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音の倒し方

 昔、この国にはひとりの奏者がいたらしい。

その奏者は「音の王」と呼ばれる存在を打ち砕き、世界に一時の平穏をもたらした。


「……でもさ、本当に不思議だよな」


 子どものころから何度も聞いた話なのに、どうしても腑に落ちない点がある。


普通の物語なら、響き渡る“音”が正義で、

“静寂”のほうが悪の象徴になるはずだ。


その疑問を彼女に話すと、彼女はコーヒーを混ぜながら苦笑した。


「設定なんてね、“勝ったほうが正義”に書き換えられるだけよ。

あとで偉そうに名乗ったほうが“音の王”にも“正義”にもなるの」


 彼女の言う通りだった。

音は強い。強く響くし、世界を揺らすこともできる。

でも、音は続けるのにエネルギーがいる。


一方、静寂は——何もしなくてもそこにある。


部屋の電源を全部落とせば、勝手に静かになるように。

押し入れの中は、誰も手を加えなくても静寂の支配だ。


「だからね、“音の王”を倒せたのは、静寂のほうが本質的に強いから。

長く続くのは、いつだって音じゃなくて静けさなの」


 なるほど、と俺はようやく腑に落ちた。


世界を支配するのは派手な音じゃなく、

“何もしなくても続くほう”。


そう思いながら、つけっぱなしだったゲーム機の電源をそっと落とす。


カチッ。


部屋から音が消えた瞬間、

この世界の本当の王はどちらなのか、よく分かった。

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