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「はっはっは、嫌々出て行った焔耶が女の顔をして帰ってきた時には、流石のワシも腰が抜けそうになったぞ」

「いえ、太守殿をお待たせした上、魏延殿に怪我まで。 なんとお詫びを」

「気にする必要はない。

 あの男嫌いのせいで、今一つ壁を超えられないでいたバカ弟子が、少しはマシになったと思えば」


 そういうもんですか。


「それで、あれをどうするつもりだ?」

「どうするとは?」

「ふ、質問を質問で返すではないわ。

 あのうぶな馬鹿弟子が、詫びか惚気か判らん事を報告しているのを聞いて、流石のわしも恥ずかしく……いや、羨ましくなったわ。

 しかしのう、お主を見定めるには時間がない。

 少し、試させて貰おうか」


 剣呑な気配の厳顔さんが、こちらへと虎だか獅子だか判らんような、獰猛な笑みを向けてきた。




「厄介な話ですなぁ……」

「むがー、むがあーー」

「黙っとれ、焔耶」


 練武場に厳顔さんと、騒いだせいで簀巻きにされた魏延さん、そして俺。

 刃を潰してあるとはいえ、真剣と同じく鋼の武器達。

 それを好きに使えと言われ、手にとっては見たものの。


「ほう、棍か。 小兵のお主が間合いをとるには悪くはないが」


 厳顔さんも、同じく棍を手に取り、風を巻き上げるように手の内で振るう。


「わしも、こいつには少々五月蠅いぞ」


 ビシリと音がするような、構えを取る姿には隙がない。

 おまけに、胸元に吸い込まれるように、目が行きかけるので、危険が危ない。


「ふふふ、わしも未だまだ捨てたものでもないのう」

「とんでもございません。 焔耶殿とはまた違う艶やかさというやつですな」

「そう言って貰えると、なかなか気分がイイのう。

 もし、わしから一本取れたら、一晩付き合ってやってもいいぞ」

「ははは、私は酒はそれほど強くは有りませんので。

 しかし、焔耶殿のために、貴方に認められる程度には、力を振り絞ってみますとも」

「吠えたな」


 ジリリと間合いを詰める。


「所で、一本と言わず、貴女を倒してしまっても、構いませんかな?」

「ほう、やれるものなら構わんぞ。 其れが出来るなら、焔耶にわしも付けてくれてやろうさ」


 厳顔さんが棍を振り上げ、袈裟に切り下ろしてくる。

 試しのつもりか、全力でない其れに向かって、運を武力に400叩き込んで全力で下から叩き合わせる。

 触れ合った瞬間、爆発するように、お互いが弾け砕ける棍。

 その瞬間に両手にしびれが走るが、其れはお互い。

 覚悟していた分だけ、此方の立ち直りのほうが早い。

 驚愕の顔をしている厳顔さんに先んじて、棍を捨て去り痺れる拳を握りしめ間合いを踏み込む。

 そして、そのままの勢いを拳に乗せる。

 前周で孫堅さんにやられた、武器破壊からの先制攻撃。

 それは狙い過たず、厳顔さんのみぞおちに突き立った。


「だが、甘い!!」

「は!?」


 手応えは有ったというのに、口元に血を滲ませ笑う厳顔さん。

 両の手を互いに握り、一つの槌として此方に叩き込まんと、振り下ろされた。


「ぶげっ」


 いった、いたいって、洒落にならん。

 頭がグラングランする、意識が飛んでないのがまたキツイ。

 なんとか、食らったのが強化中だったのが、幸いしたのかどうなのか。

 目眩をこらえながら、頭を上げているのかどうかすら判別できないなか、運良く視界に厳顔さんの様子が飛び込んできた。

 息を切らせて、膝を付いている様子に余力は感じられない。

 だが、此方がどうにかこうにか動いてるのを見て、驚きつつも嬉しそうな顔をしている。

 いや、其処で喜ばれても。


「さて、強化は切れてるようですが、どうしたもんでしょうな」


 実質的なダメージは、脳と平衡器官を揺らされたせいで、皆目検討がつかない。

 漠然と全体が痛い感じで、頭に響く鼓動がうっとおしい。

 まともに意識と躰が繋がってる気がしない。

 それでも、少しづつ思い通りに動くようには、なってきている。

 その代わり、ズッキンズッキンする痛みも、鮮明になってきてるんだけどな。


「よっこらせとな」


 うげ、厳顔さんが立ち上がる。


「なかなか良い所は見せて貰った。 しかしな、決着はつけるとしようか」

「そのように嬉しそうに言われると、ここで無様は晒せませんな」


 なんとか、真っ直ぐに立てるようには、なったか。


「行くぞ」


 ジリジリと間合いを詰めてくる、厳顔さんの拳が振り上げられる。

 右拳、上からの振り下ろし。

 避けられないな。

 気合を入れて、我慢する。

 意識を断ち切る、こめかみへの一撃が、汗で滑る。

 偶然のヘッドスリップ。 かろうじて、直撃を逸らした。

 お陰で、髪の毛一本、意識が繋がった。

 それた一撃を両腕で捕まえる。

 そのまま、躰の倒れる勢いに巻き込んで投げる。

 かなり無様な一本背負い。

 それでも、身長差のせいで、先に叩きつけられたのは厳顔さんだった。


「よっしゃあ!!」


 思わず気合に声が上がった。

 なんで、こんなに熱血しとるんだ俺は。

 あーいてー、本当に痛覚減少効いてんのかよ。


「まあ、何とか成りましたかな」

「むがー、むが、むがー」

「あー、焔耶殿、申し訳ない……私もこれが限界です……な」


 簀巻きを何とかしてあげたかったが、残念ながら、スイッチが切れるのが早かったようだった。




「くっ……うぅ、はぁーーーーっ」


 どこからか、痛みをこらえてるのか酒を煽ってるのか、判らんような声が聞こえる。


「む、ここは?」


 目を覚まし、躰を起こそうとして、軋むように動きの悪い自分の体を認識した。

 治療は終わってるのか、痛みはすっかり取れていたが、正直この動きにくさは重症クラスのペナルティ食らってるだろ。


「一体何が?」

「おう、目が覚めたか」


 そこには、血を吐きながら酒飲んでる厳顔さんの姿が。


「何をやっておられるのですか。 無茶なことを」

「ふふふ、気分はいいぞ」


 いやいや、見ててキツイので、やめて頂きたい。


「あー、負けた負けた」


 えー、あれは負け判定なんですか?

 こちとら、身動き取れないくらいにボコボコにされた気分なんですが。


「というわけで、焔耶のことは任せる。

 さすがに、わしは付いて行く訳にもいかんのでな」

「宜しいので?」

「あんな顔をされて、許さなん訳にもいかんだろう」


 振り向くと、心配げな顔で看病してくれてた魏延さんの姿が。

 なんだか、凄い女の子してる。


「これは、心配をおかけしましたかな」

「フン……」

「照れるな照れるな」


 厳顔さんが呵呵と笑う。


「それと、わしの真名は桔梗という」

「宜しいのですか?」

「わしは動けんが、お前さんがこの土地に骨を埋めるというなら、焔耶のついでに貰ってくれ」

「では、お預かりします。 私からは、此方を」


 例によって、指輪を渡す。

 問題なく嵌めて貰えたが、何だろう?

 嬉しいのは嬉しい。

 原作でも好きなキャラクターだし、普通に狙ったら攻略難度高そうで、こうして認められるのは願ってもないんだが。

 こう目標を定めて、狙ってるところが進まず、違う所で進捗があると、何が幸いしたのとか、攻略時のポイントとかが、つかめなくて困る……ま、魏延さんは、たまたま今回が乙女志向のブレの有ったキャラクターだったんだろうけど、厳顔さんは魏延さんの流れでの攻略が必須とかか?

 なんとも、こう調子が良いと、先が怖い。

 此処で引いて仕切り直ししたいくらいだが、現状は商人プレイだし、表立った危険度は少ないはず。

 もう少し頑張ってみよう。


 そして城を辞するとき、魏延さんに此処で待っていて欲しいと、お願いした。

 戻るのは孫家の土地なわけで、益州劉家の配下だった魏延さんが彷徨くと、危険な感じがする。

 他にも、魏延さん連れ歩いてると、PKに狙われそうな予感もするので、基本的には商人しかこなさそうなこの土地で居てほしい。

 涙目で睨まれたが、武具やら馬やらプレゼント攻勢で、なんとか納得してもらった。

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