第五話 幼馴染との一夜が明けたら……
「お、おい。冗談は止せよ」
「冗談じゃ……」
燈子が潤んだ瞳で四つん這いになり、俺にそう迫ってきたが、本当に本気なのか?
流石にそれはまずい……いくら夢でも限度ってもんがある。
「むう……何でよ。もう何回もしているじゃない」
「な、何回も!?」
俺が後ずさっているのを見て燈子は頬を膨らませながら、衝撃的な発言をしてきたが、何回もって事は俺と燈子はもう……。
(マジかよ……そこまで進んでたのか)
付き合って一年も経っていれば、そりゃそういう関係にもなってておかしくはないんだが、やっぱりショックは大きい。
俺は燈子じゃなくて沙彩と付き合っているのに……既に沙彩との関係はこの世界では過去のものになってしまっているのが、何よりもショックだった。
「あー、そうだったかな。でもほら、今日はあれだよ。ちょっと疲れちゃってさ。はは、また後でいい?」
「疲れたって哲史は今日、そんな疲れるような事してないじゃん。何よ、前はそっちからせがんできてたくせに」
俺の方から?
まあこんな巨乳幼馴染の彼女が居たら、確かにそうなるかもしれないけど、今の俺は沙彩と付き合っているつもりなんだって!
「ねー、良いじゃん。ちゃんとシャワーも浴びたしさ……」
燈子が屈んで胸元をやたらと見せつけながら、迫ってきたが、これはちょっと刺激的……てか、燈子ってこんなにスタイル良かったんか。
胸は大きい方かなと思ったけど、この二年で急成長したとか?
「はは、そのだな……俺も慣れない環境で色々とストレスが溜まっているのかもな。それに近所迷惑にもなるしよ」
「もう、大丈夫だよ。ここ壁は結構厚いみたいだし」
そ、そうだったの? 壁の厚さなんぞ気にもしてなかったが、そうなると逃げ場がない。
「ねえ、哲史~~……んっ」
「んんっ!」
なおも甘い声でおねだりしてきた燈子から逃げようとしたが、逃がさないとばかりに燈子が顔を一気に密着させて、口づけをしてきた。
「んんーーーっ! ちゅっ、んん……はあっ!」
「うう……ああ、もう!」
「きゃっ!」
「へへ、そこまで言うなら、今夜は寝かさん!」
「やーん、やっとその気になったじゃん」
どうせ夢なんだろうからと思い、もうヤケになって燈子を押し倒し、このままやってしまうことにする。
いいんだよな、夢なんだから何をやってもっ!
誰にも言わなきゃバレやしないんだって!
翌朝――
ピピピピっ!
「哲史、早く起きなさい」
「んーー……もうちょっと……」
「何言っているの、学校に遅刻するわよ」
「今日はまだ履修登録だけ……」
「何言っているの、もう七時半になるのよ!」
「うおっ! おい、燈子……へ……ここはっ!?」
急に布団を剥がされたので、また燈子の奴が強引に起こしたのかと飛び起きると、部屋の様子が昨日とはガラリと変わっていた。
いや、この部屋は……。
「ここ、俺の部屋? あれ、母さん、何でここに?」
「何でって、あんたまだ寝ぼけているの? ほら、さっさと支度しなさい。学校に遅れちゃうでしょう」
「学校に……うっ!」
なぜお袋がここにいるのかと首を傾げていたが、一瞬ズキっと頭が痛む。
「あれ、ここって……俺の部屋じゃん! え? ということは……」
枕元に置いてあったスマホで日付を確認する。
「五月……いや、さっきは四月だったよな?」
念の為、スマホで今の西暦を確認すると……。
「おっ、おお……」
も、戻っている……念の為、学園リンクライブのログインをしてみると、ログイン日数がまだ三百日ちょいであった。
「や……やったああああっ! つ、遂に戻ったんだっ!」
やっと夢が……いや、元の時代に戻れたことに感激してしまい、思わず叫んでしまう。
ああ、よかったあ……ずっと戻れなかったらどうしようかと思った。
「それにしても長い夢だったな。まさか、本当に二年後にタイムスリップしていたとか?」
今、思い出しても何もかも鮮明というかとんでもなくリアルな夢だったが、一体なぜあんな夢を?
いくら考えてもわかりはしなかったが、とにかく起きて学校に行く支度をすることにした。
「あ、哲史ー。おはよーっ!」
「あ……よ、よう」
いつものように自転車で学校へと向かうと、燈子が手を振って俺を呼び寄せる。
「今日もおそーいっ! 遅刻しちゃうじゃない」
「うるさいな。一人で行けばいいだろ」
「歩くの面倒なの。へへ、今日もお願いね」
「――っ!」
燈子がいつものように後ろの荷台に座り、俺に捕まると、昨夜の夢を思い出してドキっとしてしまう。
(俺、昨夜はこの燈子と……)
い、一線を越えて……いや、あれは夢だったんだ。
だからどうってことはないはず。夢の中で燈子と何をしようが関係ないんだ。
でも昨日は燈子の体も全部……うおおおっ!
「ど、どうしたの哲史? 何か呻いているけど」
「いや……何でもない」
「そう。ほら、早くーっ! 私まで遅刻したらどうするのよ」
「く……い、いちいち抱き着くな」
「いいじゃん、捕まらないと落ちちゃうかもしれないんだし」
燈子が俺の体にぎゅっとしがみつき、燈子の胸が俺の背中に密着する。
俺は昨夜、この燈子の胸をあんなことやこんなことを……。
「う、くそっ!」
「どうしたのよ? 今日の哲史、ちょっと変だよ?」
「なんでもねえよ。昨夜、ちょっと変な夢を見た気がしたんだ」
「へえ、夢ってどんなの?」
「お前には関係ないな」
思いっきり関係があるんだが、別に燈子に言ってもしょうがない。
まさか、この燈子が関係している訳じゃないよな……流石にそんなことはないと思いなおし、
「きゃー、ギリギリセーフだったわね。あ、沙彩、おはよー」
「おはよう、燈子ちゃん。哲史君も」
「お、おう」
昨日の夢を忘れるように必死に自転車を漕いでいったら、どうにか時間ギリギリに間に合い、教室へと二人で飛び込むと、すでに沙彩は教室に来ていた。
ああ、やっぱり沙彩は可愛いなあ。この子が俺の彼女になったんだよな。
そうだ。あんな変な夢に惑わされるんじゃない。
きっと嬉しさのあまり、あんな夢を見ちゃったんだろう。
休み時間――
「ねえ、哲史。ちょっといい?」
「何だ?」
「昨日さ。沙彩に告白するって言ったじゃん。場所、校舎裏か屋上かどっちが良い?」
「はい? 昨日って……」
休み時間、トイレから帰ってくる途中に燈子が俺に小声でそう訊くが、こいつは何を言っているんだ?
「だから、告白するから沙彩を連れてきてくれって言ったのあんたじゃん。何処で告白する気なの? 時間は放課後?」
「いやいや、お前何を……えっ?」
まさか……え? もしかして、昨日の夢って……。
(沙彩に告白してOKをもらったのも夢だったって事っ!?)
そ、そんなまさか……で、でも確かに俺は沙彩に……。
「どうしたのよ、急に青ざめて」
「き、昨日俺がそう言ったんだな?」
「そうよ。まさかド忘れしたの? 全くしょうがない男ねー。ほら、チャイム鳴ったよ」
まさかの事実に体が崩れ落ちそうになってしまい、頭が真っ白になってしまう。
そんな……じゃあ、昨夜の夢は……てか、どこからどこまでが夢なんだよこれっ!?