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それでも彼女は世界に問い続けなければいけない

時間はいつだって平等で、そして容赦がない。


 気づけば小学生になっていて、気づけば中学生で、いつのまにか大学生。そんな感覚を抱えているのは、きっと私だけじゃない。


 だけど——私は少し「時代の特別枠」だった。


 世界を止めた出来事。


 本来の大学生活はどこかに消えた。キャンパスに通うのは最低限、授業はリモート。課題を出して、決められた時間にテストを受けるだけ。そこに“青春”と呼べるものを差し込む隙間なんてほとんどなかった。


 私を救ってくれたのは動画サイトとSNSだった。


 皮肉なことに、大学の友人よりも、名前も顔も知らないネットの友人のほうが圧倒的に多くなっていった。毎晩のように通話して、くだらない話に笑って、なんとか自分の居場所をつないでいた。


 本当は下宿しなくても良かった。全部リモートなんだから。


 アパート代だって無駄だと親に話した。でも親は言った。


「一人暮らしも勉強だから」


 そう言われて、私はそのままひとりの部屋に残った。


 気づけば大学3年生。


 世界は少しづつまた動き始めたけれど、時間が経った結果、現実に迫ってくるのは就活だった。


「……私、社会人になれるのかな」


 暗い部屋で光るモニター。


 インフルエンサーたちは今日も高いテンションで“自分”を語っている。


 私はその画面を眺めながら、課題をやって、お酒を飲んで、煙草を試してみて——気づけば何もかもが虚ろに思えていた。


 大学生になれば、もっと特別な毎日が待っているはずだった。


 高校時代、あれだけ勉強を頑張ったのもそのためなのに。


 私の部屋には一冊の「自分」という本がある。


 その本には欠落したページがいくつもある。


 欠けたページ——それは「青春」。


 いや、「大学生活」という章ごと抜け落ちているのかもしれない。


 暇になると、その本を開こうとする。けれどページはない。


 語るべき思い出も、胸を張れるエピソードも、どこにも無い。


「これって……悲しいのかな」


 雨の夜、窓を開けて音を聞く。世界の色は変わらないのに、自分の目だけが灰色に染まっていく。光も闇もない、ただのグレー。


「白黒つけてくれたらいいのに……」


 もやもやはイライラに変わる。誰かを攻撃したら発散できるのかもしれない。他人の“正義”に乗っかって戦えるのかもしれない。


 でも——。


「私、そんなに器用じゃないんですよ」


 そう呟いて、またモニターの光に戻る。


 お気に入りの配信者の声を流しながら、安い夕食にかじりつく。


 そしてふと思う。


「それでも私は、世界に問い続けなきゃいけないのかな」


 灰色のままでも。


 ページが欠けたままでも。


 問い続けることだけは、きっとまだ手放しちゃいけない。

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