1−2 鞄の陰に
まず最初に、前回の1−1を読んでくださった人へお詫び申し上げます。当初予定していた「昼下がりの動揺」の前にひとつ話を入れてしまった事、深くお詫び申し上げます。
「ずいぶんと眠そうですね、華枝ちゃん。」
教室に入ると、一番の友達の真里が私の席の所までやってきた。雰囲気的にはタンポポの綿毛というのが一番ベストだろう。性格も良くて、顔だって可愛らしい、別に誰かと付き合うとかに興味の無い私だって羨ましくなるぐらい真里はもてるのだ。
「ボーっとしてると、私が食べちゃうぞ〜。」
がしっと、女の子とは思えないほどの力で私の顔を両手で固定し、がぶっとかぶり付く動作を真似して、ケラケラと笑う真里を見て私は思わすため息が出た。
基本的に朝に弱い私は、今のテンションの真里とまともに会話すらできなくなる。そうじゃなくても、ここ何日かろくに寝てないんだ。
「梓くんに作ってるマフラーの方は順調?」
「んー、ちょっと、わかんない所があるんだけど、昼休みいいかな?」
「いいに決まってるじゃないかぁ、じゃぁ、昼休みにね。」
そう言うのと同時にチャイムがなる。そしてそれと同時に、私たち2年B組担任の牧原 早苗先生が入ってくる。先生になって2年、ちょうど私たちがこの学校に入学してきた時に新任の先生だ。どんな事があってもチャイムと同時に教室に入ってくる事がすでに生きた伝説とまでなっている、私の通う名物先生の一人だ。
「・・・皆さん、おはようございます。今日は特に連絡が無いので問題を起こさないように気を付けて生活してくださいね。」
正直、誰も問題を起こそうなんて思う人なんかこのクラスには居ないと思う。今じゃ笑顔の似合う英語教師なんぞをしているが、高校時代の早苗先生はある族のナンバー2と呼ばれるほどの不良だったらしい。この先生を切れさせたらきっと誰も手なんか付けれなくなってしまうかもしれない、そう思うだけで私たちは普通の高校生として生活できてしまうのだ。
「それで、何がわかんないの?」
「うんとさ、イニシャルの所の縫い方なんだけど本読んでもなかなか理解できなくて。」
編みかけののマフラーと編み物セット、それに今朝バスの中で読んでいた本を鞄から取りだす。
「本読むよりは見たほうが理解しやすいと思うから、ちょっと貸してみて。」
編みかけのマフラーを真里に渡すと、真里は何でもないようにイニシャルの部分と普通の部分を器用に編み始める。それだけじゃなく、私にもわかりやすく説明を加えながら編んでいる。とっというまに梓 光一郎(A.K)のAの3分の1が出来上がっている。
「今教えたみたいにすれば、きっと華枝ちゃんでもうまく編めるはずだよ。」
「ありがとう、それにしても真里って器用だね。」
明らかに、私と真里の編んだ部分の違いは一目瞭然だ。
「ありがと〜、でも、何で急にマフラーなんて編みたいなんて言ったの??」
理由は一つ。
たった一つ。
光一郎と一緒に過ごせる最後のクリスマスに私にも彼にも一番の思い出を作るため。
私は、どうしてもマフラーを編まなければならないのだ。
さて、櫻庭 伊織です。今回は光一郎は出てきてませんね。。。(主人公なのに)さて、次回こそ1−3「昼下がりの動揺」をお楽しみしていてください。