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「ぐむむむむむむむ」

「うぬぬぬぬぬぬぬ」


 メガネを掛け、キツイ目をした二人が、顔を突き合わせて唸っている。

 まさか、こんな田舎に態々、賈駆先生がいらっしゃられるとは。


「満腹、そんな物珍しそうな顔して感心してないで、ボクに加勢しなさいよ!!」


 李儒さんが唾を飛ばしながら、そんな事を仰るが、実は楽しそうですよ。


「いえ、お邪魔しては、いけないかと思いまして」


 董旻さんも微笑ましげに見てるし。


「詠ちゃんも、永ちゃんも楽しそう」

「結!! 何処見て言ってるのよ!!」

「そうよ!!」

「へぅ……」


 息ぴったりじゃねえか。


「ささ、叔穎殿。 お茶をどうぞ」

「満腹さん、ありがとう。 結でいいですよ」

「いえ、流石に仕事の場では」


 何気に真名を預けて頂いてたりする。

 この周回、特にドラマチックな事とかなくて、李儒さんの手助けを淡々とやってるだけなんですが、順調すぎて不安になる。

 もしかして居合わせなかったら、ちょっとした事で居なかった事にされる程度の、やばい状態だったんだろうか? 此処の2Pカラー主従って。

 それを知らない間に救ってたとかなら、イベントクリア報酬代わりの真名ゲットなのかもしれないが。


 って、おっと。

 なんで賈駆先生が、ここに居るかって話だ。

 なんでも何処かから「董家の名前を傘に要らんことしてる奴が居ますよ。 足元お留守になってませんか?」的な便りが来て、綱紀粛正を図って色々と調査している内に、此処の県で不審な動きが感じられるとのことで、調査に来たって事らしい。


「しかし、賈文和様が直々にとは」


 人が居ないのか、余程に此処が気になるということか?


「詠ちゃん、真面目だから」


 董旻さんが、心配気な様子で、賈駆先生を見つめている。

 どうやら、やっとこ睨み合いが終わって、お茶の席についてくれるようだ。


「だから、不自然に厄介な輩に絡まれているだろうに、健全な会計してるのがおかしいって言ってるのよ!!」

「ふん、そんな事くらい。

 ちゃんと対処して、何か有っても建て直すくらい、造作も無いわよ。

 その程度のことに、自身で態々調査に来るなんて、賈文和ともあろう者が随分と鈍ったんじゃない?

 董家を纏める為にって結を退かせておいて、この体たらくじゃ、月も随分苦労してるんじゃないの?」

「く、あんただって、納得したんじゃないのよ!!

 それを一緒になって、こんなところに引き篭って。

 あんたが居れば、こんな事にはなってないわよ」

「詠ちゃん……ごめんね。 永ちゃんは、私のことを心配して」

「結は関係ないわ。 それにボクは理解はしたけど、納得なんてしてない!!」


 やっぱり、お家騒動というか、董卓さんを軸に纏める為に、董旻さんが身を退いたのか。

 それで李儒さんも、なまじ理解は出来るだけに、家を割って迄の行動は起こせず、さりとて董旻さんを放ってもおけず、出奔紛いの事をして、こっちに来ちゃったか?


「それに、今更戻る気もないわ。

 ここはまだ、小さな頼りない一つの県でしか無いけど。

 ボクに全ての差配を任せてくれる結と、後ろを支えてくれる満腹が居る。 樊稠だってね。

 以前のボクは、いつも先にいるアンタへの劣等感から、表に出ることを避けて裏に回ったわ。

 でも無理よ、思い通りに手を振るえる今を、もう手放せないもの」


 李儒さんの満足気な笑顔が眩しい。


「なるほど、命を削りても、縦横無尽に知と舌を振るい、世に己を知らしめ嗤う。 これ、世に縦横家と呼ぶ。

 軍師にしろ、政治家にしろ、武人にしろ、己が力を振るう愉悦に、逆らえる生き物ではありませんな。

 優秀であれば有る程に……しかも、見るところ賈文和、李文優、共に王佐と言える領域の智者。

 ならば、尚更でしょうな」


 ああ、お茶が美味い。

 あ、李儒さんが真っ赤になっている。

 おお、あかいあかい。


「ところで、アンタは誰よ。

 結が真名を許してるみたいだし、永は随分頼りにしているみたいだし」

「これは、申し遅れました。 金満腹と申します。

 こちらでは雑事一般を取りまとめております」


 おや、賈駆先生が、いやーなニヤリ笑いを。


「なるほどね。

 金満腹……ポツポツと聞く名前ね。

 たちの悪い連中が片付いた時に、えらく法外な見舞いを出してるってね」

「如何な人々でも、見知らぬ土地で果てるは悲劇でございます。

 できうる限りの事をして差し上げたいと、思っておる次第でございますよ。

 この辺境では、探し人が見つかるにも三人に一人ほど。

 そのお一人には、せめてもと普段より、いかほどかの心尽くしを叔穎様よりとの見舞いとして、ご実家に送って差し上げております」


 片付けた三人に一人は表に出して、巻き上げた二人分の見舞いを出して、残りの一人分はポッケナイナイして、商売の元金にします。

 地味に儲けてますが、出てこない連中の謎よりも、出て来た一人に対する過分な見舞いで、世間の見た目がプラスに成る不思議。

 こんな田舎にたかりに来る連中なんて、消えても気にされないって事ですな。

 って、本当に俺って最低だ……つか、こういうロールプレイ出来るゲームってどうなのよ。

 犯罪教唆とかにならんのかね?


「満腹さん」


 董旻さんが、素直な感動の涙を流している。

 李儒さんが、得意げにフフンと嗤う。

 賈駆先生が、バリバリ警戒の目で見ている。


「そういう事ね。 金満腹……覚えとく」


 賈駆先生は出ていかれました。

 それから数日、細々とした事を片付けて、出立の日。


「私のような輩を否定はされないので?」


 時間を見つけ、コッソリと話をしてみた際に、聞いてみた。


「裏仕事の必要性は、ボクも判ってるわ。

 あの子が居なくなって、判ったというべきかもね」


 自嘲の笑み。


「だから、少なくとも、ボクが何か言うことはないわよ」


 少なくとも、黙認はすると。


「そうですか……判りました。

 ところで一つ、年寄りのお節介を。

 如何に才有りとはいえ、一人で出来る事は、そう多くは無いですぞ」


 まあ、中央は怖いですよ的な話ですが。


「ふーん、それじゃあ貴方、ボクのところに来る?」


 試すようなニヤリ顔ですな。


「士は二君にやら、士は己を知る者やらと、偉そうな事を云うつもりはありませんが。

 文優殿も仰られていたように、任せて好き勝手やらせて頂ける、今に満足しておりますので」

「ふん、判ったわよ」


 賈駆先生は去っていった。

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