表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/79

57

 さて、涼州勢としてのコンセンサスを取ってみたところ、馬家にしても、仮にも漢王朝が存続しているのであれば、あちらが要らんチョッカイを掛けてこないのであれば、現在の五胡の侵入に対する護り、という立場を維持するのに吝かではないということだった。

 まあ、元々馬騰さんの姿勢って、そんな感じだったし。

 で、あれば、その旨を中央に対して示すべきということで、正式に使節を送ろうということになったのだが、そこで少々揉めている。

 董家としては、さっさと態度を示していたのと、前回の使節で、それなりの感触を得ているので、送るとしても、俺程度の人間が行っときゃいいんじゃね? 袁紹さんとも面識あるしって感じなのだが……。


「どうしてまた、馬騰さん直々に、使節として中央へ赴くという話に、なっておるのでしょうかな?」


 この間の話では、それなりの立場のある人が、赴くってことだったんじゃ?

 馬留さんとか、龐翼さんとか。

 確か、馬騰さんは、病がどうのと言ってたんじゃ?

 そんな、危うい上に、当主直々に動くのはどうかと。


 ともかく、今になってもガチャガチャしている中で、なんとか話ができそうな相手を捕まえて、聞いて見ることにした。

 傍で見ている感じだと、解決しそうな気がしないし。

 で、騒ぎの中心で、馬超さんと馬騰さんらしき二人が、険悪なオーラを垂れ流してる脇で、オロオロしているのを確保したのが、馬岱さんです。


「お忙しい所をすみませんが、馬岱殿……どういう事に、なっておるのでしょうか?」

「え、あぅー、おばさま、お姉さまぁ……」


 駄目だ、混乱している。


「どうぞ、お茶でも飲んで、落ち着いて頂けませんかな?」


 とりあえず、落ち着かせるのに、甘いお茶を出して、手に取らせた。


「って? おじ様?」

「はい、満腹でございますよ」


 とりあえず飲んで下さいと、有無を言わせない感じで押し付けると、茶碗をぐっと空け、ふぅと一息ついてくれた。


「あ、うん。 おじ様、久しぶり」

「落ち着いて頂けましたかな?」

「うん、ごめんね。

 こんな、間際になって揉めちゃって」

「一体何が?」

「えーとね、本当は龐翼さんが行くって話で、纏まってたんだけどね。

 おば様が急に、自分は隠居して、お姉さまに家督を譲り渡すって言い出して」

「ほう」

「其処までは良かったんだけど、使節の話は自分が赴くって」

「しかし、寿成殿は病状が思わしくなく、無理が効く状態ではないと、聞いておりますが?」

「そうなの、見た目は元気だけど、おば様、今でも体の調子は、そんなに良くはないんだ。

 たんぽぽも、無理は良くないって言ったんだけどね。

 おば様、「宦官連中の戯言とは違い、仮にも漢王朝を庇護し、上に頂くものとして、表面上かもしれないが、立てては居る袁紹に対しては、それなりの態度を示す必要がある」って、言ってね。

 お姉さまに当主を引き継いで、自分が赴くって聞かないの」


 それはまた……。


「確かに態度は示せますが、それで万一の事があれば」

「お姉さまも、それなりの態度が必要なら、当主になった自分が行けばいいじゃないかって」

「それはそれで、問題ではないでしょうかな?」


 そっちも何かあったら大変だろ?


「だよね。 其処をおば様に突っ込まれて、お姉さまも引っ込みがつかなくなって」


 どっちも自分がって事になってるんですね。

 こりゃ、本気で決着つかないんじゃ?


「てりゃ!!」

「うぐぅ!?」


 どうしたものかと悩んでいたら、突然の気勢と呻き声。

 慌てて振り向いた所では、崩れ落ちる馬超さんらしき姿と、勝ち誇るように拳を突き上げる、馬騰さんらしき女性の姿……何してんだ、脳筋すぎるだろ。


 其処からは、馬騰さんの一喝で話が決まり、本人が赴くことになったのだが……。


「宜しくね」

「こ、此方こそ、宜しくお願いいたします」


 打ち合わせと言われて、此方の陣幕にやって来た馬騰さん。

 柔らかい微笑みを向けられて、ドキドキする……物理的恐怖な感じで。

 見た目、非常に若々しく、病に冒されているとは、思えない程の馬騰さん。

 やはり、馬超さんとは親子と云うことで、よく似ているのだが、全体としてみると、常に力の入っている印象の馬超さんと比べて、落ち着きというか、余裕を感じされる雰囲気を持っている。

 腰までの黒髪を、肩の辺りで一つにまとめ、馬超さんと共通項といえる太めの眉も、手入れの差か、弓を描いて女性らしい。

 目元は若干垂れ目気味で、口元も柔らかい笑みを浮かべており、包容力を感じさせる。

 衣装も処々の意匠は、馬超さんと共通しているが、熟れた女性の曲線と、スリット入りのロングスカートや、抑えた色調などが合わさって、年齢相応の色香を感じさせるものになっている。

 だというのに、さっきの一撃で、俺の印象は、花丸付きの脳筋に定まっている。

 

 さて、立場的には、馬騰さんの方が上位者として、此方としては、一行の頭に据えたいところなのだが。


「あら、もう私は隠居した身よ。 ただの荷物と思って貰って構わないから」

「いや、そういう訳にも……」


 んな事を、言われてもなぁ。

 こうなると、此方も戦力持ってった方が良いんだろうな。

 正直、俺と護衛に蹋頓さんに丘力居さん、あとは若干のモブを連れて行くくらいしか、考えてなかった。

 袁紹さんへの手土産は、袁三姉妹の見立てで、洛陽の方で準備してある為、此方は身一つでいい。

 だから洛陽まで、割と強行軍で進む予定で、足の速さ優先の少数編成だったが、馬家の方が、こういう状態だと、そう無理もできないだろう。

 何かあるとか考えたくもないが、イベン卜は向こうからやって来るもんだし、楽観視だとか、とんでもない。

 こうなると、華雄さん辺りに、同行して欲しい所だが……。


「大丈夫よ。 何かあったらあったで、無理を推してまで、忠を示そうとしたって事にできるんじゃないかな」


 かなって、小首かしげられても、くそ……ちょっと可愛い。

 いやいやいや、その場合、馬家と董家でどうなるやら、当事者の俺の立場も、かなり厳しいんですが。


「世話を掛けるわ」


 卓を挟んで、対面に座っていた馬騰さんが、此方にやって来て隣に腰を下ろす。

 いや、ホントにマジで勘弁して下さい。

 くそ、そんな「当ててんのよ」されても、くそ、柔らかい感触が。


「なんだったら、途中で一度、お相手してあげてもいいかな?」


 ふっと息を吹きかけられても、それって、手合わせ的なことですよね。

 ご遠慮申し上げます。

 うぐぐぐぐ、正気とか我慢とか、色々と削られてる気がするぜ。


「まあ、貴方なら、いざという時にも、悪い事にはしないんじゃないかって、期待しているのよ」

「むう、そんなに買い被られましてもですな」


 あ、いつの間にか忍び込んできたのか、馬岱さんが、視界の端でなんか、ブロックサインを……が・ん・ば・れ?

 いや、判ってますけど。


「なに? 女と二人の時に、他の事を考えるなんて失礼よ」


 身を乗り出してくるのに合わせて、当ててくる圧力が強くなった。

 やばい、なんか知らんが、押し切られそうだ。

 このまま押し切られたら、もしもの場合に、馬家の面倒まで背負い込む羽目に……。

 というか、馬騰さん……己の寿命は此処までという前提で、今回の事に命を掛金として、ベットしてやがるんではなかろうか?

 それで、何を思ったのか、俺に掛金乗っけてきてやがるんでは?

 くそ、自分とこで面倒の片は付けてくれよ。


「あら、涼州合同軍の際は、うちの面倒にも、首を突っ込んでくれたそうじゃない」

「それはですな」


 って、人の考えを読むなー!!

 そんなに顔に出てるのか!?

 なになに? は・な・の・び・て・る? うるさいよ!!


「たんぽぽ、少し黙ってなさいな」


 軽く、馬岱さんに向けてのバックブロー、届く筈なんかなかったのに、不意に馬岱さんが仰け反って動かなくなった……気弾かよ!?


「ほら、まだまだ元気でしょ。 コフっ」


 にっこり微笑む口角に、拭った血の気が赤く……だめじゃん!!


「どうしても、無理を推すつもりですか?」

「ええ、今、こうして動けるのも、燃え尽きる前の一時だろうしね」


 判ってて言ってくるのは、本当にたちが悪いな。

 とはいえ、断りきるだけの理由もないか。

 正直、途中で死なれた所で、確かに、その忠を讃えることで、それなりの材料には出来る。

 後々、今後の馬家当主である、馬超さんに恨まれるとしても、表立っては問題になることはないだろう……多分。

 と、いうことであれば。


「はぁ、仕方ありませんな」


 艶やかに笑う馬騰さんに、気力で押し切られたのだった。

 何やら悔しい。


「それはそれで、構わないのですがな」

「あら、何かしら?」


 どうせ、ここ迄の面倒を背負い込むなら、何かしらのメリットが欲しいところである。


「もしですな、無事に役目を果たした後、寿成殿が未だ余命を残していたのならですが」

「ええ」

「それは、やるべき事を終えている。 と、考えて宜しいですかな?」


 少し、考える素振りの馬騰さん。


「そうね、そう言って、良いんじゃないかしら」

「であるならば、その時、一つお願いを」


 ふむ、何を云うのかと、興味深そうな顔をしてるが。


「もし、そういう場合があったとして、私に出来る事は少ないわよ」

「いえ、無理な事を言うつもりはありません」

「なら、別に構わないかな」

「有難うございます」


 それだけ、聞いとけばいいだろう。


「なんだったら、真名で誓ってあげるわよ」

「いえ、其処までは」

「いいわよ、迷惑かけるんだし。

 それに、以前のことでは、感謝しているのよ。

 うちのが頼りない所を、助けて貰って」

「……其処まで仰って頂けるのでしたら」


 流石に断り難い。


「我が真名「碧」に誓って、金満福との約定を守りましょう」

「有難うございます」


 最後が少々、大げさな話になったが、取り敢えずの方針は決まった。

 基本的には、それなりに足の早さは維持しつつも、人数は増える感じとなる。


 人員としては、董家からは俺。

 董卓さん所から、華雄さんが来てくれるらしい。

 ちらっと賈駆先生が、ボクも行った方が良いかなーとか、考えていたようだが、反董卓連合のフラグは折れたと思うが、実際の処は現状何が起こるか判らんので、あんまり洛陽には近づいて欲しくない。

 幸い、馬騰さんが来る事で、官位的な偉いさん枠が埋まったので、賈駆先生の話は立ち消えた。

 他のメンバーとしては、馬騰さんの護衛に誰かが来るらしい。

 あと、こっちで準備する護衛に、蹋頓さんに丘力居さん。

 華蝶仮面をやってる連中は、残念ながら未だ合流して来ない。

 思った以上に時間が掛かっているな。

 怪しい奴は複数だと言ってたが、どんだけ居るって話だ?

 複数のプレイヤーが関わっているのか、それともまさかのチート指輪持ちかね?

 死んじゃうと、忠誠激減でマイ外史出奔という、武将死亡のデメリットを無視できるプレイヤーが、周泰さんを一杯握って暗殺攻勢とか嫌すぎる。

 そうだとすると、俺よりもゲームに慣れてて、有効な武将の使い方を出来る奴が、効率的にキャラクターを集めて居るって事なんだろうし。

 周泰さんを決め打ちで、デメリット起こさずに複数ゲット出来るとか、ちょっと色々教えて欲しい所だ。

 まあ、エロい事を控えて、顔に出さないってとこなんだろうけど、こんなゲームしてて、それはどんだけ紳士なんだよ。

 って、ちょっと考えがそれてるな、修正、修正っと。

 他に連れてく人員としては、袁家に対するアドバイザー的な感じで、田豊さんと沮授さんかな。

 あとは例によって、モブ将の一隊を付ける感じである。


「それでは、参りますかな」


 馬家からの面々がやって来て、顔合わせの後、出発となった。

 馬家からの人員は、馬岱さんと、馬留さん。

 馬岱さんはともかく、某糸目な龐翼さんの相方な彼が来ているのは、プレイヤー対策というか、俺への警戒だろう。


「さて、何事も無く、辿り着ければいいのですが」


 俺は、なんとも言えない不安を胸に、洛陽へ向かって出発した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ