怒られないって幸せだよね
しかもどんだけ食べても太らないんだよ
だからこの温室が私の世界なんだよね
ここに来る アーシュラとレンナの子供たちが
この世界に来たときに助けてくれた動物たちの子孫が
私の生き甲斐で 私を構成する世界
ぬるま湯のような世界が
終わらないことを願いながら
私はゆっくりと心地よい睡魔に身をゆだねることにした
補足は今回は無しです。
ご了承くださいませ。