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慰安旅行というか、単に休暇を貰って、荊州をうろつくだけのつもりだったが、なんというか、随分と大袈裟な事になってしまった。
まあ、考えてみれば、二百人超の人間が、一斉に移動するというのは、ある種の軍事行動に近い物がある訳で。
「どう考えても、大失敗ですな」
基本的に、全員が将であり、兵士用の吊るし武器ではなく、それなりの修正付き武装や装備、更に騎乗しているのは、銘無しとはいえ、一応はアイテム仕様の名馬。
普通に戦闘可能な行軍です。
「ああ、どうして気付かなかったのか」
天を仰ぐ。
我ながら、間抜けにも程があるわな。
現在、荊州の別勢力に、思いっきり止められてます。
賈駆先生と李儒さんが、相手を言い包めてくると仰ってましたが、どうなるやら。
「恐らくは、賊討伐とでも言い張るのでしょうが。
余計な仕事が増えるかと」
はぁ、と溜息一つは、少々お疲れの田豊さん。
遠乗りは苦手らしい。
腰をさすりながら、尚も溜息ついているのを見て、そっと近づき、腰に手を伸ばし、ちょっと際どい場所ではあるが、今更な話なので、遠慮はせずに親指と人差し指・中指で腰骨の上辺りを強めに押す。
NPCの筋肉痛とか、腰のこり迄で再現する処理能力ってなんだかなーとか思いつつも、その辺は適当にファジーに、自分の脳みそが納得してるだけなんだろうと考える。
幸い、田豊さんには効果が合ったようで、腰を揉む手に身を任せてくれている。
因みに、賈駆先生ら涼州組は、実はヒラヒラ衣装でも、華麗に横乗りを決めてくれる程に達者であり、こういう苦労はないようですね。
暫くして、賈駆先生と李儒さんが、話が終わったらしく戻ってきた。
「意外とアッサリ片付いたわ」
「連中は蔡家麾下、ボクらが黄祖配下だと言ったら、喜んで歓迎してくれるらしいわよ」
劉表は居なくても、蔡瑁さんとか居るのか。
「それは、何かしらの援軍としての、歓迎ですな」
「そんなとこね」
「では、一仕事という事ですな」
という事で、蔡家の連中と合流し、打ち合わせをする……つもりだったのだが。
「援軍助かるのですぞ―」
「有り難いのですぞ―」
「私は、黄太守配下、金満腹と申します」
「蔡和なのですぞ―」
「蔡中なのですぞー」
えーと……。
「詠殿、永殿、あれは?」
「コラ、指差しちゃ駄目」「言いたい事は判るけど、気にしちゃ駄目」
いや、でも。
「ボクだって相手するの、アレだったんだから」
「まじめに相手したら疲れるわよ」
なんという劣化陳宮、キッチリとした人民服の上下は可愛げがないぞ。
パンダ付いてないし。
しかも、アレだな。
無駄に行動力のあるドジっ子という印象を受ける。
とりあえず、間違った方向へ突っ走って、最初の失敗をダブルで広げかねない感じが、非常に怖い。
こいつらに主導権を渡してはいけないと、俺の勘が訴えている。
確か、水軍特性はあるらしいが、これを使うのは勇気がいるな。
「それでは、討伐対象の事を教えて頂けますかな?」
「この辺を荒らして回っておるのですぞ」
「妙に強い将に率いられておるのですぞ」
「ほう、それでは待ち伏せるのも、難しいですかな」
示された、近隣のざっとした地図と、襲われた村やらの位置を眺めると、あからさまに中心に、ある場所が浮かび上がる。
「これは、水鏡女学院ですか」
まるで、学院の周囲に包囲を敷くように、近隣の村等を襲っているように思える。
「学院に、チョッカイを掛けようとしている連中の仕業……でしょうかな?」
「妥当な意見ね」
「ま、そんなとこね」
賈駆先生と李儒さんからも、学院が起点になってるという考えに、否定は出てこない。
それじゃあ、此方が学院にアクションを起こせば、釣れるかな?
というような事を考えていたら、何やら伝令らしい兵が走りこんできて、それを聞いた蔡中が、此方を向き直るなり「賊が出たのですぞ―」とのこと。
どうも、此方が動くまでもなく、行動を起こしたようだ。
「それでは皆さん、宜しくお願いします」
そう声を掛ける前に、騎馬に跨り、颯爽と駆け出す筆頭は、白馬長史 公孫賛x2。
その後を追うのは、西涼の雄 馬騰。
騎馬にては遅れを取らじと、蹋頓、丘力居。
その後を追うように、樊稠。
団子になる関羽、張飛x2の脇をすり抜けて趙雲x2。
意外と落ち着いて、その後を追う、華雄。
能力UP込みとはいえ、武力90オーバーを9人も含む、先頭集団が突っ走って、伝令の示す先へ。
「ご主人様、私達って、必要ないんじゃないかなー」
あまりの置いてけぼりに、呆気に取られて立ち尽くす、桃香さんの言葉に、俺も何となく頷いてしまいそうになった。
まあ結局のところ、皆を纏めて向かった先には、全て終わった光景が広がっていたのであるが。
で、状況と当たってみた人達の感想を聞くと、二人程はマトモな将が居たけども、他は激しく雑魚だったそうで、一瞬で決着が付いてしまったそうだ。
それって多分、プレイヤーだったんじゃないかなぁ?
それで、水鏡女学院で人材登用する為の仕込みとして、周囲を襲ってプレッシャー掛けてたんではないだろうか?
まあ、出会う事もなく殲滅してしまったので、確認は取れない訳だが。
「こうなると、学院で話を聞いてみるしか無いのでしょうな」
なにかしら、接触してたんなら、どんな奴だったかも知れるだろうしねえ。
というような感じで、学院を尋ねたのだが。
「これはまさかの結果ですな」
学院に居たのは、福々しいオバちゃんと、諸葛亮に鳳統だけという結果。
まさかの、水鏡先生イレギュラーバージョン……基本的には知的な美女の筈が、滅多にない感じのオバちゃんに。
更に、諸葛亮と鳳統……今回のような難易度下げプレイでは、恐らくはゲット困難かもなぁ。
武力を武力で片付けて、しかも軍閥の下っ端だしなぁ。
まあ、あの二人は、徐庶さんのトラウマスイッチなので、下手に引き入れられない部分もあるんですけど。
一応、聞いてみるか。
「私は、黄太守配下の金満腹と申します。
賊討伐の流れで此方に伺いましたが、噂に名高い伏竜鳳雛に、お目に掛かれるとは幸い。
宜しければ、我が主の元へ参っては頂けませんでしょうかな?」
「は、はわ、申し訳ありません。
私はまだまだ、学ぶことが多くて、その、ごめんなさい」
「……私も、まだ、すいません」
モジモジしながらも、割とハッキリ断られた。
噛まない辺り、演技かもしれない。
「むう、左様で御座いますか……そういう事でしたら、無理強いはできませんな。
しかし、我々が賢人を求めておるという事は、覚えておいて頂きたく願います」
「は、はいぃ」
「あぅ」
「むぅ、どうも私では、怯えさせてしまうようですな。
残念ですが、これで失礼させて頂きますかな」
やはり、無理っぽいか。
なんとなく、この周回は、空振りっぽい気がしてしょうがないな。
さて、なんか無駄足になった気がしないでもないが、時間は余ってるんだよな。
なぜか、近辺に温泉村があるし、本気で慰安旅行にしちゃうのも、ありかもしれんなー。
とか、考えてると、刃鳴さんがすすーっと寄ってきた。
腕に身を寄せて、当ててんのよって感じで、しがみついてくる。
柔らかくも、押し返してくる張りを感じて、非常に宜しい。
「おじ様」
「どうしました?」
開いた手で、頭を撫でる。
「ふぁ」
しがみ付く力が強まり、目が潤んでいる。
ちょっと雰囲気出し過ぎで、何しに来たのか飛んでるっぽいので、そっと呼びかけなおす。
「大丈夫ですか? 刃鳴殿?」
「あ、うん。 その二人、誘ったんだ」
「一応、声を掛けては見ましたが、良い返事はいただけませんでしたよ。
それに私個人としては、刃鳴殿の都合もありますので、黄太守の元へとお誘いいたしました」
一応、気は使っておりますよとアピール。
「あ、そうなんだ……おじ様」
そしてまた、ぽーっとして、話の内容が飛びそうになっているので、軌道修正。
「それで、何か用件が有ったのでは?」
「あの、うん、おじ様が、二人を誘うのかなって、それだけ」
「おやおや、今日の刃鳴殿は、随分と可愛いらしいですな」
かいぐりかいぐり。
「正直、惜しくはありますが、能力的にも戦略判断には、沮授・田豊の二方、戦術についても刃鳴さんが居らっしゃいますし、永殿と詠殿はどちらにも能力を発揮されますからな。
あとは、単純に好みという感じですが、少々幼すぎるので……考えものですかな」
なんというか、あわわとはわわは、成長させても変わらなそうな気がして……まあ、刃鳴さんも、そんなに背はおっきくないんですが、ボーイッシュ絶壁でしたし。
それでも、はわあわコンビとは、頭一つ以上違いますしね。
その上に魔改造でバストアップされて、凛々しくてエロいという……ほら、こんなに腰が細い。
しがみつかれている腕を、腰に回して抱き寄せる。
腕から太鼓腹へと、しがみつく場所を変えた腕の中の刃鳴さんを、空いた手で更にかいぐりかいぐり。
撫で擦る手を、頭から背を回して腰へ。
其処で手を止めると、切なさそうで物欲しげな、上目遣いで見上げられた。
なんていうオールウェルカムな、エッチな子になっちゃったんだろうなあ。
「二人に見られてますぞ」
「いいの、どうせあの二人は、良く判らない物差しに拘って、妙な弱小勢力で苦労して、頑張ってる自分に酔って喜ぶ変態さんだから。
おじ様に使われる喜びなんか、判らないだろうし」
その変は、俺にも判らんけどね。
「はわわ」「あわわ」
何気に凄い事言われて、刃鳴さんに変態さん認定されてる二人が、はわあわ言いながら、指の間から此方を覗きこんでいる。
それに触発されたのか、更に強く胸を押し付け、足を絡ませ、はふりと熱い吐息を一つ、両の腕を此方の首に巻きつけ、縋り付いてくる刃鳴さん……完全に出来上がってます。
「刃鳴殿?」
「ん」
呼びかけに応じた刃鳴さんが、此方へ向き、軽く唇を合わせてきた。
そして、勝ち誇るように女の顔で、二人へと挑発的な視線を送る。
真っ赤な顔で、ぱたぱた走り去る二人を見送る、勝ち誇った笑顔は、とっても美人だったが、ちょっと怖かった。
結局、その後は何もイベントらしき物事は無く、温泉入ってイチャイチャしながら時間を過ごし、休暇の時間は過ぎていった。