第一話 家族
ここステファニー家に生まれ、早一年が経った。父も母も国の仕事などで忙しい中、召使いなどにほとんど頼らずかまってくれる。本当にいい親だと思う。それにしても、やはり女の子というのは素晴らしい。まあまだ一歳という若さ、かわいいかわいいと愛でられるのも、当たり前と言ったら当たり前なのかもしれない。
「プリマヴェラはほんとにかわいいんだから♡」
「ほんと、お母さんに似てよかったな。」
前世で私の親は昼間はほとんど働いており、幼少期もベビーシッターと過ごす時間のほうが長かった。これがいわゆる親バカなのだろうか。それにしても、やはり幸せだ。
ーー
あれから四年が経ち私は晴れて五歳となった。この国ではこの年になるとさまざまな教育が始まるという。
私は父に剣を、母に魔術を、また一般常識や読み書き、ほかの学問はそれぞれ教師がつくという。
「ほんとにすごいです!姫様!」
どうやら私は人一倍物覚えがよく、一般常識、読み書きに関しては一月もかからず基礎を完璧にすることができた。ここで勉強して分かったことは、この国はどうやら血のつながりよりも添い遂げる相手、つまり夫や妻のことを第一に考えるらしい。あの二人が子育て中ずっと一緒にいた理由がなんとなくわかった。王族だからできることなのだろう。これはステファニー王国の多くが信仰する、リスト教の教えだという。この教えを守るために、召使いなどを雇えない貧困層は、子供を授かることさえ難しいという。だがやはり、家族というものは素晴らしい。リスト教の教えには他に、夫婦の間に生まれた子供は、家宝として、絶対に守り抜く、というものがある。成人するまでは家の敷居をまたぐことさえできないらしい。この世界では成人は15歳。つまりあと10年は箱入り娘というわけだ。
ーー
「はぁっ!!」
カキーン、カンッ。ズバッ。
「いいぞプリマヴェラ。お前は本当に力が強いな。」
私は前世と同じように元から力が強いようで、力強く剣を振ることができた。そのためか、自由自在に剣を操ることがそれほどむずかしくなく、すぐに中級の剣技まで身に着けた。
一方、魔術の方だが、
「赤く燃える炎の玉よ、目の前のすべてを焼き尽くせ。フィアンマ・パラ!」
私は思ってしまった。なぜこのような詠唱を行うのだろうか。
「お母さま。すこし魔術はまだ難しいです。本を読んでからでもいいですか?」
「あらそう?わかったわ。あなたは頭がいいから、確かにそちらの方がいいかもね。」
「ありがとうございます!読み終わり次第実技の方、ご指導お願いいたします。」
「ええ。」
しばらく魔術の本を読んでわかったが、はるか昔、確かに詠唱を行わない魔法は存在していた。はっきりいってあんな厨二ゼリフをぺちゃくちゃとしゃべりたくない。炎の玉をイメージしながら、体の魔力の流れを感じて、、ふっ。
「あ!」
母が出した、フィアンマ・パラという魔法。今この瞬間それを確かに私は無詠唱で放つことができた。
ーー
「お母さま!!!見てください!!!!」
母に例の無詠唱魔法を見せる。
「…!?プリマヴェラ、、そう、そうなのね。」
母は何やら深刻な顔をしている。
「あのね、プリマヴェラ、。この世界で無詠唱魔法を使うのは魔物と一部の魔人だけなの。あなたを人間と認めることができなくなってしまったわ、。」
「え?」
私はただ、魔術を頑張りたかった。それだけだった。なのに母に言われたこの言葉。これはどういう意味だろう。とりあえず部屋に返されたが、なぜだろう、父母二人とも毎晩来るのに挨拶がない。
ーー
次の日の朝、広間まで呼び出された。
「プリマヴェラ。お前を城から追放する。」
「お父様、何を言っているのですか?嘘ですよね。嘘だと言ってください!!」
せっかく手に入った幸せを、大事な家族を、こんなことで失いたくはなかった。
「人間は無詠唱魔法を使えないんだ。使ってはいけないんだ。人間でないお前が王位継承権を持っている国など滅びるに決まっている。明日からお前は王族ではない。」
そうして私の幸せは五年で終わってしまった。
ーー
城を出る時に、本を三冊ほど盗んできた。一冊はこの国について、そして残りの二冊は魔術についてだ。これがあれば生きることはできるだろう。まず、この国の通貨についてだ。イェルというらしい。りんごのような果物一つで90イェルほど。だいたい日本円と同じような感覚でよさそうだ。父母の優しさなのか、家を出る前に5万イェルほどを貰ってきた。しばらくこれで暮らせということなのだろう。ただ、この世界には魔物がいる。宿に泊まる程の金はない、そして夜の町は危険だ。私はこれでも幼女である。野宿を半強制的にせまられるこの状況で武器がないというのは致命的だ。まず武器を調達しよう。
「おじさん。剣をください。」
「あ?なんだお嬢ちゃん。剣振れるのか?」
「これでも中級剣士だよ!」
「ほう、確かに。」
この世界ではさまざまな資格試験、階級などを魔術によって直接肉体に刻み込む。それは特殊な器具や魔法を用いて確認することができる。
「これならお嬢ちゃんでも持ち運べるな。4万イェルだ。」
「ありがとうございます!」
「また来な。」
とりあえず武器は手に入った。ただし、残り1万イェル。相当痛い出費となってしまった。とりあえず王都を出て旅に出よう。魔物の確認もしておきたい。
ーー
「あれは、スライムか?この世界にはスライムがいるのか。はぁーーっ!!」
見事スライムのような魔物を討伐した。こいつらがおとすゼリー状のものは回復に使えるらしい。たった今本で確認した。試しに口に入れてみる。
「結構おいしいな。」
次に現れたのはゴブリンだ。こいつらは体がとても固いと聞く。まずフィアンマ・パラで牽制だ。
「はぁっ。」
見事命中し、燃えるゴブリンに隙を与えず懐に入り込む。
ゴブリンは一瞬のうちに真っ二つになった。
「ゴブリンが着ていた毛皮。使える。」
とても暖かい。冬が近づいているいま、寒さに耐えられるものを手に入れられたのはとても運がいい。
ーー
「今日はここで寝よう。」
近くの村に続く森のなかでいい洞窟を見つけたので、今夜はここで寝ることにした。
突如として去った幸せ、始まった冒険。本当にこの五年いろいろあったが、今年は特にひどい。
とりあえず剣と魔術は達するところまで達したい。旅を修行と思い新たな幸せをさがそう。
「…っちょ、誰よ!!あたしの家でくつろぐバカは!!」
知らない声が洞窟の中に響き渡る。
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