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「どうにも最近、賊が増えたな」
「そうですな」
度々の賊討伐の中、慰労の為の酒宴で、ポツリとこぼし、ぐっと杯を空ける、樊稠さんの言葉が重い。
うちの近辺では、俺が早々に手を尽くして色々と片付けていたので、賊とは云っても、半分傭兵やら任侠者に近い、多少の通行料を取る代わりに安全を売るような、判っている連中が殆どなのだが、少し外れた土地では、食い詰めた農民やらが、流れている間に賊に変わって暴れているらしい。
お陰で商人やらの足も鈍り、ただでさえ景気の悪いのが、物が回らないせいで、どんどん酷い事になっている。
ただ、前述の職業賊? な連中と、樊稠さん以下、うちの軍の頑張りで、董旻さんの縄張りは落ち着いている為、商人達の通過点となっている。
お陰で、他所の落ち目に押し上げられて、景気は良くなっているが、大陸全体として落ち目な以上、喜んでもいられない。
董旻さんの名が上がるにつれ、余計な連中も寄ってくるようになっている節もあるし。
「とりあえず、うちで握っている賊連中も、商人の足が鈍って食い詰める前に、こちらに取り込んだ方が良いですな。
通行料や、みかじめ料も、この先思うようには、得られんでしょうし」
「その辺りは満腹に任せる。
私では、あちらも警戒するだろう」
「畏まりました」
と言うことで、上司にその辺を相談する為、李儒さんの執務中に、お茶の用意を持って、顔を出してみた。
「永殿、少々宜しいですかな?」
接客用の卓に、お茶の用意をしながら、声を掛ける。
「そんな良い匂いさせながら、声を掛ける時点で確信犯よね。
ボクの方も一段落したから、構わないわよ」
「実はですな、領内の息のかかった任侠連中ですが、そろそろ此方で握ってしまう方が良いかと思いまして。
つきましては、予算の方に」
「判ったわ。
今の所、益州から都へ、うちを通る連中が居るのも、連中の御蔭だし。
商人達が落としてくれる金で、問題なく賄えるでしょう」
「ありがたく。 ではそのように」
とかやってると、董旻さんもやってきたので、暫くお茶してから、その場を辞した。
という事で、賊やら任侠やらに、十手じゃないが、印綬を渡しての取り込み。
こちらで俸給を出す代わりに、みかじめやら通行料は取らないようにする以外は、基本的には変わらない。
まあ、横の繋がりを強化して、仲の悪い連中に手打ちさせるのが、少々手がかかったが、それなりの効果は有るだろう。
そして、そんな連中から、正式に仕官したいという者も居たので、集めてみたら見たことのある連中が混じっていた。
武力系のモ武将が四十人……こりゃまた、一気に来たなあ。
とりあえず、散らして配属もいいんだが、この先も登場する度に動かすのも面倒臭いので、当面は直下で握っておくことにする。
まだ、百九十人から出てくるからなぁ。
「うーん、頭が欲しくはあるが……。
お前さん達は、女官の格好でもして、影からの警備を頼みますかな」
「「「「はっ」」」」
そして、ちょっとして後悔。
増やした女官が、ちょっとした騒ぎになってしまった。
以前は行儀見習とかで、割と安易に受け入れてたが、ここのところは身元の管理やらを、李儒さんが厳しくしてるんだそうだ。
俺が、以前の手続きだけで放り込んでたら、女官のくせに、微妙に武の気配がするもんで、樊稠さんに詰問されて発覚した。
即座に金満腹配下と応え、ヤスが保証したので、大事に至らずに済んだが、えらいチョンボだ。
上司殿に中々厳し目の、お言葉を頂いてしまった。
「今回の事は、少々迂闊だったわね」
「面目次第も」
「違うの、満腹が私達の身辺に、気を回してくれるのは嬉しいのよ。
実際、必要だろうしね。
ただ、此方にも声を掛けるようにしなさいってのよ。
変な気の使い方は無用よ」
「これは、失礼いたしました]
流石は李儒さん、懐が広いぜ。
というような事があって暫く、冀州でワッサリと黄色い連中が蜂起した。