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窓際魔導士の溜息  作者: 桐条
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09. 忙しない双子(2)

 ナズナの足下には、軽く焦げたルミナスが床に伏している。


 おそらくルミナスが自分に触れたことで電撃の魔術が発動したのだろう、突然の、思いがけない展開に、ナズナは呆然とした。ルディアは「あらまぁ〜」と呑気な声を上げているが。

 イルネスは呻き声を上げる弟を一瞥し、黒いオーラを背負って底冷えする笑顔を纏うと、腕を組んでナズナに向き直った。ちなみに目は全く笑っていない。


「ナズナ、君はそんなに僕たちと会いたくないのかな?」


 どうして魔術が、と頭の中を疑問符だらけにしていたナズナは、絶対零度の声で敬称なしで呼ばれ、撃たれたようにハッとした。


「いや、電撃喰らわせるほど会いたくないわけじゃないけど」

「そう…じゃあそれなりには会いたくなかったってこと」

「待った、そうじゃない。今回は仕事のついでにヒルビアというかルディア姉さんのところに寄ったのであって」


黒狼衆(ブラックウルブス)へは顔を出すと長くなるから別の機会を設けて訪ねるつもりだった、と言い募ろうとするも、


「ふぅん、あれだけ目をかけてあげたのに。 ルディアさんへは顔を見せに来ても、僕たちは会いにくる価値もないってこと。本来なら時間の隙間を見つけるなり作るなりして奉仕すべきだと思うんだけど?」

「っ…、色々と、世話になったことは、感謝してる。 だけど、……」

「だけど?」

「………」


 イルネスの正論に遮られたナズナは、言葉に詰まりつつも弁解をしようとした。しかし、その先は、続けることが出来なかった。


 この世界に来てから、右も左もわからなかったナズナの面倒を見てくれたのは、イルネスたちが所属する黒狼衆(ブラックウルブス)だ。ナズナは言い表せないほど感謝しているし、当然その恩は何らかのかたちで返さなければとも思っている。だからイルネスの言うことも、尤もだと感じる。

 しかしナズナの心は、一刻も早く元の世界へ帰らなければと、いつだって、どうしようもなく焦っているのだ。不義理かもしれないが、ナズナの最優先事項は恩義ではなく、帰還である。それを変更するつもりは、全くといっていいほどない。

 ナズナはこの自分本位な言い訳を、イルネスにすることは出来ない。イルネスはナズナが異世界人であることを知らないし、なにより言い訳はどんなに繕おうと、言い訳にしか成り得ないのだ。

 ナズナは自身のあまりの身勝手さに、なるほど確かに薄情者だと内心で自嘲の笑みを零した。


「もういいです。 これからはもっと頻繁に訪ねてくること。いいですね?」

「…はい」


 俯いて黙りこくったナズナをじっと見ていたイルネスは、小さく溜息を吐くと放っていた黒いオーラを収め、有無を言わせぬ声音でそう告げた。精神的に疲れてきて、イルネスに反論する気力が絞り出せないナズナは、肯定するしかなかった。


「さて、だらしなく伸びてるそこのを回復させてくれませんか? 頭中心に」


 なかなか失礼な言葉だよなと思いながらも、ナズナは素直に従うことにした。頭中心という要望なので、ルミナスの額に手を置いてまじない言葉を唱える。


「全体回復」


 ルミナスの全身が一瞬白い光の粒子に包まれる。

 ナズナが唱えたのは、精度や効力は低くなる大雑把なまじない言葉だが、大体の痺れと痛みを取り除き、体力と気力を回復する程度なら充分である。なによりルミナスの基礎体力は人並み以上なので、過剰な回復は逆に疲労になりかねない。


 ナズナが回復魔法をかけたのを確認すると、イルネスはもう用済みとばかりにルミナスから離れることを命じた。特に反論もないので、ナズナはまた素直に従った。

 直後勢い良く伸びをしたかと思うと、顔をゴシゴシ擦りながらルミナスが起き上がった。


「うぁー、よく寝た」

「おはよう。あの状態でそんなこと思えるのはルミナスくらいだよ」

「あっ!そうだよ! なんなんだよあの電撃!!」


 ナズナに猪の如く詰め寄るルミナスを、イルネスが襟首摑んで犬の如く引っ張りナズナから遠ざける。


「ちょっと待ちなさい、ルミナス。 ルディアさん、ナズナさんを視てもらえますか」

「はぁい、了解よん。さぁさ、ナーちゃん、ちょ〜っとこっちにいらっしゃ〜い♡」


 いつの間にかテーブルに戻りニコニコと終始を見守っていたルディアだったが、イルネスの言葉にハッとすると途端ウキウキしだした。手招きしつつも「くふふぅ〜♡」と怪しげな笑いを漏らすルディアに、ナズナは思わず眉を顰める。


「なんなんですか、ルディアさん」

「いいからいいからぁ、ほら早くぅ〜」


 妙に押しの強いルディアと冷ややかな空気を送ってくるイルネスに背中を押され、ナズナはテーブルを挟んでルディアの前に立った。ルミナスは訳が分からないと言った顔をしながらも、心配そうにナズナを見ている。


「それでは視まぁ〜す!ナーちゃん、動いちゃダメだよぅ〜」


 そう宣言すると、ルディアはテーブルに置かれていた水晶をヒョイッと持ち上げた。水晶越しにナズナを頭からつま先まで視ていく。途中「はい裏ぁ〜」と指示を入れ、後ろを向いたナズナをつま先から視上げていった。


 少ししてルディアは「あっ!やっぱりねぇ♡」と謎の台詞を言った。


まだ続きます。

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