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まあ、考えた結果……現状維持、そのままにするという答えに。
実際に死ぬ訳じゃなし、こんなダイブシステムの中か、二次創作の中ででもなければ、病んでくれる程に異性に思われる事も無いわけで。
他の大多数のプレイヤーには味わえない、特権みたいなものだと理解することにした。
「それでは!! 現状維持でいいのだな!!」
無駄に渋くて威圧感のある声で、最終確認を求めてくる髭マッチョ、もとい卑弥呼。
「構わない!!」
気合いを込めて返答する。
「エロタイトルの設定変更の確認承諾に、そんなキメ顔をされてものう」
ほっとけ!! どうせ一ちゅーねん!!
「では、時間を戻すぞ」
笑いを含んだ卑弥呼の声が遠くなり、周囲に音が戻り始める。
「そして、修羅場復活と」
胸を張る趙雲さんと、角が見えんばかりの笑顔で睨む白蓮さん。
かなり怖いが、ここを乗りきれなくては先が思いやられる。
「星殿。 これより、兵の内100を預けます。
工房と厩舎から、優先で装備と馬を受け取り、調練を施して下さい。
この先、部隊の規模は大きくなっていくでしょうが、その核となすべく宜しくお願いいたします」
「御意」
「白蓮殿は、引き続き補佐をお願いいたします。
「了解だ、主殿」
で、暫く時間を進めていくと、再びの税収。
人口も増え、実収入も結構な上昇率を維持している。
「人口こそ4000程度とはいえ、これは総て就労人口の上、軍政は完全な常備軍システムですか」
「施設のアップグレードによる効率も考えれば、この先は事実上の小規模地方都市レベルの生産力を持てるぞ」
「副官だと、メタな発言が増えますな、白蓮殿」
「雰囲気重視がよろしいのであれば、設定から副官の発言設定を変更してくれ、主殿。
表現精度スライダーを具体的から抽象的側へ、修飾レベルスライダーをメタから雰囲気重視へ移動させると、それらしくなる。
ただし、慣れるまでは数量などが掴みにくいだろうな」
具体的側とメタ方向へ一杯に動かしておこう。
「ふむ、主殿は俗に内政屋と呼ばれるプレイヤーの傾向があるな」
さいですか。
「僅かな数値の増加も喜びにするタイプでなければ、この設定は中々しないぞ」
「そういう所は否定できませんな」
「それで、これからどうするんだ?
ダイブリミットの一時間迄には、まだ少々の余裕があるが、外史の再JOINまでのディレイタイムはそろそろだぞ」
身も蓋もない程にメタなことを。
「時間一杯まで使って、劉備殿達にも仕事を振っておきたい所ですが」
これ以上に修羅場が増えると、少々気が重いな。
なんてことを考えていると。
「ふう、主殿の心配は、少々自惚れが過ぎるんじゃないか」
白蓮さんに呆れられた。
俺は頭の中が読みやすいんだろうか。
「……そうですか?」
ヤンデレ風味の人に言われると、余計にキツイなぁ。
「主殿、その目付きは、ちょっとカチンとくるぞ。
とにかく、桃香達なら、そういう懸念の心配はないさ」
ちょいと眉間に筋立てて、白蓮さんが、そんな事を仰る。
一応、指輪受け取ってくれたから、認められたんじゃないのかね。
「ほう、それはまたどうして」
疑問を返してみる。
「あいつは夢にこだわるからなぁ。
あれといい仲になりたかったら、あいつの夢に馬鹿みたいに付き合ってやるしか無いと思うぞ。
でも、主殿はそういう風じゃなく『桃香の夢への導き手』って事で認められたんだろ?
それじゃ、アイツに色恋感じさせるのは難しいだろうなあ」
なるほど、北郷一刀ばりに、外史の一周付き合って初めて、やっとこ恋愛って事だな。
「となると、セットの関羽さんも?」
「だと思うぞ。
話を聞くと『桃香の夢を叶える役に立つだろう期待』って感じで、主殿を見てるみたいだし。
多分、桃香の思いが叶い始めて、色恋に目が向くようになって、初めて主殿の気分に気が回るって事になりそうだな」
「気の長い話になりそうですな」
「もう、あれじゃないか? 治安維持の巡回がてら、拠点を回って貰って、その魅力で民の心を掴んで貰えば、治安も安心、桃香も満足ってことになるんじゃないか?」
「なるほど。
ここの治世を見て貰っているうちに、先生扱いから、夢を叶えるパートナーにってことですな」
「私としては、そのまま忘れて貰う方が良いんだけどな」
「あはははは、ところで、劉備殿と関羽殿がそんな具合だとすると、張飛殿はどうなのでしょう?
同じようにセットで動かすほうが宜しいのでしょうかな?」
あからさまに話を変えたので、じっとりした目でこちらを見なさる白蓮さん。
それでも、暫く考えこんでのち、答えを返してくれた。
「張飛はなぁ、大義よりも家族大事って感じに思えるんだけどな。
それに世の中の見方は、あの三人の中では一番ドライだと思うしな」
「あー、なるほど」
「というか、主殿。 あれは犯罪臭が漂うぞ」
「いやいやいや!! 流石に、そういう風には見てないから!!」
思わず、ロールプレイ用の補正がすっとんで、素が出たわ!!
「それならいいが、一応言っておくとだな。
戦争での殺戮行為のリアリティ制限解除、アダルト規制の解除等々には、賞罰の履歴を参照されることが有るし、ダイブシステムの中だからと、あまり酷いハラスメント行為があると、アカウント剥奪の上に記録されることもあるので注意だぞ」
「前科なんてないし、んなことする予定もないから!!」
いかん、落ち着け。
すーはーすーはー。
よし、OK!!
「話を戻しますが、白蓮殿には張飛殿はどう見えますかな?
劉備殿と別に扱っても大丈夫でしょうか?」
「今の桃香たちと一緒にしておくと、疎外感を感じるんじゃないか?
むしろ、こちらで構ってやり餌付けして……ああ、一人前の大人扱いしてやるのもいいな。
一旦、身内と認められれば、良く従ってくれるだろうな」
白蓮さんが黒いです。
「なるほど……。
あ、大人扱いといえば確か……」
ポイントショップで外見年齢を変えるアイテムがあったな。
えーと、バストアッパー違う、サイズダウナー違う……。
あ、メルモ玉(赤・青)各LV1・LV3・LV5・LV10。
これか。
え? 永続メルモ玉(赤・青)各LV。
青でレベル分の年齢を成長、赤でレベル分の若返り。
通常版の効果期間は1日、永続版は対抗色でレベル分戻さない限り永久に効果が継続。
ん? 年齢についての注意?
注意:年齢操作の範囲についてはキャラクターごとの限界値があり、それ以上には変化しません。
また、年齢操作による能力変化もありません。
キャラクターのパーソナルについての変化は、違和感のない程度に影響されますが、交流の中での変化が優先されます。
また、若年への変化により、規制の範囲が変わる事も、ご了承下さい。
ああ、ア○ネスさんがやってくるんですね、判ります。
こいつ使って、張飛を大人張飛に……あんまりイメージ湧かないけど、興味はあるな。
多分、スタイル的には残念な事に、なりそうな気もするけど。
「とりあえず、劉備殿と関羽殿は、セットで動いて貰いつつ、張飛殿は此方で動いてもらうと。
それでは、少し話してまいりますので」
「ああ、ここは任せてくれ」
ということで、劉備さんの私室です。
「桃香殿、少し宜しいですか?」
「あ、はい 少し待って下さい」
少し待って、招かれた所で、関羽さんが居るのに驚いた。
「愛紗殿も此方においででしたか」
「満腹殿に頂いた書を、桃香様と読み込んでおりましたので」
関羽さんは相変わらず、指輪を受け取って貰えたとは、思えない感じの堅い反応……。
「あ、あの先生、お茶どうぞ」
あ、劉備さんが空気読んだ。
何気なくも、成長しているのか。
お、桃の香りがする、意外にお茶美味いな。
「どうですか?」
胸元にお盆を抱え、此方に笑顔で感想を求めてくる劉備さん……天然っぽい所が抜けて、凄まじい威力を感じる。
そして、小さな盆では隠せざる、胸元の凶器が押し潰されつつ形を変える。
思わず目が其処に釘付けになりそうなのを、理性総動員で動かして体裁を必死で取り繕うと、関羽さんのキツイ視線に意識を向けることで何とか落ち着いた。
「美味しいですな」
「それは良かったです。
あ、お茶菓子も用意しますね」
と言いながらパタパタ走って行った劉備さん……コケた。
見事にステーンと。
「と、桃香様!!」
関羽さんが助け起こしに行くと「ひーん」と鼻を押さえて涙を浮かべる劉備さん。
ところで、劉備さんは全開、関羽さんもチラチラ覗いてるんですが……白いのが。
警戒心と言うか、防御力が低いですねえ。
いや、別に何も言いませんが……あ、スクリーンショット取っときましょう。
「落ち着きましたかな?」
「「はい」」
赤い顔をしている二人を見やり、話を切り出すことにした。
「実は、お二人にお願いしたい事がありまして」
「なんでしょう?」
警戒心が見えるのはどうかと思うな、関羽さん。
「実は、この街と周辺地域を巡回し、何か困っている者がいれば、手を貸してやって欲しいのです。
税収から、500ポイントの予算を組みますので、桃香殿の思う通りにして頂いて結構です」
「え、えへぇええーっ!!」
びっくりして固まるのはともかく、どこから声出してるんだか。
「私も出来るだけの事はやっている積もりですが、目の届かない部分はどうしても出て来るもの。
其処を桃香殿に助けていただきたい。
この経験は、桃香殿の夢にも役に立つ筈です」
キリッと魅力に運を161ポイント突っ込んでブースト。
「あ、わ、私の為に?」
「違います。 民と私達の夢の為です」
「あ……」
ポロポロと劉備さんの瞳から涙が零れて行く。
「私、嬉しいのに、なんで泣いちゃってるんだろう。
こんなに早く夢が」
「違いますよ、まだまだ一歩を踏み出した所なのですよ」
とかやってると、ウルウルきてる劉備さんの横で、関羽さんも「桃香様……」と目を赤くしている。
実は思ったよりチョロかったりするのだろうか。
「では愛紗殿、桃香殿を宜しく補佐願います。
桃香殿、宜しくお願いいたしますぞ」
「はいっ、頑張ります」
「御意!!」
と、いうような二人に見送られて、外へ。
しかし、なんで二人一緒に居るのやら。
更に言うと、張飛さん抜けてるし、話も出なかったな……次は張飛さんとこに行くか。