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「では蹋頓殿、今回の侵攻について、お話いただきましょうか」
「ふん、元はといえば、貴様らの方が約定を破ったのだろうが!!」
いきなり過ぎて、訳が分からないよ。
「約定、といいますと?」
「密約があったのだ」
と、蹋頓さんが、ポツポツと話しだす。
なんでも、前代の太守との間で、緩やかな不戦と外交チャンネルの維持の為に、ある土地で物資や家畜のやり取りを、黙認していたのだそうだ。
お互いの利になる為、続けて維持されてきたのだが、ここに至って突然の打ち切りと、その土地の役人が夜逃げしており、其処へ取引に行った者が捕縛されたと。
あれ? それって?
俺が是正しちゃった、物資の在庫不備のせいか?
怪しい数字ってのは、やり取り用の備蓄だったり?
で、前担当者は夜逃げして、新しい役人が仕事して取引に来た連中を、捕縛してしまったのか。
おいおい、そんな話を初期の仕事に絡ませるなよ……1プレイヤーの初期任務から、陣営がコケそうになるイベントに発展とか。
うちの白蓮さんも、知らないと首を振ってるし。
やっぱり、外史自体に仕込まれてる本線じゃなく、イベント設定か。
となると、当事者の俺が解決線といかんのか。
「ヤス!!」
「何すか、旦那」
ざっと、捕縛者の開放を指示する旨を書きつけて、迷惑料がわりのポイントと一緒に渡す。
「コイツを持って行って、捕縛された連中の開放を」
「はいよ」
マイ外史の備蓄物資は……流石に、金山のポイント収入がメインなだけに、物資としての備蓄は少ないか。
そのかわり、ポイントの余剰がアホみたいになってる。
劉備さんの予算、5000でも良かったかもしれないな。
ポイントショップで、金山10個購入……アイテム化してると地図になるのか……説明を見ると、所有者にポイント振り込まれる作りらしい。
「蹋頓殿、これをお渡ししておきます。
この先、密約の維持は難しいでしょう。
ですから、これを元手に、新しい約定を太守殿と結ぶのが宜しいでしょう」
「いや、まて。
お前は一体……」
そこで、世界が凍った。
「はぁ~~い♪ お・ひ・さ・し♪
あなたの天使、貂蝉ちゃんよぉ~う」
ぶっ!! 急に出てくるなよ!!
「だぁーれが、アイザックさんも慄く、狂気の宇宙謎マッチョ生物ですってぇ!!」
「そこまでは言ってない。
で、なんで急に? こんな所でストップかかるとか、フリーズ? バグだったり?」
「いーえ、むしろ、あ・な・た・の方が想定外なのよ~」
どういうこって?
「実はねん、このミッション。
相当な難度の設定で、普通にやってれば、二回目のダイブでなんて出ないの」
「でてるんですが」
「それは、あなたが、ポイントを湯水のように使って、初回で色々やらかしたから、あなたの現状の設定難度が、激上がりしちゃったのねん。
だから、初期任務に、こんな罠ミッションが出てきたのよん」
「罠ミッションなのかよ」
「あらん、口が滑っちゃったわ。
というか、この先も酷い事になりそうだったから、ここで止めたのよん。
基本的には、このミッションには正解がないの。
一番の正解は、最初の段階で気付かずにミッション未達成でのペナルティを貰って、素直に難易度落とすこと。
次は、蹋頓ちゃんとの交渉で、プレイヤーと白蓮ちゃんと烏丸族が三方一両損の結果を出すことねん……事前情報無いから、基本無理だけど」
「おおい!!」
となると、俺の場合は?
「それじゃあ、俺のやり方だと、どこが拙いと?」
「少なくとも、兵力使いまくって烏丸族を相手に俺TUEEEEとかしてくれる分には、判定のしようがあるんだけど。
戦闘に入った状態から、蹋頓ちゃんを生け捕って、情報掴んでから、高額のポイントをバラ撒いて、事を収めるなんていう判定は、普通は想定外なのよねん」
「じゃあ、どうなると?」
「アドリブで判定させて貰うわねん」
アドリブって、あんた。
「とにかく、戦闘は起こっちゃったけど、交渉ルートに進めるのが筋道よねん」
「まあ、そうだな」
「それから、三方一両損って意味は、あなたが評価を下げ、白蓮ちゃんの所と烏丸族が、兵力と物資をすり減らした上で、痛み分けの形で停戦ってところなんだけど。
烏丸族、このまま行くと金山貰って儲かっちゃうし、白蓮ちゃんの所も、兵力減らずに済んじゃいそうだし、どうせ、奪われた輜重分も補填しちゃうんでしょ?」
「一応、そのつもりで」
「そうなると、条件達成になっちゃいそうなのよね。
これ以上、難度上げてみたいのかしらん?」
「いらねーです」
「じゃあ、処理上は達成しても、難易度は落とす方向で行くわねん」
「ういー」
「あ、そうそう。 蹋頓ちゃんだけど、一騎打ちで負けたのに生かされて、今の扱いの上に金山とかの話が出て、グラングランになってるわよん。
半ば以上、吊り橋効果っぽいけど、このまま押せばゲット出来るんじゃないかしらん。
ネームドのモブだけど、イベント難度が洒落にならない分、能力は高いわよん。
じゃあねぇん、あ☆でゅ~♪」
貴様の投げキッスなどいらんわぁ!!
しかし、中々いい話だったかもしれないな。
そして、時が動き出す。
「誓って言いますが、私も太守殿も、密約の事は知らされておりませんでした。
とはいえ、今回の事が引き起こされた原因の一因で在る事は、間違い有りません。
ですから、あなたにはこれを持って、今の争いを止め、丘力居殿との新たな約定を結ぶ為の力添えを、お願いしたいのです」(キメ顔で魅力200押し)
「……判った。 どうせ、この身は生命を握られ、生かされている身だ。 否応もない」
「助かります」(更に200押し)
「くっ!!」
おぉ、もしかして利いてるんだろうか?
「おっちゃんが、悪い顔してるのだ」
「しっ、きこえるって」
「いやいや、お二人とも十分声が大きいですぞ」
白蓮さんも、張飛さんも趙雲さんも聞こえてますよ。
「それでは星殿、蹋頓殿を丘力居殿の所まで、お願いします。
我々は、太守殿を止めますので」
「お任せを!!」
「我らも出るぞ!!」
一足先に出立した騎馬勢を追うように、うちの部隊とおまけが走りだす。
そして、夕刻には、公孫賛軍4000と、烏丸族凡そ6000の睨み合いの舞台に辿り着いた。
「間に合いましたか」
「満腹さん、無事だったか」
「満腹、どうしてここに?
それに、何か知ってるのか? この訳の判らん状況について」
「まあ、それなりに……いえ、それよりも戦になる前で良かった。
実は……」
普通の人と南郷さん相手に、カクカクシカジカ、しかくいきゅーぶ。
とかやってる間に、あちらから、白旗上げた騎馬が二騎。
「一人は蹋頓殿、もう一人は……」
「ああ、あれは丘力居だ」
普通の人が仰るなら、間違いはなかろう。
一応、話は通ったのか。
「じゃあ、こちらも出るぞ。 満腹、南郷、ついて来い」
戦場の真ん中で、睨み合う。
「それで、引いてくれるのか?」
普通の人が、端的に問いかける。
「まあ、宜しいでしょう。
どちらが原因としても、今なら害らしい害は出ていませんし。
古い話を蒸し返すよりは、これからの事を問うべきでしょうから」
「そう言って貰えると助かる。
こちらとしても、そちらとの新しい関係を望む。
しかし、もう少し情報が残ってて欲しかったもんだよな……」
割合あっさりと収まる会談に気が抜ける。
「ただし、幾つか条件を付けたいのだけれど」
と思ったら、丘力居さんから、そんな申し出があった。
「聞くだけ聞いてみるけどさ、無理は無理だぞ」
「難しいことではないわ。
交渉の担当は、うちの蹋頓と、そちらは金満腹殿に願いたいわね」
「それは、まあ。 構わないが。 それだけか?」
拍子抜けしたのか、普通の人がポカンとしてる。
「ああ、あと、私は身を引くので、後継者は蹋頓に任せるわ」
「は!? あの、丘力居様?」
「今回のことを収めるにしても、そのまま私が居座ると、他の連中から弱腰と見られてしまいそうだし。
ここは丁度いいから引退するわ」
「そ、そんな軽い調子で言われても。
それに、私の身は、あの男に握られておりまして」
「あら、盟を結ぶのに、好都合じゃないかしら。
あんな条件を出してくる相手なら、下手に出ても、そう無碍にはしないでしょ。
伯珪殿も、そうよね」
「あ、ああ。 別段嵩にかかるつもりはないぞ」
急に振られたからって、そんなにアッサリ答えちゃっていいんですか、太守殿。
「それに、一騎打ちの勝ち負けでどうこうという話なら、私が満腹殿の虜となりましょう。
それで、対等の付き合いとして貰えば良いわ。
宜しいわよね、満腹殿」
ムチャぶりくんな。
「いや、虜だとかそういう話は「女に恥をかかせるのかしら?」承りました」
「あ、あまり舐めた事をするようなら、噛み千切りますからね」
ど、どこをですかぁ!!
南郷さんが、良く判らないながらも、不憫そうな視線の中に、リア充しねみたいな成分を、ちょっぴり混ぜた感じで、こちらを眺めている。
その視線、嫌すぎるので勘弁して下さい。
とはいえ、丘力居さん、20代後半程度に見える、黒髪長髪の色っぽいお姉さんだから、色々となんか、虜という言葉にドキドキする部分もあるのですが。
「あー、じゃあ。 話を詰めるのは任せるから」
と、上司から、サクっと丸投げされた。
結局のところ、以前に遣り取りをしていた村に、取引用と緊急時の備蓄分の物資を起き、一時避難の受け入れも可能な、暫定非戦地帯とする事にしました。
あとは賊に対する処置の共同や、傭兵契約っぽい事も視野に入れてみた同盟を、上司である普通の人と、虜と言いつつ目付としか思えない丘力居さんの了解を貰って、蹋頓さんと結びました。
こんなにアッサリと、この件が収まるのは、普通の人のワンマン過ぎる組織形態と、皆がこの先の混乱を感じており、話で決着が付く所では、敵を作っておきたくないと思っているからなのかもしれない。
そんなこんなをして、二ヶ月程が経ったある日、趙雲さんがやってきた。




