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あれから一月程、現状維持で様子を見た結果。
商売はこの上なく儲かっているものの、うちが孫家べったりな勢力という見方が定着した。
というか、炊き出しの広場に孫家の姫様連中が顔を出してたり、街道の警らにコッソリと孫家の兵が混じっていたりと、随分と遠慮が無くなってきてる。
うちが名声稼ぎして名を売っているうち、幾ばくかは孫家に流れている上に、うちの稼いだ名声も包括的に孫家のものって感じになっとる。
これはなんというか、随分と舐められてるか。
とはいえ、この一ヶ月の儲けは笑いが止まらん程度ではあるのだが。
具体的に言えば、商人プレイで一周回ガメつくやって一万チョイのポイントって話を聞いたことが有るが、既に七千近いポイントを稼げている。
このままでも良いかなーと思わんでもないくらいだ。
まあ実際は、最初に立ち寄った屋敷に再度顔を出して、都合がついたら連絡くれと言い置いて、返事を待っていた。
これがフラグだったらアホらしいし。
しかし、連絡は無かったな。
そっちからの伝手では、孫家仕官は叶わなかったということか。
それじゃあ、あの導入は一体何だったというんだろうか。
「とはいえ、その目が完全に無いとも言えないのが厄介ですな……」
むしろ、チョッカイという接触があるわけで、そこから繋がる分には拒否するつもりはない。
もともと孫家仕官ルートの予定だったんだし。
ちょっと気分悪いけど。
「だったら、あちらの感触を確かめてみるとか?」
独り言に答えを被せてきたのは、刃鳴さん。
相変わらずの凛々しさの中に、ほんのりコケティッシュ。
オッサンの指先ふぇちなんて残念さは、まったく想像がつかない。
「此方で決めかねてるんだったら、あちらの考え聞いてみるのが早いんじゃないかな?
下手の考え、休むに似たりって言うし。
此方の考えが、あちら次第では通らないかもだし? ね、おじさま」
確かに此方が仲良くしようと考えても、あちらが此方の利用しか考えていないようなら、それは無駄な事でしか無い訳か。
どういうつもりでチョッカイ掛けて来てるのか。
確かに、あちらの考えを知るってのは、大事かもしれないな。
「そうですな。 良い知恵を頂きました。
是非、あちらの存念を伺わせて頂きましょう」
久々に臭い芝居でもしてみますか。
それから暫く、陸家の某さんこと、色白おっぱいさんの外出を監視、数日掛けて行動のパターンを確定した。
何にしろ、陸遜さんがキーでないと、取っ掛かりが無さ過ぎる。
で、数日待って、良さそうな日がやって来た。
良い陽気の午後、市の立っている広場にて、主人公と二人連れの陸遜さん発見。
買い物デートとか、カップル死ねばいいのに。
周囲に関羽さん、張飛さんx2、趙雲さんx2を配置しつつ、大勢の眼に入るようなタイミングを狙う。
ちょうど市が周りを囲む中心、人の溜り場というか休憩場所になっている辺りへと、目標の二人が辿り着いた。
それでは、ちょっと派手にやってみるか。
「そ、其処におられるのは、陸伯言殿とお見受けいたします」
いきなり目の前に転がり出る。
言葉通りというか、物理的に。
正面サイドからのローリングスラッシュ土下座。
フィニッシュ直後に頭を叩きつけながら、運を魅力に400叩きこみ、血を吐く勢いで大声を張り上げる。
「私めは金満腹と申す者でございます。
先だって孫家仕官の為、貴方さまに面会を願いましたが叶わず。
こうして恥を忍んで参りました!!
どうか、我が問いに、お答えいただきたい!!」
「え、えー!? す、すみません、何事でしょうか」
流石の軍師といえど、突拍子のないタイミングでは声も上ずるか……いや、普段からこんな人だっけか?
まあ、今はおいておこう。
「何故、我が仕官は叶わぬのですか!!」
「え?」
えって、あんた。
陸遜さんよ、あんたはイベントに絡んでなかったかい?
スタート直後、貴女に会う為に伝を辿って行ったんですが。
連絡行ってませんか?
それとも、素で忘れてるとかか?
いきなり、先行きに不安を感じてきたんだけどな!!
「先だって、私は孫家仕官を思い立ち、縁を頼り陸家縁の家の門を叩きました。
しかし、その際は会うに及ばずと言われ……」
「あのー」
「己の不明、力不足であればと、文武を磨き、足りぬは人を集め。
民の為と賊を討ち、物の流れを広げ、弱き者達に手を差し伸べて参りました!!」
「その、すいませーん」
チョイチョイ入る陸遜さんの声に、思わず力が抜けそうになるが、なんとか周囲の注目を集められている。
「しかし、未だ孫家よりの許しは無く……。
そればかりか、昨今では周囲を孫家の兵がうろつき、我が行いを己が手柄のように振る舞っております。
これは、余りの仕打ちではございませんか!!
聞けば、それらは陸伯言様の声掛かりとの事……その真意を、どうか!!
この私めに、お聞かせ願いたい……」
最後に再び頭を大地に叩きつける。
メッチャ痛い。
ただし、それだけの演出効果は有ったようで、周囲のざわめきは、ちょっと洒落にならない程のものになっている。
さあ、どう出る、眼鏡おっぱいさん。
周囲から、ポソポソと、金? 商人の? とか、聞こえてきてるので、割と認識されてるっぽいな。
流石に陸遜さんも、知らんということはないだろう。
「なあ、満腹さんだっけ?」
む、主人公が出てきたか。
ちょっと想定外。
「はい、金満腹でございます。 失礼ながら、貴方さまは?」
まあ、主人公さんですよね。
「北郷 一刀、孫家の客分扱いで、世話になってる」
緊張感漂う中での爽やかスマイル。
なんというイケメン……死ねばいいのに。
「左様でございますか。 その北郷様が、何か?」
「いや、聞いてたんだけどさ。
それって、満腹さんの考え過ぎじゃないかなってね」
「はぁ、どういう事でございましょう?」
おいおい、なんか超展開の予感。
「孫家が手柄を掠め取るってさ、ちょっと考えにくいよ。
個人の成果を一勢力が欲しがるかなって。
だから、満腹さんの考え過ぎじゃないかな?」
イケメンスマイルで、そう語る主人公。
あ、なんか陸遜さんが、後ろでワタワタしている。
「な、なるほど。 北郷様は、そうお考えに成るのですな……客分とはいえ、孫家の方。
それは孫家としても、そうお考えになって居るということですか?」
なんか、陸遜さんが両の手と首を思いっきり横に振っているが、そんなブロックサインされても。
「なるほど……そうなのかも知れませぬな。
私等は孫家にとっては、取るに足らぬ小者。
私が誇っていた行い等は、元より孫家の成していた事。
それでは、仕官が叶わぬ事も通り」
なるほど、なるほど、はっはっはっはと、吹っ切った感じで高笑いしてみた。
それを見た主人公が、何やら良い事した感じの達成感。
その後ろで陸遜さんが、なんか青い顔してる。
「客分とはいえ孫家の方に、こうまで言われては、納得するしかございませんな」
「あのー」
陸遜さんが何やら声を掛けたそうにしているが、ここは無視する。
「確かに私は考え違い……いえ、思い違いをしておりました。
孫家に邪魔をされている等と、酷い思い違いでございました。
そうなのですな、私が孫家の邪魔になっておったということなのですな。
あれらは、孫家よりの邪魔だという意思表示だったのですな」
あーあー、なんという変な転がり方をしてしまうか。
主人公め、やってくれるわ!!
引っ込みがつかないじゃねーかよ!!
となれば。
「北郷様のお言葉、身に染みましてございます。
これから暫く、この土地を離れようかと思います……。
荊州、益州、暫く商売に専念してみますかなあ」
何やら周囲で「おい、どうなるんだ?」「陸家が孫家の力を使って金家を厄介払いか?」「孫家といえば、周家もか?」「連中が居なくなって、賊を押さえられるのか?」「今迄通りの商売がやれるのか?」等など、先行き不安っぽい話が漏れ聞こえる。
見ると、趙雲さんがポソポソと、周囲の商人っぽい連中に耳打ちしている。
流石は目敏いな。
「かずとさーん、なにいっちゃってるんですかぁー」
ちらと見ると、カップル二人が何やら。
「え、ちゃんと納得してくれたみたいだけど」
「あれ、絶対怒り狂ってますよー」
「なんでさ」
不思議そうな主人公に、おっぱいさんが肩を落としている。
「そりゃ、わたしがちょっかいかけてたからですよぅー」
「なんで、穏が?」
「だって、怪しいじゃないですかぁ―。
ただの商人上がりが、仕官を申し込んできて、様子見てたら、凄い勢いで商売広げて、賊倒しちゃったり、民に施しとかバンバンしちゃうんですよぉ―。
どこかの間者にしても、動きが極端すぎて、どうすればいいのかぁー。
でも居なくなられても困るんで、ちょっかい掛けて動きを待ってたら、なんで其処まで凄く極端なんですかぁー」
あー、なんとなく、裏事情が判ったけど、此方の言い分としては「そんなん知らんがな」としか言えない。
「えーと、拙かった?」
「凄く拙いですよぉー」
冥琳様の、お仕置きですぅーとかなんとか、言ってるんだけど、その間に此方のフォローしないのか……とりあえず、フォローはなかったので、その場を立ち去る事にした。