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 さっそくマイ外史に入ると、ガクッと居眠りから覚めたような感覚の直後に、懐かしい風の匂いを感じた。


「ああ、なるほど。 イメージが普通の人の拠点だな」


 ついさっきまで、外史の中で働いていた職場にそっくりで、妙な安心感がある。

 ただ、自分が太守的なポジションに居るのが、変な気持ちではある。


「基本的にサブ体質と言うかNo.2気質なんだよなあ、俺って」


 中高で学級内の委員決める時に、自薦他薦から外れてラッキーを願うよりは、内申と影響力と実務の兼ね合いを見て副委員長に自薦するような。

 あれ? ちょっと違うか。


「えーっと、現在の状況はっと」


 意識を浮かせて俯瞰モードに入る。

 眼下に離れていく、プレイヤーキャラのおっさんアバターが自律行動を始め、トコトコと拠点の執務室に入り、ペタコンペタコンと決済の判子を押し始める。

 周囲の施設では顔に影の入った、おっさんアバターA・B・Cみたいなのが、兵士や文官に指示出しをしている。

 これが、人物の割り振りしてない場合に、プレイヤーキャラの能力コピーが用いられるという意味か……華がねえ。

 ただ、能力の反映か、施設が地味に工事で拡張されていくのを見るのは妙に楽しい。

 なるほど、FAQの内政プレイ云々というのも、判らなくは無いな。

 自律行動中は、外史中と同じく時間が加速するらしく、しばらく見ていると、施設などの拡張も落ち着いたようだ。

 というか、これ以上は何も手を加えず、能力の割り振り分だけでの限界ということか。


「ふむ、まずは普通の、いや、白蓮さんに会いに行くことから始めるか」


 俯瞰モードを中止すると、上空からおっさんの姿に重なるように、視点が落ちて行く。

 重なる瞬間、意識がふっと遠くなり、次に目を見開いたときには、自分の目として、筆を持つ手が目に入った。


「さて、行くか」


 拠点の一角に、人物の私室が連なる棟がある。

 一度、人物の部屋を訪れることで、その人物をマイ外史内で活動させることになる。

 また、ここを切り替えると、学園シチュとか、オフィスシチュなんかで、れっつえんじょいができるようだが、今はいい。

 入り口に立ち、人物を念じつつ、一歩を踏み出すと、扉の前に立っている。

 この部屋が公孫伯珪、白蓮さんの私室だと感じ取れる。


「白蓮殿、今よろしいですかな?」


 声を掛けて暫し待つ。


「少し待ってくれ……」


 声が返って来て更に暫し。

 扉が開いて、白蓮さんに迎え入れられた。


「それで、どうしたんだ?」


 椅子を勧められ、茶を目の前に頂く。

 女性の所作っていいよなぁ、とかなんとか、ぼうっとしている所で、白蓮さんから話を切り出してくれた。


「ああ、すみません。

 実は、白蓮殿にお力をお借りしたく」

「かまわないぞ!!」


 うぉ、ビックリした。

 即座の超反応、しかも身を乗り出すようにしてくるものだから。


「ぱ、白蓮殿?」

「そ、そんなに驚くことか?

 べ、別に、ちょっと暇だから手伝ってやるってだけだぞ」

「いや、そんな、無理にキャラを作らなくても」

「無理って言うな!!」


 キャラって言葉はスルーなんだな。

 しかし、なんでツンデレ風味になってんだろう。

 でも、そんなのも、妙に可愛らしく見えるのは……。


「ああ、なるほど、肩の力が良い感じに抜けておいでだ」


 頑張りすぎな硬い感じが抜け、余裕の分だけ、普通・地味さ加減が、安堵感・其処にあるべき空気感とでもいう、包容力にも似た女性らしい雰囲気に代わり、こちらへ新しい魅力を伝えてきている。


「そうか、自分では変わった気はしないんだけどな。

 多分、お前に頼れば良いって、判ったからじゃないか?」

「そう言っていただけると光栄ですな」


 はははと笑うと、白蓮さんが、すっと視線をそらし頬を染める。

 やべぇ、すごい自然に可愛い、普通の人最強すぎだろ。

 メーカー頑張りすぎじゃないだろうか。

 AIとかちょっと信じられない。

 劉備さんやら関羽さんやら趙雲さんには、あり得ざるような魅力を感じはしたが、こうも自然で魅力的な人物を人の手が創りだすとか……いや、落ち着け俺。

 そういう理屈っぽいのは、ポイしておけ。

 うん、OK。

 俺はメーカーの罠に踏み込んで、嵌ってのめり込むのだ

 よし、覚悟完了。


「それで、白蓮殿にお願いしたいのは「なあ、」はい?」

「その言葉遣い、何とかならないか?」

「はあ、しかし」

「ここじゃ、お前の方がって、私もどうにかしないといけないか」

「そうですね」


 顔を見合わせて、二人で苦笑。

 呵々大笑できないのは、苦労性やら貧乏性がこびりついてるせいだろうか。


「では、白蓮殿。 私の補佐をお願いしたい」

「了解だ。 任せて貰おう……主殿」


 ちょっと恥ずかしそうにする白蓮さんに手を差し出し、了解をもらった。


「なあ、ご主人様とかの方が良いんだったら「いえ、主殿で十分です」そうか」


 なんで、落ちをつけようとするのか。




 さて、そのまま連れ立って、二人で拠点の執務室へ。


「で、私は何をすればいいんだ? 主殿」

「白蓮どのには、全体としての補佐をお願いします」

「分かった。 じゃあ、何から手をつけるべきかだな」


 白蓮さんが資料を手にフムフムと頷き、なるほどと納得を繰り返すこと数回。


「現状、税収から足が出ない範囲での拡張は終わっているようだ。

 流石は主殿、優秀だな」

「随分と過酷な職場で鍛えられましたからね」

「確かに、よく平気で過ごせていたと思うな……今から戻れと言われたら泣くぞ、私」

「「はぁ」」


 あまり気にしないことにした。


「これ以上の施設の拡張については、収入に足が出るのを覚悟で行うか、余裕ができるのを待って行うかだが。

 むしろ、現状の施設の外へ、新しく縄張りを広げるべきだろうな」


 ですよね。

 初期の施設だけでは、人の増え方も鈍ってきてるし。


「とりあえず、付近に村を開拓して人口と税収の底上げ。

 ある程度の規模になった所から、新規の農地を利水の良い所に固めて配置。

 河口に港、街道に宿場と馬駅を置いてマップ外に連絡、物資の過剰や不足を取引でバランス取れるように。

 山林に切出し小屋、炭焼き場、「ちょっとまて、」うい?」

「それを一刻にやるつもりなのか?

 どうしたって、税収で賄いきれる規模じゃないだろ。

 予約にしたって、優先順位を決めてやらないと上手く回らないぞ」

「白蓮殿のご懸念は確かに。

 ですが……」


 確かに、マイ外史の施設の設置は、アイテム扱いの代物以外は基本、税収の範囲の中でやりくりしていき、税収が伸びた都度、新しい施設なり開発を行うもので、ポイントを持っていても、なかなか開発には反映しづらい。

 だが、時たま見つかる金山銀山は、一時の税収を底上げして、開発スピードを上げてくれるものであり、それ自体は購入できるアイテム扱いのシロモノであるので。


「金山が100もあれば、問題はないと判断しますな」


 ポイントショップで、金山を100購入、5万円なり。

 金山:購入5000ポイント、一回の税収時に500ポイントの増加。 15回のポイント出力で消滅。

 銀山:購入3000ポイント、一回の税収時に500ポイントの増加。 7回のポイント出力で消滅。


 ついでに、拠点に「高名な料理人」「高名な厨師」「味覇王料理会加盟店舗」を購入して配置。

 味好酒保、菊下楼、味覇王料理会加盟店が出現。

 各5000ポイント、差はメニューによるもので、料理人は独創的かつ家庭的な料理・厨師は四川押しのやや高級なコースだが、奇抜なものも多い・味覇王料理会は、なぜか辛味が控えめになっているが、オーソドックスかつバリエーション豊富。

 どれも、拠点や兵の食事のバリエーションが増え、拠点に人を集め、満足度や士気を底上げする。

 更に「三国服飾店」「社練皮革具店」購入、タイアップなシロモノだが、プレゼント用の品物が増える。

 あとは、工房やらなんやらが出来てから、親方系のアイテムも購入することになるだろう。


「なんというか……身も蓋もないな」

「身も蓋もないついでにこれを」

「……」


 能力UP系の最上位+15を5種類渡す。

 凄く普通の剣、軍配がわりの鉄扇、巻物2種・銀のピアス。

 各150000ポイントとか、割とトチ狂っている気もするが、自分と白蓮さんで計10個、15万円なり。

 ちなみに、これで白蓮さんは、アイテム無しの素の華琳様に若干下回るってレベルの能力値になり、俺はオール55。

 ただ、そのまま信用していいのかは、かなり微妙。

 アイテムの説明とか見てみると、能力値上昇の効果は、キャラクターについては、パラメーターUPそのままの効果が出るが、プレイヤーについての能力の増加分は、ベースで判定したあとの追加効果分という説明になっている。

 例えば一騎打ちの技量については、ベースの40で判定されたあと、追加分の+15を含めた55でダメージ発生といったように、武力の増加分は攻撃力にしか反映されない様子だし、純然たる能力UPと思ってると足元救われるかもしれん(運の消費によるパラUPもベース基準だと思われる)

 他にも、騎馬適正上げる鞍だとか鐙だとか、名馬だとか、遠距離適性系統の名弓だとか、雑多な個人用装備とかもあるが、そのへんは軍勢ができてから考えよう。


「ど、どうかな? 似合うか?」


 ピアスつけてみた白蓮さん……赤毛ポニーにシンプルだけど印象的な銀のピアス。


「イイ」

「そ、そうか。 イイか。

 ワタシモイイトオモウゾ」


 だめだー、なんで、こんなベタなドキドキがー!!

 絵面は、援交オヤジ一歩手前の犯罪っぽいのになぁ!!

 二人してドモッたり黙り込んだりしていると、女官だの文官が決済を積み上げに来たので。


「「仕事するか」しましょうか」


 とりあえず、先送りにしておいた。




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