台風コロッケ
【「台風コロッケは流石に有名でしょw」と思った方にお知らせなのですが、台風コロッケの初出は2001年のため大体の大学生は生まれていません】
という投稿をTwitterで目撃してたいへん衝撃を受けたので書きました。
エッセイの形式をとっていますが創作です。うちの近所には西友はないし私はアラフィフのおっさんではありません。コロッケはおいしいです。セブンのやつが好きです。
今週もまた、デカい台風が来ると天気予報で言っている。
テレビのキャスターが鉄道計画運休の予定を読み上げ「不要不急の外出は控えろ」などと言っているのを見ながら、俺はキーボードを叩く手を止めて、近所の西友までひとっ走りしてきた。
もちろん、目的は総菜コーナーのコロッケだ。
令和の今となっては、Twitter(現X)でも当たり前のようにハッシュタグ化され、なんならスーパーの総菜売り場に「台風接近中!コロッケ買わないと!」などとポップまで立つ始末。
すっかりマスメディアや資本主義に回収された感のある「台風コロッケ」だが、俺のようなアラフィフの元ねらーからすると、なんとも言えない奇妙なノスタルジーを搔き立てられる。
2001年8月21日、大型台風が接近する中、巨大掲示板「2ちゃんねる(現・5ちゃんねる)」の防災実況板、台風11号の上陸を実況するスレッド「【台風11号パブーク】上陸秒読み実況スレッド 14号」に書き込まれたこの投稿がすべての発祥だった。
> 111 :こちら横浜:2001/08/21(火) 13:10 ID:V2iqkNlA
> 念のため、コロッケを16個買ってきました。
> もう3個食べてしまいました。
今見れば、ただの、なんてことのない書き込み。
それがなぜか当時の殺伐としたねらーどものツボに入り、「おまえ買いすぎ」「俺も買ってこよ」と雪だるま式に祭りが巨大化していった。
当時の2ちゃんねるは、今のSNSのようには洗練されていなかった。お世辞にも上品とは言えない、社会の掃き溜めのような場所。
でも、そこには確かに「名無しの群像劇」があった。
当時はスマホもWiFiもなかったし、ノートPCだってそんなに普及していなかったから、台風が来たらデスクトップPCの前に張り付くしかなかった。
外では「ゴォォォ」と風が鳴り、いつ停電するかわからないスリルのなか、CRTモニターの放つ怪しい光に照らされながら、実況スレの激流(1000が数分で埋まるアレだ)を眺める。
画面の向こうにいるのは、どこの誰かも知らない、年齢も職歴もバラバラな奴ら。
そいつらが一斉に「コロッケうめえwww」「もまいら避難白www」などと書き込んでいる。
社会からはじき出されたような孤独な夜でも、あのカタカタと響くキーボードの音と、スレッドのAAの向こうには、確かな「仲間の気配」があった。
祭りに参加している間だけは、世界の終わりみたいな嵐の夜が「友と楽しむ最高のエンタメ」に変わったんだ。
買ってきた特売のコロッケに、ソースをかける。
ザクっとした衣の食感と、安いジャガイモの甘味が口に広がる。
正直、レビューサイトで評されるレベルの感動はない。
だが、それでいい。こういうのでいいんだよ。
今やソーシャルネットワークは2ちゃんねるではなくオシャレなSNSになり、かつてのねらーたちも結婚して親になったり、あるいは相変わらず部屋の片隅でネットの海を漂ったりしているのだろう。
はしゃいでいるうちに20歳以上も歳を取っている事実。
SNSで「台風コロッケ♪」などと「映える」写真を上げている若い子たちは、2001年のあの香ばしい空気なんてこれっぽっちも知らずに楽しんでいる。
「文化の私物化乙」なんてひねくれたことを言うつもりは毛頭ない。
名もなき一人の投稿から始まったバカげた悪ノリが、20年以上の時を越えて日本のスタンダードな風物詩になった。
むしろその事実が、なんだか少しだけ愉快じゃないか。
外はそろそろ風雨のピークらしい。
俺は冷えた缶ビールを開け、昔馴染みのブラウザを「よいしょ」と立ち上げる。
今夜もまた、SNSで流れてくるコロッケ画像を眺めながら、あのとき画面の向こうにいた名無しさんたちと、生存確認のコロッケを齧る。
> 1001 :1001:Over 1000 Thread
> このスレッドは1000を超えました。
> もう書けないので、大人しくコロッケ食べて寝てくださいです。。。
資料確認とか言いつつみみずんで過去スレを読んでいたら時間が溶ける溶ける……
あの頃は、あれはあれで楽しい文化でした。




