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会議が終わると、周囲が一気に慌ただしくなった。
流石に、敵も味方も数万単位となると、大騒ぎになるようだ。
俺としては、数千単位の指揮ですら、迷子を出すようなざまだったせいか、この規模をコントロールするとか、いまひとつ想像がつかないな。
「それでは、次の合流時に。 ご武運を」
趙雲さんと普通の人、それと南郷さんに挨拶して、陣から離れて集積地へ向かう。
別れ際、趙雲さんに「そういえば、あの睨み合いは何だったのか?」と聞いた所、曹操さんが趙雲さん・張遼さんに、声を掛けたのが切欠で、夏侯惇さんと招きに応じる応じないで騒ぎになり、其処に止めに入った袁家陣営も、ちっちゃいクルクルがどうの、おっきいクルクルがどうのと、騒ぎを大きくする火種にしかならず、挙句の果てに、あのおっかない修羅場になったんだとか……くだらねー。
ただ「曹操さんの招きに、なんて答えたんですか?」と聞いた所で「少々窮屈そうでしてな」という答えを聞いた時には時には、普通の人が「喜んで良いのか悪いのか」と苦笑していた。
討伐軍から離れ、物資集積地への道中、街道で百人程の小さな賊の集団が、種籾でも狙っているのか、旅人達を襲っていた。
盗賊連中が追っている背後から、千騎で更に追う。
結構な距離まで近づいて、やっと気付いた賊連中が、散って逃げるが、更に大きく包み込んで取り押さえる。
「観念するから殺さないでくれー」
囲まれると、割とあっさり降伏した賊連中。
ステ無しの雑兵だけかと思ったら、三人程、見たことのあるようなモブが居た。
主人公の開幕に出てくる三人組にそっくりだ。
更に、なんとも微妙なパラメーターをしている。
「アニキ」は統率30を頭に20ほどが並び、「チビ」は知力30・武力20の他は10前後、「デク」は極端で、武力60の他はオール一桁。
「どうしたものでしょうな」
「助けてくれたら何でもやる!!」「へへぇ」「ぶふー」
見事な土下座と割り切りをするな。
ナイスな雑魚臭が、妙に気に入った。
普通なら、枠に入れるなんて、選択肢を思いつく前に、切り捨ててしまうような存在だが、俺にしてみれば、気が向けば入れても構わない余裕があるし。
「まあ、いいでしょう。
今日から、お前たちの名前は「キン」「チョイ」「チャン」です」
キムじゃないのは、悪そうな顔してるしなぁ、そのままだと流石に元ネタさんに気がひけたんで。
「ありがとうございやす。 旦那」
「ケヒ、ございやす」「ブフー」
適当に+3から+5程度のアイテムを投げて忠誠を上げ、指輪を渡して契約。
まあ、ヤスよりゃ使い勝手は微妙とはいえ、特化してる部分もあるし、ヤスでも結構使いでが有ったからな。
最悪、本気で地雷を踏む役に、着いて貰えばいいか。
さて、追いかけてた方は、このまま護送して屯田兵して貰うとして、追いかけられてたのは、どんな奴だ? えーと、普通に避難の人か?
「おお、お有り難うございます。
戦の難を逃れて息子夫婦の所に行く途中でごぜぇました」
なんだ、種籾持った村長は居なかったか。
「それならば、幽州の境まで同道されますかな?」
「重ねがさねのご好意、ありがたい事でございます」
どうせ、荷物空だしねえ。
「では、適当な荷車へ。 暫くしたら出立す……る……!?
申し訳ないが、少々待って頂けますかな」
「は、なな、なんでございましょう!?」
「そちらの方たちは?」
なんか、妙に小奇麗な旅装のやつが、三人……。
「はぁ、つい先程より、同じ道行ということで、同行しておるのですが」
「ちょっと、顔を見せて頂いても宜しいかな?」
「……はい」
恐る恐る、頭から被っていた外套を……其処から現れたのは。
「ちょ、張三姉妹!?」
「「「違います!!」うわ!!」うんですのよ」
えー、その舞台衣装の格好で言われても……ん? なんか違和感あるな。
「私達は、数え役満シスターズの偽物なんです」
眼鏡の張梁さんの言葉に、思わず呆気にとられる。
「えーーーーー」
あ、張宝さんに胸がある……それとなんか、全体的にテンション低いというか。
「似てるからって商人に雇われて、黄巾党相手の金稼ぎに、お布施を募ってライブをしてましたの」
「でも、こんな大騒ぎになって、商人が殺されちゃって、危険を感じて逃げてきたのよ」
「黄巾の人が大勢退治されたからって、幽州に向かって来たんです」
ライブとか言っちゃうなよ。
「それは、なんというか。 しかし、偽物といえど、よくぞここまで似た姉妹が」
「まあ、髪を染めたり色々と苦労してますのよ」
「それに私とお姉は、眼鏡ないと良く見えないの我慢してるしね」
「私は伊達めがねです」
マジですか。
いやまあ確かに、あの三姉妹じゃ、似たとこを探す方が難しいというか。
姉妹で且つ、素で似てるソックリさんを探すとか無理ゲーすぎるか。
にしても、よくぞこれだけ似てる人物をデッチ上げた商人、金儲けの為とは言え頭が下がるわ。
しかし、またぞろ変なイベントに、顔を突っ込んでしまったのか? この三人どうしたもんか?
黄巾の内幕がバレた時の事を考えると、微妙に保護もしづらいが、放ってもおけないし勿体無いし。
しかし、順当に三姉妹が曹操さんに保護された場合、こんなの握ってると口封じに狙われかねんし。
まあ、バレなきゃとも思うが。
「そうですな、これから行くあては、御座いますかな?」
「いえ」と、張梁さん。 仕切るのはこの人らしい。
「でしたら、私にお世話させて頂けませんかな?」
「いいのですか?」
「すみませんが、貴女方を放置するのも危険かと思いますので、出来れば目の届く所に居て頂ければ助かります。
無論、仕事や生活の保証はさせて頂きますので、ご安心を」
「わかりました。 お受けします。 二人もいいよね?」
「判りましたわ」「仕方ないわね」
しかし、微妙な違和感が。
天然我儘な張角さんの偽者さんは、微妙に良いとこのお嬢さんっぽい感じで、おっとり風味。
小悪魔系ツンキャラの張宝さんの偽者さんは、少し身長が高くて胸があって、強気なしっかり者。
怜悧でしっかり者の張梁さんの偽物も、多少身長が高めでスタイルが良いな、冷静な所は変わらないけど、なんか気弱に見える。
しかも、上の二人が実はメガネっ娘で、三女が伊達メガネとか……そういや、化粧とか髪染めてるって話だけど。
「は?」
暫く考えこんでしまってたか、ふと顔を上げると……そこには……。
「あら、何か考えこんでるようでしたので、お化粧などを、落とさせていただきましたのよ」
「いやあ、メガネかけてると安心するわね」
「何か、変ですか?」
いや、化粧とかってレベルじゃ無いぞ。
これだったら、似てるとか、あんまり考えなくても良かったんじゃ?
変わり過ぎだろ、そして、そこはかとなく嫌な予感がする。
なんというか、ごく最近見かけたような顔立ちが思い浮かぶ……三人とも地毛は金髪、目元はメイクに騙されてたが、クッキリしたツリ目がち、そして隠しきれない育ちの良さというか、妙なオーラ。
うん、袁紹さんに似てるんだな。
あー、聞きたくないー。