66 (五周目開始)
フワフワした感触が躰を揺らしているのを感じる。
潮の香りと湿った空気が、随分と南に居るのだと感じさせた。
「むう、一体?」
この揺れは何事かと周囲を見やると、どうやら船に乗っているらしい。
ただ、軍船といえるような大型の物ではなく、ほんの小舟である。
お陰で、水面は風もなく凪いでいるのに、そこそこ揺れる。
「これは中々、慣れませんな」
溜息一つ、自分のステータスを確認する。
どうやら今回の身分は、商人上がりの仕官希望者であり、現在は伝を頼って上京中という体のようだ。
当時の立場的に、卑しいと蔑まれている商人から仕官とか、大分頭おかしい気もするが、ハンドアウトというか、事前ストーリー的なものがそうなってるんだから仕方がない。
あと、上京って言葉は、今の土地柄にはそぐわないが。
因みに伝というのは、陸家の某さんらしく、訪ねて行くのは色白おっぱいさんである。
さて港というまでもない、小さな渡しの桟橋に船をつけ、孫家のお膝元というか、城下に辿り着いたものの、あんまりパッとしない。
寂れている訳でもないし、人が居ない訳でもないが、人々の元気が無い感じ。
まあ、所詮はどこでも不景気というか、黄巾直前の不穏な世情を映し出しているということか。
「さて、何処を訪ねていけばいいのやら」
なんでも、陸家に縁の商家で待ち合わせるとの事だが。
「あれですかな?」
ふむ、こちらがあまりパッとしないのは、余計な妬み嫉みを買わない為か?
地味ながら構えは大きい。
門構えの前を掃き清めている小僧さんに「斯く斯く然々」と、紹介状代わりの札を渡し、家人に問い合わせて貰う。
暫くして、家宰らしき年配の男性がやって来て、どうぞ此方へと先を促す。
どうやら、ここで間違いなかったらしい。
そうして通された奥の間にて「使いをやっておりますので、暫くお待ちを」といわれ、お茶飲みつつ暫し待つ。
凡そ、茶に飽きた頃、誰ぞが到着したらしく、居住まいを正して待っていたのだが、やってきたのは先程の家宰の男性だった。
「申し訳ありません。
先様のご都合がつかず、本日はお引取り願えればとのことでございます」
えーい、ちょっとまてい!!
なんか、前回のチョンボから、ついてないというか、星周りが悪いというか、何やら上手くいかない事が多すぎんぞ!!
出だしの取っ掛かりから、上手くいかないとか……いや、これが普通なのか?
調子良すぎたのは今までか?
ま、いいや。
こうなれば、孫家に義理立てするともない。
好きにさせて貰おう。