42(三周目開始)
器機を繋いで、ダイブに移行する。
このタイトルを初めてから、長時間のダイブも行い、もう三週間は経つものの、中々慣れない感覚だ。
さて、メニューから外史を選択。
立場とスタート地点をランダムに設定する。
アカウントの変更によって、プレイヤー六人分の空きがないと入れない仕様に変わったんで、待ちが掛かるかと思ってたんだが、特段そんな事はなかった。
「ん?」
モヤモヤした風景が形を取り、明確なイメージに変わる。
普通の人の土地と、あまり変わった感じがない。
どこまでも広い荒野と砂塵。
「これはまた、幽州の近くに出てしまいましたかな?」
首を傾げながら、自身の情報というか、シナリオを読み込む。
えーと、立場は……無位無官……フリー?
辺りを見渡すも、なんにもない。
おや? と、首を傾げると、自分が馬に乗っているのを知った。
ポイントで購入した名馬であり、恐らく最上級なレアだろう赤兎馬には及ばないが、購入範囲では最も上位な汗血馬である。
名前はつけていないが、小太りな今のアバターには似合わない大柄な馬体ながら、大人しい良く言うことを聞いてくれる馴染みの相手でもある。
それを確認して、少々の安堵を感じつつ、今がどういう状態なのかを再度考える。
手綱は握っているものの、馬は勝手にポックリポックリ進んでいる。
「ふむ、お前さんよ。 一体何処に向かっておるのですかな?」
たてがみを梳るようにして、馬の首を撫でながら尋ねるが、ぶるると相槌らしき愛想を返すのみ。
どうやら目的地はあるようで、明確にある方向を向いて進んでいる。
それならば、と。
「よし、お前さんに任せるとしますかな」
ほれ、行け!! と首をポンと叩いてやると、並足から駆け足に変え、グンと体を持っていかれそうな勢いで速度を増した。
暫くの間、何も考えずに脚の向くままに走り続けていると、遠くで何やら動くものが見えた。
やっと話が進むかと思い近寄っていくと、どうやら馬車を含む一団が、騎馬の集団に追いかけられているらしい。
「また、面倒な導入ですな……補佐なしで、あの人数を何とかしろと?」
ざっと検討をつけるだけで、三十人近い連中が追っ手になっており、逃げている方は十人そこそこ。
射掛けられる矢が、頑丈そうな馬車に集中しているお陰で、脱落者が居ないよううだが。
「まあ、死んだ所で再スタートにも時間は掛からないでしょうしな」
メタなことを呟きながら、ポイントショップから弓を購入。
お馬さんに連中の右後ろに付けさせ、狙いをつけるにはチョイと遠い距離から、ヒョーイと射る。
まあ、弓に補正なんぞ無いので、当たれば目っけもんと思いつつも、ある程度固まっている集団相手ならと、続けて射掛ける。
一つ二つと射掛ける内に、馬にでも当たったのか、中程の連中が引っくり返った馬に巻き込まれるように脱落した。
この時点で連中に気付かれたが、此方に手勢を分けるか悩んでいるのか、動きが鈍い。
それならと気にせず、更に弓を放つ。
警戒されたのか、騎馬同士の間を開けられたせいで、盲撃ちでの命中率が下がったが、それでも数打てばなんとかと、一騎落とせた。
流石に五騎ほども落とされると頭にきたのか、此方に向かって手勢を分けてきた。
「これは、拙いですかな……」
騎馬戦闘とか、基本は数で押し潰すことしか考えてないのに、こんな無双ごっこはやりたくないんだが。
ともあれ、距離をとって、弓を射かけられるのも困るので、此方も間合いを詰めるしか無い。
此方へ向かうのは五騎、弓を剣に持ち替え、随分と威勢がいい。
弓を手放し、ポイントショップで槍を購入。
それ程に良いものではないが、ぶん投げて使い捨てるには手頃な代物だ。
弓から剣に切り替わる間合いの途中で、敵騎馬の真ん中辺りに目掛けて投擲する。
油断していたのか、得物を手放すとは思っていなかったのか、面食らって動きの鈍った奴に直撃、馬から叩き落とすことに成功。
そして一気に、間合いに飛び込む瞬間、再度武器を購入。
張翼徳の持つ十丈蛇矛を手に、運のポイント四〇〇消費で、武力を一瞬だけ二〇〇に増強。
一気に振り回し、間合い内の連中を豪傑よろしく、宙に巻き上げる。
「これは、中々キツイですな」
包囲を抜けた直後、武力増強の反動か、体がギシリと軋む。
持っていられそうにない、蛇矛を売却し無手に戻って追撃を続けるが、どうしたものか。
ぶっちゃけ、やる気が無くなった……と、先方で動きが出た。
数の減った連中が戸惑っているのに気付いたのか、追われる集団のうちから一騎、列から飛び出して追手に踊りこんだ。
そして、得物を振り回し、賊共を蹂躙する。
「あれだけの武力持ちなら、最初から蹴散らせばよかったのでは」
なんとなく、納得できないものを感じながら、その顛末を見届ける。
決して長くない時間で片付いてしまったそれに、余計に疲労感を感じながら、運の回復にゴッドヴェイドー印の粥を飲みつつ、立ち止まる。
追われていた集団も立ち止まり、賊の処理だの馬車の補修やら何やら始め、賊を片付けた武将らしい騎馬は、此方に警戒しながら近づいて来た。
手に持つものは、長柄の戦斧。
すらりとした身を包む、紫の衣装。
ショートカットの黒……髪?
あれ?
「ご助力感謝する、我が名は樊稠。 貴殿の名をお聞かせ願いたい」
えー……。
「私の名は、金満腹と申します。 些かなりと助けになったのであれば重畳に存じます」
い、一応は、董卓陣営なのか?
なんか、変な導入だが、何ルートなんだ?
頭の中がゴチャゴチャしている間に、馬車の近辺に辿り着き、下馬して偉いさんに目通りすることに……董卓だよな?
俺の戸惑いをよそに、馬車から出てくる二人の小柄な女性。
足を地につける途端にズッコケ、へぅと鳴くそれに、ちょっと安心したものの、ベールを被るうちには未だ油断はできない。
その裾がトラップにしか思えないような、推定董卓さんの華美な服装を整えてやり、助け起こす想定賈駆さんが、こちらを見やりながら、そのベールを取り去る。
そして現れる、黒……髪? おやぁ?
眼鏡で、キツイ目をした帽子被った……そこまで行っててなぜ、黒髪。
此処は2Pカラーの世界か?
頭の中が空回りしてる中、最後のダメ押し。
推定董卓さんも、黒髪でした。
「董叔潁と申します。 この度のご助力、かんひゃ……へぅ」
「感謝するわ。 ボクは李文優、ゆ、董県令の副官よ」
噛んだ―。
そして、董旻で李儒かよ……何ルート? 本当に何ルート?
「金満腹と申します。 たまたま通りがかった、とはいえ。
何かの縁が有ったのでしょう。お気になさらず」
「そ、そうは行かないわ。 悪いけど、董県令の赴任先まで、同道して欲しいの」
えー。
「それは一体? 私のような商人くずれ等、お役に立てるとは?」
「よく言うものだ。 あの武力、ただの商人崩れが持つものとは思えんな」
「樊稠さん」
「叔潁殿、無事で何よりだ」
片付けが終わったのか、樊稠さんが追いついてきた。
「あの人数相手に飛び込んでは、足止めされ、兵を分けられてしまう恐れがあったのでな。
数を減らしてくれたこと、心から感謝する」
「いえ、何度も云うようですが、お役に立てたのなら何より。
過分なお言葉は、身が細ります」
小太りだけどな。
「うーん、そういう話だけじゃないのよ。
正直、樊稠だけじゃ、さっきみたいに数を揃えられると辛いの。
だから、護衛としてついて来てくれないかしら? 謝礼は間違い無く払うわ」
こうして見ると、モノクロの董卓主従だなぁ。
まあ、導入の都合という事なら、吝かではないのだが。
「畏まりました。 微力ながら、ご一緒しましょう」
と、気張っては見たが、その後は順調に旅程をこなし、赴任地という田舎の県に辿り着いた。
どうやら隴西のどこからしいが、2Pカラー主従って、本編中も地元に居たってことなんだろうかねえ?
「それでは、私はこれにて」
それなりの報酬を頂いて、場を辞して、これからをどうしようかと思案していると。
「満腹殿」
ん? スレンダーで、微妙に目のやり場に困る衣装の人が。
「樊稠殿?」
「実はな、満腹殿は商人上がりと聞いたのだが、計数には強いのだろうか?」
そりゃ、まあ。 基本的には文官スタイルですからして。
「まあ、それなりに。
ただ、身を持ち崩したわけではありませんが、あまり商人には向いておらぬと感じましてな。
こうして気ままな旅に出ておるわけですが」
「そうか!! それでは、此処に身を落ち着けてはみぬか!!」
バシバシと背中を叩かれる。
「ちょ、樊稠殿。 いた、痛いですぞ」
「そうか、話を聞いてくれるか!!」
ちょ、答えは聞いてない系の人なのか!?
誰もそんな事は言ってないぞ。
導入にしても強引過ぎるだろう。
「よく来てくれたわね」
とか言いながら、凄く気の毒そうにしてる李儒さんの視線が、多少は癒しになります。
横に立っている樊稠さんの、満足気なムフーという鼻息に、引きつりそうになってる俺ですが。
「まあ、悪いんだけど、助けが欲しいのは間違いないのよね。
できれば、この地に留まって、董県令の力になってくれると、ありがたいわ」
「そう言って頂くのは、とても光栄ではありますが……」
どうなんだろうなぁ?
他の連中と合流するのが先なのか、このまま流されるのが正解なのか。
情勢を知るには、仕官するのも手か。
少なくとも、軍師狙いで行くなら、良い切っ掛けではある。
ただ、董卓軍閥の董旻さんなのか、董旻勢力なのか、どちらなんだろう?
お家騒動で殺しあいとか、恋姫では勘弁して欲しいとこではある。
まあ、無印孫呉じゃ、それっぽいことやってたけどなぁ。