53
やっとこさ、二十万字超えた……そして、一話辺りは3キロ半程度。
誰かから言われた「お前の文章って、プロットだよな」という、ところからは中々抜け出せないですね。
黄巾の頭首が討ち取られたという知らせは、瞬く間に広まり、黄巾の残党は各勢力の、最後の功名稼ぎに食い散らかされた。
そして、名を上げたのは曹操、次いで劉備・公孫賛、無難に袁紹といった辺りで、涼州合同軍は、あちらこちらで名は知られるものの、目立った手柄は思い浮かばないという、田舎者も中々やるもんだな的な評価に留まった。
そんでもって、涼州合同軍の打ち上げと相成った訳ですが。
馬超さんが、体調不良とかで、次席になってる董家の華雄さんが「楽しんでくれ、乾杯」と、どこぞのスピーチ嫌いな提督ばりに、アッサリした音頭をとって、ワイワイと始まった。
正直、来たくはなかったんだが、タダ飯・タダ酒に釣られた兵士連中に、土下座で囲まれそうな勢いで、押し込まれて折れた。
流石にあれは怖かった。
正直、樊稠さんやら、田豊さんに沮授さんは目立つので、表に立っては欲しくないのだが、涼州合同軍の三席に、名を連ねている樊稠さんは、そうもいかない。
全く、樊稠さんと華雄さんが並ぶと、目立ってしょうがないのだが。
「あの、金満腹さんですか?」
ちょっとした独占欲がチリチリ刺激されながら、樊稠さんが注目されてるのを眺めていると、可愛らしい声に名を呼ばれ、振り返ると原作キャラの姿があった。
動きやすそうな格好に、スポーティなサイドポニーと、ボーイッシュな濃い眉毛が、快活さを表すも、一寸ばかり猫を被っているのか、大人しそうというか、眉毛がしょんぼりとハの字になっている。
「失礼ですが、どなた様ですかな?」
「あ、すいません。 馬岱と言います。 この前は、お世話になりました。
お姉さまから、話すべきなんだろうけど、ちょっと今体調が良くなくて」
なんと、びっくりの馬岱さんの登場。
糧秣騒ぎの件に、詫びというか、顔出ししに来てくれたらしい。
なんとなく手持ち無沙汰に、空いた盃を持っていたが、そっと注いでくれたりして、卒のないところを見せてくれる。
ふむふむ、出来た娘ですな。
ぐっと飲み干して、もう一杯注いで貰う。
「いえいえ、あれについては、もう済んだことですし、どうやら馬岱殿の様子を見るに……」
「何? たんぽぽ、あ、私があれ、えと」
「普段通りに話して頂いて結構ですよ」
焦って地が出たのか、わたわたする様子が可愛かったので、助け舟を出しておく。
「ありがと。 えーと、たんぽぽ、あ、私の真名だけど、なんか、おかしかったかな?」
「どうやら、馬超殿に何か有りましたかな?」
「え、えと、お姉さまは、あの……その……」
「話し難い事でしたら、、構いませんが、何やら手助けできるかもしれませんし、ただ話すだけでも、気が楽になるかもしれませんよ」
こっそりと、酒をポイント購入、一杯勧めてみる。
「うん、満腹さん……おじ様って呼んでいい?」
「構いませんとも」
うん、なんか、おじ様って呼ばれると、ゾワゾワッとするな。
刃鳴さんは、まだ来ないんでしょうか。
「実は、この合同軍の纏め役に、お姉さまが推されたのは、経験を積むってこともあるけど、おばさまの具合が良くないからなの」
「馬騰殿のことですな?」
「うん。 ちょっと前から、良くなくて。
それで、お姉さまは、馬家の名前を汚すまいと、頑張ってたんだけど……」
「それは、私に話しても大丈夫なのですかな?」
「うん、それ自体は、隠してもいないし。
それよりも、おじさまには迷惑を掛けてるから、話しておかないと」
「あの、事件ですかな?」
こくりと頷く馬岱さん。
「宦官の人が使いに来て、お姉さまみたいな若い者を寄越すとは、馬寿成の忠誠を見誤ったかとか言われて。
お姉さまは反論したんだけど、じゃあ証拠を見せろって。
それで、糧食の供出を命じられて、断ったら、おば様の召し出しも辞さないとか言われて、お姉さまは仕方なく。
あとで、お姉さま、涙でグチャグチャになりながら、皆に申し訳ないって泣いてた」
ちょ、それはエグ過ぎないですか?
一体、誰向けのイベントなんだか?
俺向けにしては、遠すぎる気がするしね。
やるなら素直に、董家に関わってくるだろう。
こうなると例の一件、俺がトリガーかとも思ってたけど、見えない所で、そんな事が起こってたなら、その場に居たやつ向け、多分馬家にいるプレイヤーかキャラクターへと、向けられたイベントじゃないだろうか。
そうだとすると、例の馬留に龐翼への邪魔か、もしくは馬超さん、馬岱さん狙いか。
むう、自分が騒ぎを起こしてる時は、そんなでもなかったけど、近場で派手にやられると、本当に傍迷惑って奴だと実感するな。
あれ? ちょっと待てよ?
アレが、何らかの策だとしたら、すっごい余計な真似、やらかしたんじゃないだろうか?
中央の宦官勢力に、それなりに手が伸びる相手の邪魔とか、死亡フラグじゃないですかー。
褒美あげるからとか言って、洛陽に呼び出しとかされたら、本気で逃げよう。
「おじ様?」
「ああ、すみません。
其処まで強硬に、馬家に対しての圧力をかけるというのは、一体何が狙いかと考えてしまいまして」
「やっぱり、おじ様も、そう感じるの?」
「私個人の考えでは、涼州の勢力に干渉するには、それなりの理由がなければ、外からの禍を招くだけですからな。
それを推せるという事は、それなり以上の力が、働いているということでしょうな」
実際にはプレイヤーの、ものっそい個人的理由だろうけど。
「どうしたら良いと思う?」
「異なる主を頂くものとして、大した事は言えませんが、一人で悩まず、多くの人間にはかることでしょうな。
人間一人では、出る知恵も出ませんからな。
あとは、大事な物を見誤らないことです。
国だ、民だ、大儀だ、名だと、色々と拘り過ぎると、肝心な物を見失います。
本当に大事な物だけを引っ掴んで、逃げることは恥ではありませんぞ」
「……っぷ、くくくっ」
「おや? 如何されましたかな?」
いきなり、プークスクスとか、傷つくんですが。
「ごめんなさい。
でも、おじ様って、変わってるよね」
「そうですかな?」
ちょっとショックだったりして。
「武門の頭領筋の人間に、さっさと逃げろなんていう人は、中々居ないと思うな。
たんぽぽじゃなかったら、顔を真赤にして怒っちゃうよ、きっと」
お姉さまとかね。 と、馬岱さん。
「確かに、華雄殿あたりですと「きさまー、武人を愚弄するかー」とでも、仰りそうですな。
しかし、私なぞ、所詮は商人崩れの、下っ端役人ですからな。
その辺の感じ方は違うのでしょうな」
「ふーん」
何やら怪訝な顔を。
「何ですかな?」
「なんでもないよー。
それより、たんぽぽが逃げてきたら、おじ様は助けてくれる?」
「そうですな、万軍の敵を倒すなどは無理ですが、腹一杯の食事は用意いたしましょう」
「んっふっふー」
何やら嬉しそうな感じで、多少は元気の出たらしい馬岱さんを見送ったあと、俺は宴を抜けだした。
そして、合同軍が涼州に戻り、皆が一息ついた頃、原作とは違うシナリオが、じわりと動き始めたのだった。