第二十二話 気持ちに一区切りつく
「では、始め」
試験監督の合図で中間試験の最初のテストが開始される。
今日の科目は英語と数学だが……一応、かなり勉強したので、大丈夫だと思うけど、沙彩に少しでも追いつけるようになりたい。
まあ、無駄な努力かもしれないが、沙彩に振り向いてもらうにはちょっとでも努力して、テストで良い点を取れるようにしないとな。
「止め。では後ろから回収してください」
「はあ……やっと終わった……」
中間試験、最後のテストも終了し、ようやく肩の力が抜ける。
手応えは……うん、それなりにあったと思う。
過去最高の出来かもしれないが、まだまだ沙彩には及びそうにないので、頑張らねば。
「おつかれー、哲史。どうだった?」
「まあまあかな」
「何それ。あんた、今回はいつになく勉強頑張っていたじゃない。何かあったの?」
「さあな。少しは頑張ってみようかなって、思っただけだよ」
「へえ。沙彩の事かな?」
「私がどうしたの?」
燈子が茶化すような笑みでそう言うと、たまたま近くに居て聞こえていたのか、沙彩が俺達の元へやってきた。
「ううん、テストどうだったのかなって、話していただけ? 沙彩は今回もバッチリだったんでしょ?」
「バッチリっていうか……いつも通りの出来だったかな」
ということはめっちゃ良くできたって事か。
学年でも常にトップクラスだからなあ、沙彩は。
「そうだ、沙彩。今日、三人で遊びに行く約束していたけど、カラオケにでも行く?」
「うん、いいよ」
「じゃあ、決まりだな」
定番ではあったが、カラオケに行くことが決まり、三人でカラオケボックスへと向かう。
三人で遊びに行くの久しぶりな気がするな……最近、訳の分からないタイムリープに巻き込まれたりして、散々だったが、時間の感覚も結構おかしくなっているのかもしれない。
「哲史君はテスト、どうだった?」
「まあまあかな。沙彩は良かったんだろ?」
「うん」
帰りのホームルームが終わった後、三人で歩きながら、他愛もない雑談をしていく。
そうだ、ちょっと沙彩に聞きたいことがあったな。
「沙彩さ、卒業したらどこの大学行きたいの?」
「私? 北海道の大学に行きたいなって思っているの。獣医を目指しているからね」
「あー、前にもそんな事言っていたね、沙彩。獣医さんかー、すごいよね。ウチも猫飼っているけど、何かあったら、沙彩に頼もうかしら」
「そんなすぐには無理だよ」
獣医……そんなの目指していたのか。
だから北海道の大学に行ったのか。
(待てよ、ということはこの前見た二年後の世界はやっぱり……)
本当の二年後の世界なのか?
俺と燈子が付き合うことになって、卒業したら同じ大学に行って即同棲かよ。
そんな夢みたいな展開が現実になっちゃうと思うと恐ろしいけど、やっぱり沙彩をまだ諦めきれん。
とはいえ、まだ失恋したばいだしな……今、告白してしまうのはどうかと思っちゃうし、少しずつ距離を縮めていけばいくしかないか。
「うーん、カラオケもしばらくぶりね。ドリンクは何にしようかなー?」
電車に乗って、カラオケボックスのある町まで行き、三人でカラオケボックスの中に入り、ドリンクを注文する。
出来れば沙彩の隣に座りたいが……燈子も少しは気を利かせてくれないかな。
「あ、ちょっとお手洗いに行ってくるね」
「うん」
燈子がドリンクを注文した後、トイレに行くと言って一旦退出する。
おお、沙彩と二人きりの機会が出来たぞ。
偶然なのか気を利かせたのか知らないが、サンキューな。
「沙彩、あのさ」
「なに?」
「えっと……この前の告白なんだけどさ……」
「――っ! あ、あれは……その、ゴメンね。突然の事で驚いちゃって」
「いや、謝ることはないんだけどさ。はは、俺の方こそさ……その焦っちゃったのかなって」
別に沙彩に謝れるようなことではないのだが、やっぱり彼女にも気を利かせてしまったようだ。
「ほかに好きな人とか居るの?」
「そういう訳じゃないけど……えっと、気持ちは凄くうれしかったんだけど、何だかよくない気分に襲われちゃってね」
良くない気分? 何だろう……まさか、あの燈子モドキの仕業だったりするのか?
「哲史君の事、嫌いになったわけじゃないんだよ。でも、何ていうか……ごめんなさい」
「ああ……良いんだ。俺の方こそ、悪いな。蒸し返すようなことしちゃって」
沙彩は俯きながら、本当に申し訳なさそうにごめんなさいと言い、俺もガックリと来てしまう。
今ので完全に俺の恋も終わったな……これ以上、付き纏ってもストーカーになるだけで、沙彩の心証を悪くするだけだろう。
「帰って来たよー。あれ、どうしたの二人とも?」
「いや、ちょっと曲を選んでいただけだよ。なあ?」
「う、うん」
二人で気まずい気分になった所で、燈子が部屋に戻ってきて、沙彩の隣に座る。
「へへ、何歌おうかなー。あ、この歌、前に動画サイトでめっちゃバズっていた奴じゃん。早速、入れよう。沙彩も知っているよね、この歌?」
「聞いたことはあるけど、良くは知らないかな」
「そう。さあ、試験も終わったし、パーっと行くわよ!」
燈子がさっそく歌を入力し、三人のささやかな打ち上げが始まる。
そうだな……沙彩との恋は終わったっぽいけど、もういい加減、吹っ切れてしまおうか。
「うーん、楽しかったね」
三時間くらいカラオケで楽しんだ後、三人で家路に着く。
何かちょっと疲れちゃったな……はしゃぎ過ぎたのか、失恋でガクっと来ちゃったのか。
「あ、私はここで」
「うん、またねー」
「さようなら」
一足先に沙彩と別れ、燈子と二人きりになる。
「自転車乗せてよ。私、疲れちゃった」
「嫌だよ、上り坂きついし」
「ケチねー。んで、沙彩とはどうだったの?」
「どうって……別に何もないよ」
「何もねえ……告白しなかったの?」
「まあな。でも、もうキリがついたかも。気持ち的にな」
というと、燈子も俺の心境を察したのか、しばらく神妙な顔つきをした後、
「じゃあ、私と付き合う?」
「え? お前と?」
「そうだよ。まだ返事貰ってないんだけど」
何日も保留にしていた燈子への返事をここで催促されてしまう。
どうするかな……いや、もう迷わなくてもいいか。
「そうだな。初めての彼女ってのがどんななのか試してやっても良いかも」
「はあ? 何その返事? 何かムカつくんだけど」
「いや、悪い……えっと、お前の彼氏になりたいわ。どうだ?」
「――っ! そ、そう……うん、いいよ」
そう返事すると、燈子もパアっと明るい顔をし、満面の笑みで頷く。
結局、こうなるのか……まあ、幼馴染と付き合うのも悪くはないのかもな。




