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ちょっと修正しました。
友人より、戦闘ぬるいんじゃないか?
孫堅・黄蓋ってそんなに弱くないだろ。
そんな感じのツッコミがあったので、たまには軽く主人公に死にかけてもらいました。
さて、荊州に材登用の為と言いつつ出て来たものの、誰一人として成果なし。
元より休暇のつもりで行った荊州巡行だったが、事ここに至っては、少々体面が悪い。
何か功績稼ぎがないかとも思ったが、そう簡単に湧いて出るなら世話はない。
なにやら長期連休で、すっかり日に焼けた姿で出社する気まずさとでも云えばいいのか。
「あー、城でも攻められてて、颯爽と援軍に入るとかな展開になりませんかなぁ」
そんな感じで、足取り重く帰って来たのだが、何やら騒がしい事になっている。
船に弓だの矢だのと積み込んでいる連中や、輜重を積み込んでいる馬車が慌ただしく行き来し、周辺の守備隊も緊急動員がかかっている様子。
ここ暫くは、江夏周辺の賊だのなんだのも落ち着いていた筈で、それでも大きな騒ぎになるような前兆があれば、連絡なり入るだろうから、この騒ぎは突発な事なんだろう。
それに大騒ぎにしても、恐らくは事前に準備した手順に従っているようであり、それなりに秩序だった動きをしている。
という事は、相手は想定していた仮想敵の筈であり、そういう相手なら、袁術さんの所か、孫堅さんの所という事である。
それでも、船が多く出ている所を見るに、相手は孫堅さんか……って、なんでそんな事態に?
言っては何だが、それなりに緊張状態ではあったが、商売含めた付き合いで、ある程度の交流は維持しており、何かしらやらかしても、先ずは対話できる程度のチャンネルは有ったと思うんだが。
流石に孫堅さんも、理由もなくイキナリ攻めてくる事もないだろうし、本当に何が有ったんだか。
まさか、俺の変な祈りが天に通じたというのだろうか?
「ともかく、戦自体に間に合ったという事は、幸運なのでしょうな。
申し訳ありませんが、このまま郡城まで向かいますぞ」
一同に声を掛け、馬を走らせる。
そして……。
「これは、ようよう洒落になりませんな。 どうして、こう迄の事に?」
いきなり郡城にまで、攻め手を伸ばしている軍勢を見て、思わず頭を抱えて呻く。
攻め手に翻る孫家の牙門旗と、守勢側の郡城には黄旗。
何かの間違いとか、ちょっとしたトラブルに拠る行き違いとかな段階を通り越して、イキナリの合戦状態とか、言葉もありません。
恋姫のシナリオ的に、黄巾が終わる迄は、勢力同士の戦いなんて起きないと思っていたんだけども。
何事も、絶対はないのか。
で、基本的な形勢だが、地盤を握っている此方が有利ではあるだろうが、全兵力を集中させている訳でもないので、この近辺に限っては、局所的に孫家が優位となっている。
つっても、各所の抑えをホッポリだして、全兵力を此処に集める事はできないので、他の荊州勢力の援軍を待つのが、現実的な最善だろう。
という事は、それなりに時間を要する為、その辺を見切って、黄祖さんも籠城を選択したんだろう。
でも、孫家の矢鱈に高い士気というか、怒りの炎は何が原因だ?
ヘタすると、二倍の差もないのに、城落ちるんじゃなかろうか?
「此処は、どうしたものでしょうかな……」
簡単には城に入れそうにないぞ。
「ここは、遅れて集まって来た城外の兵力と、孤立している水軍の衆を纏めることで、影響力を持つべきかと」
「ある程度の兵力になれば、孫家の後背を脅かすことも可能です。
幸い、こちらにとっては時間は味方ですし。 しっかリと構えを取るのが肝要でしょう」
と、仰るのは、田豊さんと沮授さん。
確かに、寡兵が個別に動いていては、潰されるのが目に見えているしな。
雑魚でも数集めれば、できる事は増えるだろう。
「そうですな。
ヤス、キン、チョイ、周囲の守備隊へ伝令。
城へは向かわず、こちらに集まるようにと。
チャンは、集まってる中から、練度の低い連中を使って柵と空堀を作らせ、終わったら下がらせるように」
他は劉備さんに、刃鳴さん以外の軍師組と文官組を纏めて貰って、護衛に關羽さんと樊稠さん、蹋頓さんに丘力居さん等の、比較的自制の効く人を於いとけば大丈夫か。
「桃香殿、愛紗殿、この地へ集まる連中の面倒を頼みますぞ」
「うん、任せて」
「御意」
「今の所、城については暫くは持つでしょうからな。
下手に此方までが絡んで泥沼に為るよりは、動かずに勢力を増して、あちらが手を出せない数になるまでは、待ちで願います。 時間は此方の味方ですしな」
と、此方はこれで良いかな。
「他の者は城の裏手を回って、此方と分断されている水軍連中を救援に向かう!!」
相手は恐らく、孫家本軍の背後にチョッカイを掛けられない為の抑え程度だろうから、それなりの戦力は居るだろうが、兵も数もそれなり以上になる事は事はないだろう。
それなら、鈴の甘寧さんも居る事だし、そんなに焦る必要はないかと思う。
正直、武力90オーバーを趙雲x2、張飛x2、公孫賛x2、馬騰、華雄とか揃えるのは、オーバーキルもいいところだ。
それに他の人員も、一応は将のうちに入る連中だし。
正直な所、オリジナルのキャラクターに率いられた千程度の部隊なら、どうにでも出来るだろう。
で、やって来たのは良いんだが……なんか、数百程度の少勢が、倍する位の数は居る水賊連中を押しまくっとる……おやー、甘寧さんは何処行った?
「あれですかな?」
妙に不自然に空いた所で、丁々発止の一騎打ち中……相手は誰だ?
ピンクの髪に褐色の肌……南海覇王をギラつかせながら、楽しそうな高笑い。
まさかの孫策さんか?
いや、違うな……孫策さんでも孫権さんでもない。
あの二人も長身の女性であるが、更にヒール併せて頭一つ分ほど高い。
それに、露出度はともかく、パンツルックでどことなくマニッシュな衣装。
そして何より、その収まりの悪そうな、ライオンヘアとでも云うべき髪。
「ふむ、折衝の際にお会いしたことの在る、孫家の姫様方との血を感じさせる方ですな。
今まで、お会いする機会に恵まれませんでしたが、恐らくは孫家のご当主。
江東の虎、孫文台殿ですかな」
流石に強い、そして経験値の差か、甘寧さんが遊ばれている。
そして、船から逃げて河原に上がって尚、押されまくってる水賊連中に目をやると、どうやらあちらにも将がいる様子。
一人は、褐色の肌に紫銀の髪をなびかせ、兵に発破をかけながら、飛び出す迂闊な敵に矢を射かけている。
もう一人は、褐色の肌に肩までの黒髪。
薄刃の双剣を手に、前線を散歩するような風情で、無言のままに淡々と、敵兵を気怠げに切り落としていく。
片方は、どう見ても黄蓋さんですね、もう一人はネームドかユニークのモブの人でしょうかね。
雰囲気的には、周瑜さん系の感じですが……。
なんで、当主と宿将+1なんて、豪華ラインナップが、こんな陽動じみた所に出てきてるんだ?
あれか、甘寧さんに対して、面白い相手がいるぞと勘でも働いたか?
なんつーか、余計な所で働いてくれる。
「ともかく、このままでは、折角集めた水軍が水の泡になりますな。
将の皆さんには、敵将を抑えて頂けますかな。
囲んでも、早い者勝ちの一騎打ちでも構いませんが、無理はしないように。
とりあえず追い払えれば良いでしょう。
他の方は、敵兵を無力化して下さい。
できるだけ、殺さない方向でお願いします。
孫堅殿は、私が交渉してみましょう」
出来れば、此処で収めて置きたいとこですが……どうなるかね?
馬を進めて一騎打ちの近くに寄る。
二人が間合いを外し、此方へと注意を向けてきた。
……こえぇ。
孫堅さんの目が「お前さんは、なにを邪魔してやがるかな?」的な事を仰っている。
馬から降りて、警戒しながらも気楽さを装って近寄っていく。
「無粋とは思いましたが、ご容赦を。
私は金満腹と申すもの。
そちらは孫家ご当主、孫文台殿と、お見受け致しますが、如何ですかな?」
あちらが体ごと向き直る。
「いかにも、私は孫文台だ。
私の楽しみを邪魔するだけの用件が、そちらにはあるのだろうな?」
南海覇王を振り下ろし、切っ先を此方へ向ける。
「ははは、恐ろしい事ですな。
申し訳有りませんが、用件としては此方の都合ですな。
賊連中を集め、仕事を与え、賊に為らずとも食えるような仕組みを作り、なんとか形になってきた所で、こうも蹴散らかされては、苦労が水の泡というものです。
それに、そちらの方には、私も期待をかけております。
貴方の楽しみで潰されるのも、業腹ですのでな。 無粋を知りつつ、お邪魔した次第」
プレッシャーを受けつつも、空笑いをなんとか引っ張り出してみせた。
「ほう、それは大変だぞ」
「何が? と伺いましょうかな」
「死んだぞ、お主」
銀光が尾を引いて迫る。
どんだけ短気なんだ。
武力に運を400投入、間合いを詰められる前に丈八蛇矛をポイント購入。
右手を左の腰に添える位置で軽く握り、その手に武器を出現させる。
そのままベースの五倍、武力200という馬鹿膂力に物を言わせ、居合い切りの如く、4メートルオーバーの蛇矛を片手で振り切った。
少なくとも跳ばれない限りは、間合いの位置までの前面総てが射程圏内。
そして間違いなく、振り切る途中で何かを捉えたのを手応えで感じた。
「勝ちましたな」
と、そう思った瞬間、右手の手応えが消え、左胸に軽い衝撃と刺すような痛み。
何事かと、振り切った右手へと慌てて目をやると、手元から半ばにも達しない位置で砕かれた蛇矛の柄があった。
「何故!?」
呆然としつつ視線を上げると、目前には獰猛な虎の笑み。
激しくなる鼓動が、思い出したように傷を苛み、その痛みを視線で負う。
其処にある銀光こそ、南海覇王。
鋭すぎる傷が今更のように血を流し始める。
マジですか……。
「これは参りましたな……」
後一歩の踏み込みで、致命に至る一撃。
一体どうやったのか、見事に蛇矛を砕かれ、逆に命を握られている始末。
どうやら、ここんところの好調に調子に乗ってたか。
大体、開幕ブッパしかできないのになー、やっぱし武闘派キャラ相手には無理があるかー。
なんとか、護符で死にそびれた感じもあるが、生殺しは勘弁してほしいなぁ。
「いや、私のみくびりが過ぎたらし……い……な」
ふらりと刃が抜け、切っ先が揺れる。
次の瞬間、南海覇王は主の手からこぼれ落ち、孫堅さんは崩れ落ち膝をつく。
その左腕は、血まみれの拳から肩まで、内出血のためか赤黒く変わっている。
「まさか、咄嗟に左腕で蛇矛を殴り折った……というのですか!?」
素手で武器破壊とか、どんだけ。
いや、そこまでして一撃入れるの優先とか、どうなのよ。
まあ、それだけの威力分、きっちりとダメージを受けているようですが。
「流石は江東の虎……いえ、獅子でしょうかな」
なんで、そんなにいい笑顔で笑ってんだよ、この人。
おっとやべえ、血の気が抜ける。
未だ此方を睨みつける孫堅さんに警戒しつつ、手の中に残る蛇矛の柄を投げ捨てて、傷を抑え甘寧さんに視線のみ向ける。
「一騎打ちに割り込む様な真似をし、申し訳ありませんでしたな」
「……所詮は遊ばれていただけだ。 私では、あの一撃は引き出せん。 気にする必要はない」
「済みませんが、散った水軍連中、纏めて頂けますかな」
「大丈夫か?」
此方と孫堅さんを見定めるように視線を流す。
「まあ、何とかしましょう」
「承知」
甘寧さんは、暫し孫堅さんに悔しそうな視線を向けていたのが、吹っ切るように去っていった。
さて、他の所は問題ないか。
「文台殿、此処は痛み分けと言う訳には参りませんかな?」
「ふ、満腹といったか? よくも、その様な台詞が吐ける!!」
先程まで、やり合っては居たものの、まだ陽性の笑いを浮かべていた孫堅さんが、心底から苦々しげな顔で吐き捨てる。
「どういうことですかな?」
「貴様は、私を馬鹿にしているのか、本当の馬鹿のどちらだ?」
南海覇王を地にぶっさして、胸元から一つの書簡をつかみ出し、こちらへと投げつけてくる。
慌てて受け取ると、傷が開きそうで怖い。
「見ても?」
「ああ」
無駄に凝った装丁は、うちのものではなくて、恐らくは袁家のものだろうか?
何故袁家が出てくるのかと、怪訝に思いつつも、書簡を広げる。
中身を読み上げると、凡そ次のような文面だった。
袁家軍・黄祖軍による、経済的・人的・軍事的封鎖を解きたくば、軍門に降れ。
ズラズラと長い文面だったが、纏めるとその一行ですんだ。
しかも、袁術さんと禰衡さんの署名入りとか、どういうことだ?
「これは?」
「ふん、ここ最近のことだ。 はじめは商隊が襲われた。
賊かとも思われたが、袁家の馬鹿が堂々と名乗りでてくれた。
それからも、色々とちょっかいを掛けられた挙句に、その書簡だ。
随分と舐めてくれる。
袁家と黄祖が連合を組んだ程度で、孫家が風下に立つものか!!」
鬼気迫る殺気を撒き散らし、孫堅さんが一喝する。
「そこで、まず手始めに黄祖を鎧袖一触、返す刀で袁家の馬鹿をと思っていたが。
まさかこんな伏兵が居ったとはな」
射殺さんばかりの視線を叩き込んでくる孫堅さん。
正直、蚊帳の外だったので、此方を睨まれても、何と言っていいやら。
「さあ、首を取るなら今しかないぞ。
次に回せば、その喉笛食いちぎるのは私だ!!」
「くっ」
本気で怖い。
思わず勢いに任せて、飛びかかりそうになる。
しかし、近寄ったら逆にやられそうだ。
「いえ、貴女に死んで貰う訳にはいきませんな。
正直、この事態は私も納得がいかない。
ここで決着を付けてしまえば、先には泥沼しか無いでしょうしな。
ギリギリ指先一本、踏み残した今なら、なんとかやり直せる。
ここは、なんとしても、退いて貰いましょう」
正直怖いんで、手を出したくないですよ。
早く誰か来てくれ―。
合図を出し、他の将を抑えているメンバーを下がらせる。
その様子で、あちらの二人も一歩引いた。
「とにかく、城の攻め手の裏に、ある程度の数を置きました。
時間が経てばさらに数は増えるでしょう。
退かぬというなら、少々痛い目にあって頂きます。
しかし、うちと孫家がやりあっても、喜ぶのは袁家だけでしょう。
なんとか退いて頂けませんかな?」
あ、白蓮さんが来てくれた。
あちらは黄蓋さんが孫堅さんの傍に立つ。
「主殿、あんまり無茶をしないでくれ」
白蓮さん、助かりました。
とりあえず、簡単に治療してくれる。
ある程度以上の重症系ダメージなんで、アイテムの回復も完全に効いてくれてないな。
ペナが入って、体力の最大値が削れてるんかね。
落ち着いた所で、あたりを見渡す。
軍勢同士は、あちらに被害を与えつつも睨み合っている。
と言うよりは、怪我人抱えて身動きが取れなくなっている所に、こちらも手を出してないという形だ。
其れを、もう一人の将の人が纏めている。
此方も、纏まって引いていく。
水軍連中も、甘寧さんに率いられて下がっていく。
「これで、お互い手仕舞いで宜しいかな?」
「ふん、金満腹。 その名は忘れんぞ!!」
どうか、忘れて下さい。
そして、一度退くとなれば、凄い勢いで引いていく孫家の軍。
あのまま、城攻めの軍勢も纏めて退いてくれればいいんだが。
兎にも角にも、これで戦闘は一段落か。
城に上がれたら、太守殿に事の顛末を聞かないとな。
一体何がどうなって、こうなったのやら……。
禰衡さんよ、何をした?
「それでは、我々も退くとしますかな」
怪我人を集め、集結地点に引いた陣へと向かわせる。
とりあえず、城向こうに確保した兵力と、退避させた水軍連中は纏めて置いておく事にして、城に伝令を走らせつつ、太守殿へと報告へ向かうことにした。
先触れを出し、随分とやられた城の被害状況を眺めながら、呼ばれるのを待つ。
何やら随分な時間を待たされているが、後片付けを並行して行っている以上は仕方ないんだろう。
とはいえ。
「重症ダメージ継続中ということですかな」
一旦、治療が完了してしまえば痛みは無くなって、行動制限だけになるが、応急手当と回復アイテムだけで、休養とか時間をとってないから、胸元の傷に痛みが走る。
我慢できないわけじゃないが、妙にチクチクするというか、間を開けて電気ショックっぽい感じの痛みが走るので、咄嗟に響くと体がビクッとする。
あまり気分の良いものじゃない。
そんな感じで時間を潰していると、NPCの兵士さんが呼び出しだろうか?
此方に駆け寄ってきた。
「満腹殿、太守殿がお呼びです」
「これは、ご苦労さまです」
兵士さんを先導に、太守さんの執務室ではなく、謁見やら朝議する方の広間に案内された。
そこには若干疲れ気味で戦装束のままの黄祖さんと、キレ気味にイライラしている禰衡女史、それをなだめている太守の息子さんの黄射さん、それと見かけない感じの男性が一人。
「金満腹、戻りましてございます」
一礼して、返事を待つ。
「うむ、よく戻ってくれた。 御蔭で城を持たせることが出来た。
策による挑発は上手く行ったが、孫家軍の動き出しが予想以上の速さでな、迎撃の準備が間に合わなかったのだ。
危うく、自らの策に溺れる羽目に為るところであった」
「この身が太守殿の危機を救えたのであれば、金満腹、幸いでございます」
「そうか……。 ところでな」
「はっ」
見知らぬ男性が一歩前に出る。
見た感じ、プレイヤーでは無い様子だが。
「そちらは?」
「うむ、袁家からの使いでな」
「袁家でございますか」
やっぱり、袁家と手を結んだ?
ただ、なんか変だよな。
袁家の利益ってなんだ?
荊州閥を引き込んで迄、孫家とやりあう程の理由って?
「袁家より先触れとしてまいりました。 紀霊と申します」
「金満腹でございます」
お互いに一礼すると、太守殿が禰衡さんを促す。
「これより伝えるのは、わたくしの練りあげた策です。
聞き漏らす事のないよう!!」
禰衡さんは、相変わらず人形めいた目で、総てを見下したように視線を投げつけてくる。
「先ず第一段階、孫家に対しての妨害。
そして、其れを元とした挑発。
これらについては既に成功といえるでしょう。
次いで第二段階、挑発に依り暴発した孫家軍を待受け、逆撃により孫家の力を削り取る。
こちらも、些かのズレが発生しましたが、目的は達したといえるでしょう」
おいおい、準備できずに攻められて、危うく城を落とされかけていて、些かのズレとか言い切るのはどうなんだろう?
あんな偶然を、成功の勘定に入れるとか、調子が良すぎるだろ。
「そして、第三段階、今こそ全軍を持って、孫家を打ち倒すのです!!」
いやいや本当に、ちょっと待とうか!!
「お、お待ちください!!」
「なんですか、満腹殿? 何かご不満でも?」
いや、不満とかじゃなくて、全軍ってあんた。
正直、今追撃しても、うちだけでどうにかなる様な戦力じゃないよ。
城の主力は疲弊してるし、外にいるのは飽くまでも、場所場所を押さえるだけの二線級。
黄祖さんが率いて出ても、城無しの上に河挟んで侵攻とか考えたくない結果になりそう。
正直な所、海賊戦法かゲリラ戦で、まともに戦う前にボロボロにされそうな予感。
「今、全軍と申されましたが、すでに袁家の援軍は到着されておるのでしょうか?
正直、我が軍の戦力だけで追撃したとすれば、痛い目を見るのは必定。
その辺りを、お聞かせ頂きたい」
「袁家の軍は、一部が先発しておりますが、到着までには暫し時間を頂きたい」
意外と堅実な返答をしてくる紀霊さんに、少し癒やされつつ、禰衡さんに向き直る。
「何を言っているのです!! 今こそが絶好の機会!! 孫文台の首級をあげるのです!!」
「攻めるにせよ、袁家の援軍が到着してからでしょう。
我々だけで打って出るなど、正気の沙汰ではないですぞ!!」
「確かにな」
黄祖さんが、口論を収めるように一言。
「何を仰るのです!! わたくしは、この男の不始末を!!」
「私の不始末ですとな? どういうことでしょうかな?」
ちょっと待て、禰衡さんに世話になるようなことも、何かやらかした覚えもないんだが。
「あなたが、命惜しさに孫文台うを見逃さなければ!!」
「何を云うのかと思えば。 何も知らされず、相打ちで死ねと?
そうしておれば、怒りに燃えた孫家軍に、この城は落とされていたでしょうな!!」
「むくくくく!!」
歯を軋らせるように、むき出しにする禰衡さん。
いつもの無感情な表情が一枚剥げている。
「それに名分も無く、孫家と袁家、うちを巻き込むような争いを起こして、中央には言い訳が立つのですかな?」
其処が一番知りたい。
まだ黄巾始まってもないんだが。
「そこは、袁家の領分よ!!」
おいおい、投げっぱなしですか!! うちが色々とやらかした所で、梯子外されたらどうすんの。
「其処は、お任せ頂きたい。 孫家には漢朝に背く反逆の企み有りとして、討伐の名分を得ております」
まじですか。 凄い言いがかりだ。
「なるほど、それであれば宜しいのですが」
もう始まってるとこで、援軍相手に下手なことも言えないしか。
此処は一旦さがろう。
ペナ解除しないと何も出来ない。
「くっ、申し訳ございません。 傷が痛みます故、一度下がらせて頂いても宜しいでしょうか?」
「うむ、済まなかったな。 養生するが良い」
「はっ」
なんとか自室にたどり着き、寝床にバッタリと倒れこむ。
「しかし、色々と動くのが速すぎるのではないでしょうかな。
孫家については設定の振れ幅やイレギュラーとしても、袁家の動きが急すぎて通常の流れとは思えませんな」
恐らくは袁家に付いたプレイヤーかな?
とすると、何が目的なのか?
例えば、孫家イレギュラーで強くなると困る、袁家ファンの集いとか?
原作至上主義とか?
二次小説読み過ぎかもしれない。
「ともあれ、反董卓連合すらも待たずに、孫家を潰しにかかっているのは間違いないですな。
では、これに乗るかどうかですが……。
乗った所で、使うだけ使われ、戦力の落ちた所を片付けられる。
のらぬとしても……いや、既に一戦やらかしていますか。
中央の連中が何くれとなく、やたらめったら手厚い嫌がらせを仕掛けてくれるでしょうな」
結局は進むしか無い訳か。
本当に禰衡さんは……人を使うのも、人に使われるのも……相手が自分のことを中心にしてるとしか考えていないのかねー。
ある意味で、袁家とはぴったりな気もしないではないけど。
あー、体の感覚が気持ち悪いから寝るべ。
で、それから何と一週間。
「なんとか、ペナは外れましたかな?」
たまった決済を片付けながら、ようやく気持ちの悪い動作制限のペナルティも外れた。
正直、こんなに掛かるとは思ってなかった。
そして、侵攻の予定は、すっかり止まっている。
一応、援軍というのは来たのだが、食い扶持こっち持ちとかね。
しかも、装備はしっかりしているので、見た目はそれなりに見えるが実は二線級の戦力。
運用は此方に全てお任せしますというが、紀霊さんは動かず、あくまでも此方の主導という形にしたいように見える。
で、禰衡さんは、俺に率いさせるつもりだったようだが、怪我人に無茶言うなと。
そこで「役立たずには、頼らない!!」と、啖呵をきられたんだが、自分が率いる様子もなく動きは止まっている。
しかし、それで事が収まっている筈もなく。
お互いの領域境界では、ピリピリした一触即発状態である。
正直、袁家からの見せかけ戦力ですら、均衡を取る数の役に立っている状態で、どちらかが何かの動きを見せれば、早晩崩れ去るような危うい状態が続いている。
「これは参りましたな、商売の遣り取りすら途絶えてしまうとは」
意思疎通の窓口が途絶えてしまうと、本当にどうしようもない。
「それに太守殿は、どうお考えなのか」
実のところ禰衡さんだけでなく、黄祖さんも動きを見せていない。
こうなると、こっちもどうしていいやら。
とか考えていると、NPCの兵士さんが、黄祖さんがお呼びと伝令。
「まさか出陣ですかな?」
それは勘弁して欲しい……この状況で出陣とか、孫家に敵対ってレベルじゃないよ。
しかも、うちも孫家削るだけ削って使い捨てな未来が見えるようだ。
袁家の一人勝ちに……もしかして、この状況は詰んでる?