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ここの所、曹操さんの動きが、活発化している。
ネコミミさんこと、荀彧さんの加入も切っ掛けの一つだろうし、随分遅れたものの、許緒さんだったり、三羽烏だったりの加入もそうだろう。
なんというか、原作イベントの流れとか順番なんか、知ったこっちゃねぇって感じで動いとるな。
まあ、それらしきイベントが起こるだけでも、凄いのかもしれんが。
現在は、多数の小部隊を運用し、頻繁に索敵と討伐を繰り返しているようだ。
三羽烏辺りは、てっきり他所陣営のプレイヤーか、原作主人公に確保されていると思ってたんだが、うちの部隊の移動中に、あちらさんの討伐の帰りと、バッタリと出くわして、曹操軍に加入したと知って、普通に放置状態だったのなら、探してみても良かったなと後悔しきり。
ともあれ、一つの勢力が動き始めるということは、その他の勢力にも、影響が出ないはずもなく、全体として黄巾の乱が、終盤戦に入ったことを感じさせた。
そんな中、うちとしても動きを決めなければならなかったのだが、驚いたことに、曹操さんからのお声掛りで協調しないか? という申し込みがあった。
そんな感じの現在。
「それで、曹孟徳殿の声掛かりだが、此方はどう動く?」
お久しぶりな、樊稠さん。
「やることは、今までと、特に変わりませんな。
此方としては、包囲や圧迫はともかく、拠点攻めには参加したくはありませんし、極端な話、我々は董家のオマケでしかないのですよ。
ですから、うちとしては、涼州の合同軍として、幾らかの足しになっていればいいのです。
そして、既に積み上げてきた勲功で、充分過ぎる程に貢献しております。
この先は、多少の功名に釣られて、無駄な損害を出すなど、以ての外ですからな」
「なるほどな。
今の我々において、一番貴重なものは、経験を積んだ部隊そのものというわけだな」
「そのとおりでございます」
まさに、イグザクトリィ。
主軍でもないんだし、前に立って殴りあいとか、やりたくないで御座る。
最高のタイミングで後ろから、地面に寝てる赤ん坊の頭を、上から鉄のハンマーの重量任せで殴るのが理想。
「ですから、曹操軍との協調といっても、やることは変わりません。
話を聞く限り、あちらの欲しがっているのは、足の長い機動力の高い戦力で、此方に望むのは、あちらの情報を受け取りながら『賊は居るが、黄巾本軍の居なさそうな部分』を受け持って、雑魚を潰しながら、盤面上で曹家軍の手の回らない隙を塗り潰すこと。
つまり、我々の行動にも沿う形で、お互いが益を得る事ができる。
これこそ、二者両得というもの」
みんなで幸せになろうよ、という奴ですな。
まあ、此方のせこい勲功の拾い集めが、読みきられている部分に、少々恐怖を感じなくもないが。
「しかし、それでは馬家からは、ただでさえ置かれている距離を、更に開いてしまうことにはならんか?」
樊稠さんの問いかけだが、それは、あの詐欺事件の時点で、どうしようもないでしょう。
「その件については、不始末の尻を、此方に拭かせた時点で、我々の関係には隙間風が吹いております。
下手に涼州合同軍として動きを強いられても面倒ですし、特に干渉してくることがないのならば、現状維持で良いでしょうな」
無理するなら、馬家だけでやってくれ。
流石に、合同軍の頭を馬超さんが張ってるとはいえ、無理な事を押し通すとすれば、賈駆先生も抑えに入るだろう。
だから当面は、この距離感でいいんじゃない?
向こうからアクションがない限り、此方が折れる必要もないない。
つか、その辺の距離も見越して、曹操さんも声を掛けて来たんだろうし。
「ふむ、満腹がそう考えているのなら、私に異論はない」
「ありがとう御座います」
というか、うちの頭は樊稠さんなのですが?
私には向いておらんとか言われても……ねえ。
で、曹操さん所と、共動する事にはなったものの、捜索範囲広っ!?
一応、脚の早そうな公孫瓚陣営や、規模の大きくなった劉備陣営、元よりの袁紹陣営の手が届きそうな範囲は、優先度が下げられているものの、隙間が多いぞ、これ。
既に終盤戦というのに、なんでこんな事に?
「序盤での攻勢で、痛い目を見た黄巾軍が、随分と知恵を付けたようですね」
頭をひねっていると、報告ついでに、お茶持ってきてくれた田豊さんが、そんな事を仰る。
よ、余計なレベルアップが……あれか、プレイヤー頑張りすぎて、全体としての難易度まで上がったのか?
「とはいえ、補給経路や部隊が消えるわけでもありません。
手間はかかるでしょうが、一つづつ抑えていけば、本体をあぶり出すのは時間の問題でしょう」
ふむ、その時間も問題かなぁ?
うちは涼州合同軍だが、事実上、独立部隊になっちゃってる感じ。
主力の馬家には距離置かれているし、董卓さんとことも、そんなに近くもない。
というか、董家自体があんまり動いてないな。
消極的というか、セコイ活動しまくってる、うちのほうが活発なくらいだ。
賈駆先生の方針なんだろうけど。
で、馬家は、動いてはいるけど、何か空回りしてる感じ。
この辺は、若い馬超さんの焦りが、垣間見えるような……にしても、違和感だよなぁ。
何やら焦り過ぎでないかね? 原作の馬超さんって、脳筋のイメージはあるけど、こんなにガツガツしてたっけ?
馬岱さんあたりに弄られつつ、コントロールされて、頭が冷えるくらいの事は、有りそうなもんだけど。
序盤空気な馬家と、天下天下言ってた賈駆先生が引っくり返ってるくらいの、違和感だよ。
で、割と頑張って、隙間を塗りつぶす作業をしていたんだが。
ネコミミさんから、お手紙着いた♪ 満腹さんたら、読まずに食べた♪
……とかしたら殺されそうだったので、見てみると。
「ちょっと、アンタ!!
折角、私が愚図でノロマなアンタにも出来る、簡単な役目を振ってやったのに、何をグズグズしているのよ!!
孟徳様の勝利に貢献できる栄誉を、欠片くらい味あわせてあげようって言ってるんだから、さっさと頑張りなさいよね!!
一寸は使えると思って、孟徳様に進言したんだから……べ、別に期待とか、してるわけじゃないんだからねっ!!」
長かったので省略したが、意訳の段階で、随分と俺のテンプレな修正が入ってしまっているのは、お詫びする。
だが、内容的には、それ程外れてはいないはずだ。
「これは、どうしたもんですかな」
現状、一つの部隊か、樊稠さんと、俺で二つに分けるくらいで動いているが、流石にキンとチョイまでバラすと、偵察やらで便利が悪い。
ヘタすると、余計に効率が落ちかねない。
頭が欲しいっちゃ欲しいんだが、勝手に動いているので、涼州合同軍から人を借りてくるって訳にもいかん。
田豊さん、沮授さんなら、部隊を任せても大丈夫だろうが、立場的に一寸問題がなぁ。
「袁家で使った事のある傭兵などなら、伝手はありますが」
沮授さんの提案に、会ってみるだけならタダかと、繋ぎを取ってみてもらう。
当たりを引いたらラッキーだし、と軽い気持ちでいたら。
「あ、またか」
遠目に目立つ、大柄な体躯を持つ一人を先頭に、五十人に満たない一団が合流した。
ぶっちゃけると、丘力居さんと蹋頓さんに、モブ四十人の組み合わせだった。
段々と、登場の仕方が、大雑把になってきている気がする。
とはいえ、能力的にも申し分ない。
樊稠さんに会ってもらい、アッサリと受け入れられた……指輪を持つ同士は、何やら通じ合うものでもあるのだろうか?
そこで、部隊を三つに分ける。
一つを今まで通りの俺と樊稠さんにキン、チョイ、田豊さん、沮授さん。
一つを蹋頓さんに、おまけの内から十人ほどを補助に。
一つを丘力居さんと、同じく十人ほどを補助に。
残りの二十人に、伝達役を任せる。
そして、効率の上がった代わりに、部隊当たりの兵力が少なくなったので、沮授さんと田豊さんに、情報の見極めを、お願いしながら、危険度に合わせて動きを決めて、隙間を塗りつぶしていく。
そんなこんなで、そろそろ埋まるべき所が埋まった頃、曹家軍が張三姉妹を討ち取った。 と、いう知らせが舞い込んだ。